うららかな恋日和とありまして~結婚から始まる年の差恋愛~

神原オホカミ【書籍発売中】

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第5章

第47話

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「で、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないでしょうか?」

 翌朝、にこやかな師匠に起こされて、万葉は少しだけ痛む頭を外気に当てて冷やした。出かけると言っていたわりに、日中は出かける気配の一ミリもない。ゆっくりと過ごし、むしろ庭の木々の手入れまでしてしまうという、のんびりな時間を過ごした。

 そろそろ出かけましょうと言われた時は、すでに陽は傾きかける頃になっており、時刻は十六時を過ぎていた。

「今から行くんですか?」

「そうですよ、万葉さんも、きっと気に入ります」

 万葉が歩いて行こうとするのを、師匠が止める。

「車で行きますので。助手席に乗って下さい」

 言われて初めて、万葉は家の横にある駐車場に置かれている車に気がついた。万葉が助手席に乗ったのを確認すると、師匠はエンジンをかける。

「では出発です、すぐ着きますけど」

「はあ……」

 謎を解くとは言ったものの、全くヒントが分からないままで、万葉は一日モヤモヤとしていた。師匠ははぐらかしの達人で、万葉がいくら渋い顔をしたところで、笑顔ですり抜けてしまう。

 やっと答えが分かるのかと思って、ほっとして座席に深く腰掛けたところで、信号で停まる。すると師匠が身を乗り出して覗き込んできた。

「楽しみですか、万葉さん?」

「焦らされましたからね、もう我慢できません」

「あはは、そこだけ切り取って聞くと、とても扇情的ですね」

 言われて万葉が目を見開いていると顎をすくわれる。

「……僕もずいぶんと、お預けなんですけどねえ……」

 挑発的な視線に、万葉の心臓が跳ねあがった。

「師匠、前。青、青ですよ」

「――はい」

 師匠は引き下がると、言葉とは裏腹に嬉しそうに車を動かした。万葉はびっくりした心臓が口から出てしまうのではないかと思いつつ、静かに深い呼吸を繰り返す。窓の外を眺めていると、十五分ほどで駐車場に停車した。

「はい、到着です」

「え、ここ、公民館……?」

「そうですよ」

 こっちに来てくださいと言われて、鍵を取り出すと裏口から鍵を開ける。上がってから廊下の先の部屋へと向かい、電気をつけて目に映った光景に、万葉は思わず感嘆の声を漏らした。

「畳! 広い!」

 そこは大きな畳の部屋となっていて、長机がいくつも置いてあった。一番前の席には大きな文机が置かれている。師匠がストーブをつけながら控室にあった荷物を持って来て、一番前の席へと広げ始める。

「あ……!」

 見ればそこには立派な硯と筆が現れた。

「十七時半から一時間、小学生のお習字の教室なんですよ。本当は父が担当なんですけど、来られない時は僕が代理で来ます……ね、嘘言ってないでしょう?」

「師匠、すごい! 今日は書きますか? 見たいです!」

 興奮する万葉に、師匠は嬉しそうに笑って頭を撫でる。

「僕は今日は見本しか書きませんけど、万葉さんが書くなら、お道具をお貸しします」

 万葉は迷うことなく頷いた。久しぶりにかいだ墨の匂いに、心が湧きたつようだった。

「じゃあ、小学生たちが来るまでちょっと待っていてください。一番後ろに座って下さいね」

「――はい!」

 万葉は思い切り返事をすると、師匠が持って来てくれた予備のお道具を持って、一番後ろの席へと座布団を用意して座り込んだ。
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