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第5章
第43話
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「恵さん、ごめん、ちょっと資料の訂正が必要で、手伝ってもらえると嬉しいんだけど」
そう話しかけられたのは、プレゼンの日の当日、もうすぐ親会社の役員たちが来ると言う時だった。
万葉がパソコン画面から顔を上げると、総務部長の困った顔があった。ちょうど対応が終わって記録を書いていた所だったので、ステータスを退席中へと変更し、すぐに行くと伝える。
「部長、どうしたんですか?」
「見直ししていたら、渡す資料の付箋の文字が、全部違っちゃっていることに気がついて」
「付箋、書き直せばいいんですね?」
ちらりと部長が時計を見る。時刻は午後十三時半を回っている。役員たちが来るのは十四時だ。
「ごめんね、忙しいのに。B会議室空けたから、そこで書いてもらってもいい?」
万葉は自分の部署の部長に席を抜けると告げると、快く送り出してくれた。すでに総務の一部社員とプレゼンする社員がB会議室に集まっていて、万葉は席について筆ペンを持つと、言われたとおりに訂正をしていった。
「恵さんの字の評判がよすぎちゃって、総務でどうにもできなくてね。手間かけさせちゃってごめんね」
「いいんです、頼りにされるのは嬉しいので……こんな感じで大丈夫ですか?」
「パーフェクトだよ、ほんと助かる!」
修正作業はすぐに終わり、すぐさま資料が再編成される。万葉はふうと息を吐いた。慌ただしくみんながプレゼンの用意を始め、万葉は立ち上がるとB会議室から抜けた。
「ごめんね恵さん、また後でちゃんとお礼しに行くから!」
「大丈夫です、また何かあれば呼んで下さい」
慌てる部長にお辞儀をして、不要になった資料と付箋を持って出た。処分しようと資料を抱えて歩いていると、案内の社員の後ろからぞろぞろとスーツ姿の人たちが歩いてくるのが見える。
(あ、役員の人たちだ)
万葉は廊下の端に寄ると、ぺこりとお辞儀をする。総勢五人が歩いて行き、その中の一人の顔を見て万葉は資料を落っことした。
慌ててしゃがみこんで、資料に手を伸ばす。心臓の音が耳の内側で激しく聞こえ、資料に伸ばした手が震えた。
(え、ウソ、ウソ……!?)
「大丈夫ですか、手伝いますよ」
他の役員に先に行くように伝えてから、そのスーツ姿の人物が万葉が落っことした資料を拾う。万葉は震えが止まらないまま、落ちた資料を男性と一緒に拾い集めた。渡された資料を受け取って、万葉は目の前に座る人の顔を見た。
「……何で、師匠……?」
にこりと微笑んだ男性――師匠は、人差し指を万葉の唇の前に当てると、もう一方の手で手を掴んで万葉を立たせた。
「こんにちは、万葉さん」
そのまま、万葉の後ろにあった使われていない給湯室へと万葉を押し入れて、ガチャリと後ろ手に鍵を閉める。
薄暗い給湯室に誘い込まれて、万葉の身体が奥の壁へと押しやられる。師匠は万葉に迫るように立ち塞がって、じっと上から穏やかな笑みで見つめていた。
そう話しかけられたのは、プレゼンの日の当日、もうすぐ親会社の役員たちが来ると言う時だった。
万葉がパソコン画面から顔を上げると、総務部長の困った顔があった。ちょうど対応が終わって記録を書いていた所だったので、ステータスを退席中へと変更し、すぐに行くと伝える。
「部長、どうしたんですか?」
「見直ししていたら、渡す資料の付箋の文字が、全部違っちゃっていることに気がついて」
「付箋、書き直せばいいんですね?」
ちらりと部長が時計を見る。時刻は午後十三時半を回っている。役員たちが来るのは十四時だ。
「ごめんね、忙しいのに。B会議室空けたから、そこで書いてもらってもいい?」
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「恵さんの字の評判がよすぎちゃって、総務でどうにもできなくてね。手間かけさせちゃってごめんね」
「いいんです、頼りにされるのは嬉しいので……こんな感じで大丈夫ですか?」
「パーフェクトだよ、ほんと助かる!」
修正作業はすぐに終わり、すぐさま資料が再編成される。万葉はふうと息を吐いた。慌ただしくみんながプレゼンの用意を始め、万葉は立ち上がるとB会議室から抜けた。
「ごめんね恵さん、また後でちゃんとお礼しに行くから!」
「大丈夫です、また何かあれば呼んで下さい」
慌てる部長にお辞儀をして、不要になった資料と付箋を持って出た。処分しようと資料を抱えて歩いていると、案内の社員の後ろからぞろぞろとスーツ姿の人たちが歩いてくるのが見える。
(あ、役員の人たちだ)
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慌ててしゃがみこんで、資料に手を伸ばす。心臓の音が耳の内側で激しく聞こえ、資料に伸ばした手が震えた。
(え、ウソ、ウソ……!?)
「大丈夫ですか、手伝いますよ」
他の役員に先に行くように伝えてから、そのスーツ姿の人物が万葉が落っことした資料を拾う。万葉は震えが止まらないまま、落ちた資料を男性と一緒に拾い集めた。渡された資料を受け取って、万葉は目の前に座る人の顔を見た。
「……何で、師匠……?」
にこりと微笑んだ男性――師匠は、人差し指を万葉の唇の前に当てると、もう一方の手で手を掴んで万葉を立たせた。
「こんにちは、万葉さん」
そのまま、万葉の後ろにあった使われていない給湯室へと万葉を押し入れて、ガチャリと後ろ手に鍵を閉める。
薄暗い給湯室に誘い込まれて、万葉の身体が奥の壁へと押しやられる。師匠は万葉に迫るように立ち塞がって、じっと上から穏やかな笑みで見つめていた。
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