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第4章
第41話
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食後にはもう一つ、見せたいものがあります、と師匠が鍋の〆の雑炊をよそいながら万葉を見た。
「まだ何か用意してくれていたんですか?」
それに笑顔で頷いてから、楽しそうに師匠は目を細める。万葉はよそってもらった雑炊を、ふうふうと冷ましながら口へと運ぶ。水炊きの後の雑炊には、鶏の旨味が凝縮されていて、なんとも絶品だった。
万葉は楽しみすぎて、ぺろりと雑炊を平らげると、片付けも半分に師匠に早く早くとせがんだ。階段を上って行くと、初めて師匠の家の二階へと案内された。
「こっちの部屋が僕の寝室です。手前が、僕の仕事部屋です」
奥を指さして師匠が案内し、そして手前の部屋の扉を開けた。
「ここ、片づけました」
電気のスイッチを押すと、パッと部屋が明るくなる。
「物置にしていたんですけど、万葉さんのお部屋にちょうどいいかなと思いまして」
六畳のコンパクトな部屋だが、押し入れもついていて、万葉が今住んでいる部屋よりも快適にさえ見える。
「寝室も見ますか?」
それに万葉は大きく頷き、師匠が寝室へと案内してくれる。広い部屋の真ん中には、大きなベッドが置かれていて、間接照明と観葉植物があった。
「一緒に寝るのが嫌でしたら、ベッド分けてもいいですからね」
それに万葉は気まずくなって、ベッドを見つめながら息を吐いた。
「……嫌、じゃないです」
万葉の答えに、師匠はふふふと笑う。
「そう言ってくれるってことは、だいぶ僕のことを気に入ってくれているようですね?」
覗き込まれて万葉は言葉に詰まった。
「嬉しいなあ。今夜、会えてよかったです、万葉さん」
「それは、私もそう思います。その、会いたかったので」
それから万葉は師匠に向き直った。
「こんなにしてもらって、ありがとうございます。不束者ですが、よろしくお願いします」
お辞儀をしていると、師匠の手が万葉の頭に乗っかって、わしゃわしゃと撫でる。師匠の誠意を見させてもらって、万葉ができることは、この目の前の人を信じることだった。
「いつでも帰ってきてください。ここは、貴女のお家ですからね」
万葉はその優しさに触れて、心が穏やかになって行くのを感じる。寝支度を整えて、一階に布団を出そうとしている師匠を万葉は止めた。
「師匠、私たち夫婦なんですよね?」
「そうですよ。表彰状型の証明書見ますか?」
「そうじゃなくて!」
何を真顔でとんちんかんなことを言っているのだと万葉が眉根を寄せると、師匠はきょとんと目を瞬かせる。
「師匠、その、一緒に寝たいです」
押入れを開けていた師匠は、完全に固まると、しばらくそのまま動かなくなった。
「え、ちょっと師匠? まさか死んだんじゃ――」
「いえ、生きてます」
「驚かせないでよ、びっくりしたじゃない!」
師匠はにっこりと笑うと、嬉しくて固まりましたと頬を緩ませる。
「では一緒に寝て下さい、奥さん」
言われて万葉は恥ずかしくて空気を飲み込んでしまったのだが、手を引かれて寝室へと行くと、身体を横にする。布団からは師匠の慕わしい匂いがして、まるで包み込まれているかのような安心感に、すぐに眠気が来た。
「電気消しますよ。おやすみなさい、万葉さん」
「おやすみなさい、師匠」
すっと師匠の手が伸びてきて、万葉の手を握りしめる。それに握り返すと、さらに万葉の心臓がドキドキする。初めての師匠のベッドに、ものすごく緊張していたのだが、手の温もりが万葉の緊張をほぐしていく。
「師匠、好き……」
師匠からの返事はない。万葉はゆっくりと目を閉じると、そのまま深い眠りにつく。万葉が寝息を立て始めた頃に、寝たふりをしていた師匠が目を開けて、ふうと大きくため息を吐いた。
「年甲斐もなく、僕の方が貴女のことが好きなんですよ、万葉さん」
握った手を持ち上げて、師匠はそこにキスをする。ずっと一緒にいて下さいと呟き、師匠も目を閉じた。
「まだ何か用意してくれていたんですか?」
それに笑顔で頷いてから、楽しそうに師匠は目を細める。万葉はよそってもらった雑炊を、ふうふうと冷ましながら口へと運ぶ。水炊きの後の雑炊には、鶏の旨味が凝縮されていて、なんとも絶品だった。
万葉は楽しみすぎて、ぺろりと雑炊を平らげると、片付けも半分に師匠に早く早くとせがんだ。階段を上って行くと、初めて師匠の家の二階へと案内された。
「こっちの部屋が僕の寝室です。手前が、僕の仕事部屋です」
奥を指さして師匠が案内し、そして手前の部屋の扉を開けた。
「ここ、片づけました」
電気のスイッチを押すと、パッと部屋が明るくなる。
「物置にしていたんですけど、万葉さんのお部屋にちょうどいいかなと思いまして」
六畳のコンパクトな部屋だが、押し入れもついていて、万葉が今住んでいる部屋よりも快適にさえ見える。
「寝室も見ますか?」
それに万葉は大きく頷き、師匠が寝室へと案内してくれる。広い部屋の真ん中には、大きなベッドが置かれていて、間接照明と観葉植物があった。
「一緒に寝るのが嫌でしたら、ベッド分けてもいいですからね」
それに万葉は気まずくなって、ベッドを見つめながら息を吐いた。
「……嫌、じゃないです」
万葉の答えに、師匠はふふふと笑う。
「そう言ってくれるってことは、だいぶ僕のことを気に入ってくれているようですね?」
覗き込まれて万葉は言葉に詰まった。
「嬉しいなあ。今夜、会えてよかったです、万葉さん」
「それは、私もそう思います。その、会いたかったので」
それから万葉は師匠に向き直った。
「こんなにしてもらって、ありがとうございます。不束者ですが、よろしくお願いします」
お辞儀をしていると、師匠の手が万葉の頭に乗っかって、わしゃわしゃと撫でる。師匠の誠意を見させてもらって、万葉ができることは、この目の前の人を信じることだった。
「いつでも帰ってきてください。ここは、貴女のお家ですからね」
万葉はその優しさに触れて、心が穏やかになって行くのを感じる。寝支度を整えて、一階に布団を出そうとしている師匠を万葉は止めた。
「師匠、私たち夫婦なんですよね?」
「そうですよ。表彰状型の証明書見ますか?」
「そうじゃなくて!」
何を真顔でとんちんかんなことを言っているのだと万葉が眉根を寄せると、師匠はきょとんと目を瞬かせる。
「師匠、その、一緒に寝たいです」
押入れを開けていた師匠は、完全に固まると、しばらくそのまま動かなくなった。
「え、ちょっと師匠? まさか死んだんじゃ――」
「いえ、生きてます」
「驚かせないでよ、びっくりしたじゃない!」
師匠はにっこりと笑うと、嬉しくて固まりましたと頬を緩ませる。
「では一緒に寝て下さい、奥さん」
言われて万葉は恥ずかしくて空気を飲み込んでしまったのだが、手を引かれて寝室へと行くと、身体を横にする。布団からは師匠の慕わしい匂いがして、まるで包み込まれているかのような安心感に、すぐに眠気が来た。
「電気消しますよ。おやすみなさい、万葉さん」
「おやすみなさい、師匠」
すっと師匠の手が伸びてきて、万葉の手を握りしめる。それに握り返すと、さらに万葉の心臓がドキドキする。初めての師匠のベッドに、ものすごく緊張していたのだが、手の温もりが万葉の緊張をほぐしていく。
「師匠、好き……」
師匠からの返事はない。万葉はゆっくりと目を閉じると、そのまま深い眠りにつく。万葉が寝息を立て始めた頃に、寝たふりをしていた師匠が目を開けて、ふうと大きくため息を吐いた。
「年甲斐もなく、僕の方が貴女のことが好きなんですよ、万葉さん」
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