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第4章
第39話
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早瀬に引っ越しをしてからの提出でも間に合うと言われたので、万葉はそれを鞄の奥へとしまいこんで、誰にも気づかれないようにした。
「恵、どうした。にやついて」
一息をつきに休憩室へと行くと、新海がひょいと顔を出してきたので、万葉は「別に」と答える。
「何だよ、恋愛上手くいってねーの?」
「いってるってば」
「何だ、つまんねーの」
つまんないとは何よと睨みながら言い返すと、新海がコーヒーをくれた。
「あ、ありがと……」
「また遠藤に抜かれたし、落ち込んでるかと思ったら、そうでもなさそうで良かったよ。苗字で悩んでるんだったら俺が結婚してやるのに」
万葉は飲みかけていたコーヒーで、激しくむせた。それを見て新海がにやにやと笑う。
「恵って、しっかりしてそうなのに、そういうところどんくさいよな」
「大きなお世話よ」
「しかも恋愛とか全然だめそうだし、ちょっとからかうとすぐそうやって顔に出るし。見た目はできる女風なのにな、中身お子さま」
「うるさいわね……いいじゃない、恋愛は奥手なの」
へえ、と新海が目を開く。
「そんなんだと、婚期逃すぞ?」
「新海だって、私にかまってないで、早く彼女作ればいいじゃないの」
「遊びでいいなら恋愛はつき合うっていつも返事してるくらい、俺は困っていないの」
最低と万葉が返すと、新海はにやりと不敵に笑う。
「面倒だろ、年頃の女。つきあうイコール、結婚すると思っていたなんて言われたらたまったもんじゃない。だったら、最初から結婚を考えた女とつきあいたいわけ、俺は」
それは確かに効率的だと、万葉は納得して頷いた。
「ま、奥手の恵じゃ一筋縄じゃ行かないだろうな、結婚。苗字変えたかったら、いつでも相談しろよ。俺が結婚相手になってやるから」
ひらひらと意地悪な笑みを乗せたまま、新海は休憩室から出て行く。むかつく言い方だなあと思ったのだが、ふと冷静になって考えた時、プロポーズにも捉えることができる新海の言葉に気がついた。
「はあああああ……。相談相手じゃなくて、結婚相手ってはっきり言った、あいつ。どうしてこう、私の周りにはすけこましが多いわけ……?」
万葉はヒットポイントをそがれた気分になって、大きくソファに背中を預けて、長い休憩を取った。
仕事に戻ってしばらくすると、携帯電話がぶるぶると震えて、見れば田中紫龍の文字が浮かび上がっている。ちょうど対応が終わったところなので、万葉は退席中に切り替えると、廊下に行って着信に出た。
「もしもし、師匠?」
『はい、僕です万葉さん』
なぜか声を聞くとほっとして、万葉は壁に寄りかかる。
「どうしたんですか?」
『お見せしたいものがありまして、良かったら近いうちに来られないですかね?』
何だろうと思ったのだが、師匠の事だから珍しいお酒でも手に入ったのかと思って、万葉は頷いた。
「今夜伺います」
『でしたら、お泊りの準備で帰ってきてくださいね』
ズバッと隙を突かれて、万葉は顔を赤くして口元を押さえた。
「……わかりました……」
『ではお待ちしています』
師匠の笑顔が目に見えて浮かんできて、万葉はドキドキする胸を押さえながら仕事へと戻る。
万葉のことを何でもお見通しなのか、師匠の手のひらの上で踊らされている気もしなくもないのだが、あの嬉しそうな顔を思うとそれもいいかと思えてしまう不思議さがあった。
「恵、どうした。にやついて」
一息をつきに休憩室へと行くと、新海がひょいと顔を出してきたので、万葉は「別に」と答える。
「何だよ、恋愛上手くいってねーの?」
「いってるってば」
「何だ、つまんねーの」
つまんないとは何よと睨みながら言い返すと、新海がコーヒーをくれた。
「あ、ありがと……」
「また遠藤に抜かれたし、落ち込んでるかと思ったら、そうでもなさそうで良かったよ。苗字で悩んでるんだったら俺が結婚してやるのに」
万葉は飲みかけていたコーヒーで、激しくむせた。それを見て新海がにやにやと笑う。
「恵って、しっかりしてそうなのに、そういうところどんくさいよな」
「大きなお世話よ」
「しかも恋愛とか全然だめそうだし、ちょっとからかうとすぐそうやって顔に出るし。見た目はできる女風なのにな、中身お子さま」
「うるさいわね……いいじゃない、恋愛は奥手なの」
へえ、と新海が目を開く。
「そんなんだと、婚期逃すぞ?」
「新海だって、私にかまってないで、早く彼女作ればいいじゃないの」
「遊びでいいなら恋愛はつき合うっていつも返事してるくらい、俺は困っていないの」
最低と万葉が返すと、新海はにやりと不敵に笑う。
「面倒だろ、年頃の女。つきあうイコール、結婚すると思っていたなんて言われたらたまったもんじゃない。だったら、最初から結婚を考えた女とつきあいたいわけ、俺は」
それは確かに効率的だと、万葉は納得して頷いた。
「ま、奥手の恵じゃ一筋縄じゃ行かないだろうな、結婚。苗字変えたかったら、いつでも相談しろよ。俺が結婚相手になってやるから」
ひらひらと意地悪な笑みを乗せたまま、新海は休憩室から出て行く。むかつく言い方だなあと思ったのだが、ふと冷静になって考えた時、プロポーズにも捉えることができる新海の言葉に気がついた。
「はあああああ……。相談相手じゃなくて、結婚相手ってはっきり言った、あいつ。どうしてこう、私の周りにはすけこましが多いわけ……?」
万葉はヒットポイントをそがれた気分になって、大きくソファに背中を預けて、長い休憩を取った。
仕事に戻ってしばらくすると、携帯電話がぶるぶると震えて、見れば田中紫龍の文字が浮かび上がっている。ちょうど対応が終わったところなので、万葉は退席中に切り替えると、廊下に行って着信に出た。
「もしもし、師匠?」
『はい、僕です万葉さん』
なぜか声を聞くとほっとして、万葉は壁に寄りかかる。
「どうしたんですか?」
『お見せしたいものがありまして、良かったら近いうちに来られないですかね?』
何だろうと思ったのだが、師匠の事だから珍しいお酒でも手に入ったのかと思って、万葉は頷いた。
「今夜伺います」
『でしたら、お泊りの準備で帰ってきてくださいね』
ズバッと隙を突かれて、万葉は顔を赤くして口元を押さえた。
「……わかりました……」
『ではお待ちしています』
師匠の笑顔が目に見えて浮かんできて、万葉はドキドキする胸を押さえながら仕事へと戻る。
万葉のことを何でもお見通しなのか、師匠の手のひらの上で踊らされている気もしなくもないのだが、あの嬉しそうな顔を思うとそれもいいかと思えてしまう不思議さがあった。
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