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第4章
第38話
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呼び出してきたのは、総務部の早瀬で、万葉が結婚の書類を提出したときに、啖呵を切った相手だった。その時は困らせてしまって申し訳ないと再度謝ると、気にしていませんとにこやかな笑顔で迎え入れられた。
「お呼びたてしてごめんなさい。私が行っても良かったんですが、それだと目立っちゃうかと思って」
社内の連絡簿に入れても良かったが、それで騒ぎになっても困るからと言って、彼女が差し出したのは、さらに詳しい結婚の情報を記入する書類だった。
「うちの会社、こういうのはとってもアナログなんですよね」
「わ、ありがとうございます、気を遣ってもらっちゃって……!」
万葉は受け取って感激した。結婚相手や住居、結婚式の予定などを記入する紙で、万が一社内の連絡簿にこれが入っていて万葉宛てだったとすれば、フロアの誰かは万葉が結婚したことに気がついてしまう。
「いえいえ。お引越しはされたんでしょうか?」
「それが、これからなんですよ」
「予定はあるんですか?」
「迷っていまして」
それに早瀬は首をかしげた。
「今、恵さん一人暮らしですよね? お相手も一人暮らしでしたら、一緒に住めばお家賃浮きそうですけど……マンション途中解約になって違約金出ちゃいますか?」
「ちょうど更新が四月なんで、いいタイミングなんです……でもなんかちょっと迷っちゃってて。ああ、でも、しようとは思ってますよ」
「……何となくわかります。引っ越しって面倒ですし、新しいお家にはすぐに慣れないでしょうし、相手と一緒だと気を使ったり、新しい環境って神経使いますもんね」
それに万葉はうんうんと頷いた。
「でも、結婚したんですから、追い出されることもないし、そのあたりは安心じゃないですか?」
「実はそれが、まさに心配していたことでして……」
それに早瀬はああ、と目を見開く。
「恵さん、それは結婚したんだからないですよ。私、付き合っている人と一緒に暮らしていて、別れる時に追い出されて困ったことありますけど、結婚していたらそれはできないことだと思います」
「そんな世知辛い経験してるんですか?」
見た目もかわいらしく、しっかりしているように見える早瀬なだけに、万葉は驚いてしまった。
「はい、家に帰れなくて、ホテルと友達の家を転々としていました。でも、結婚していれば、よっぽどのことがない限り奥さんを追い出すなんてまずありえません。追い出そうとしても周りが止めるでしょうしね」
「まあ、追い出すような人じゃないとは思うんですけど、何しろあまり腹の底が見えない相手だったので警戒していました。今はその気持ちも和らいでいます」
「嫌だったら結婚しませんよ、まして、恵さんの旦那さんは年上ですから。四十超えて、面倒くさい結婚なんてしないはずです。だったら、独身のままでいいと思うはず」
言われて確かに、と万葉は頷いた。
「確かに、遊びたいんだったら、それこそ遊びの付き合いでいい。面倒な結婚なんて、リスキーだし、する必要ないですよね。それでもわざわざ私と結婚したってことは……」
「それだけ、恵さんに惚れているんじゃないですかね?」
早瀬の笑顔に大納得して、万葉は書類を受け取るとふと微笑んだ。
「そうかもしれません……」
師匠の笑顔や言葉が蘇ってきて、万葉は安心と共にいとしさが込み上げてくる。早く、師匠に会いたいなと心の底から思うのだった。
「お呼びたてしてごめんなさい。私が行っても良かったんですが、それだと目立っちゃうかと思って」
社内の連絡簿に入れても良かったが、それで騒ぎになっても困るからと言って、彼女が差し出したのは、さらに詳しい結婚の情報を記入する書類だった。
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「わ、ありがとうございます、気を遣ってもらっちゃって……!」
万葉は受け取って感激した。結婚相手や住居、結婚式の予定などを記入する紙で、万が一社内の連絡簿にこれが入っていて万葉宛てだったとすれば、フロアの誰かは万葉が結婚したことに気がついてしまう。
「いえいえ。お引越しはされたんでしょうか?」
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「迷っていまして」
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「ちょうど更新が四月なんで、いいタイミングなんです……でもなんかちょっと迷っちゃってて。ああ、でも、しようとは思ってますよ」
「……何となくわかります。引っ越しって面倒ですし、新しいお家にはすぐに慣れないでしょうし、相手と一緒だと気を使ったり、新しい環境って神経使いますもんね」
それに万葉はうんうんと頷いた。
「でも、結婚したんですから、追い出されることもないし、そのあたりは安心じゃないですか?」
「実はそれが、まさに心配していたことでして……」
それに早瀬はああ、と目を見開く。
「恵さん、それは結婚したんだからないですよ。私、付き合っている人と一緒に暮らしていて、別れる時に追い出されて困ったことありますけど、結婚していたらそれはできないことだと思います」
「そんな世知辛い経験してるんですか?」
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「はい、家に帰れなくて、ホテルと友達の家を転々としていました。でも、結婚していれば、よっぽどのことがない限り奥さんを追い出すなんてまずありえません。追い出そうとしても周りが止めるでしょうしね」
「まあ、追い出すような人じゃないとは思うんですけど、何しろあまり腹の底が見えない相手だったので警戒していました。今はその気持ちも和らいでいます」
「嫌だったら結婚しませんよ、まして、恵さんの旦那さんは年上ですから。四十超えて、面倒くさい結婚なんてしないはずです。だったら、独身のままでいいと思うはず」
言われて確かに、と万葉は頷いた。
「確かに、遊びたいんだったら、それこそ遊びの付き合いでいい。面倒な結婚なんて、リスキーだし、する必要ないですよね。それでもわざわざ私と結婚したってことは……」
「それだけ、恵さんに惚れているんじゃないですかね?」
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「そうかもしれません……」
師匠の笑顔や言葉が蘇ってきて、万葉は安心と共にいとしさが込み上げてくる。早く、師匠に会いたいなと心の底から思うのだった。
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