17 / 73
第2章
第15話
しおりを挟む
月曜日に出社したときには、複雑な気持ちとワクワクする気持ちが胸に詰まって、万葉はどうにもこうにも、浮足立ってしまっていた。悟られないようにするために、いつもよりも顔面に力が入る。
万葉は仕事ができて、むしろ仕事しか興味がないという、バリキャリのイメージが会社では板についている。そんな万葉がいきなり色ボケ感を出したら、フロア中から引かれるのは目に見えてわかっていた。
「おっはよー恵ちゃん。あれ、怒ってる!?」
桃花が万葉を見るなり、目を見開いた。それほどまでに、にやける顔を止めようとして、万葉は怖い顔をしていたのだった。
「え、そんな顔してた!? 違うの……ちょっと、色々とあって」
「えー何々、聞きたいわあ」
万葉は辺りを見回す。近くに人がいないのを確認すると、二人してデスクにへばりつくようにして身を寄せた。
「いい、驚かないでね? そして、絶対に誰にも言わないでね?」
「あらやだ、私が口固いの知っているわよね?」
それに万葉はうんと頷いてから、もう一度辺りを見回して桃花の耳にそっと「結婚しました」と告げる。
「え、え、え……? ええと、冗談よね? というか、誰と?」
「飲み友達と、居酒屋で、ノリで……」
桃花はとろんとしている目を、これでもかというほどに見開いた。
「ちょっと恵ちゃん、いいの、それで!?」
「いいかどうか言われると、ちょっと不安なんだけど、でも今のところ支障はないっぽいし……」
「もしかして、いつも話していた、あのイケオジの人?」
万葉は頷いた。そして恥ずかしくなって両手で頬を掴む。気が付けば耳まで真っ赤になっていた。
「やだ、恵ちゃん可愛い……そんなに赤くなって……でもお姉さんは心配よ、恵ちゃんが」
「も、ほんっと、どうしよう桃花さん……なんかもう、気持ちがふわふわしちゃって。最初はやばい、取り返しがつかないことしちゃったって焦ったのに、なんかあの人のこと知ろうと思ったら、胸騒ぎが止まらなくなっちゃって」
「あらやだ、恋ねえ……」
桃花はよしよしと万葉の頭を撫でる。
「今どきって、もしかしてそういうのもありなのかもしれないわね。っていうか、そうでもしないと、恵ちゃん結婚しなそうだったし、ちょっと心配だけど、いいんじゃない?」
桃花は肯定派だったようで、万葉の不安に寄る眉根にトンと指を押し付けてぐりぐりした。
「イケメンで若見えなんでしょ? 歳の差婚も最近は結構あるし、恵ちゃんが幸せって思えるのならそれでいいじゃないの。それに、そんな顔したって、もうしちゃったんでしょ?……いまさら、後戻りできないじゃない」
「うん、そう……」
「恋愛結婚よりお見合い結婚の方が上手く行くっていうし、これから好きをたくさん見つけて行けばいいだけよ。恋愛と順序が違うけれども、行きつくところは幸せな二人の未来にかわりは無いわけだし」
桃花の言葉に、万葉は勇気をもらった。
「そう、だよね。恋愛結婚だけが全てじゃないし、今から師匠の事たくさん知ればいいわけで……ほんと、名前も知らなかった人と結婚なんてありえるんだね」
「名前も知らない人との結婚。まるで映画のタイトルね」
まるでドラマのようだったのだが、そんな現実が自分の身に起こるとは考えもしなかった。フィクションが今まさに自分の中に降りてきていた。
万葉は仕事ができて、むしろ仕事しか興味がないという、バリキャリのイメージが会社では板についている。そんな万葉がいきなり色ボケ感を出したら、フロア中から引かれるのは目に見えてわかっていた。
「おっはよー恵ちゃん。あれ、怒ってる!?」
桃花が万葉を見るなり、目を見開いた。それほどまでに、にやける顔を止めようとして、万葉は怖い顔をしていたのだった。
「え、そんな顔してた!? 違うの……ちょっと、色々とあって」
「えー何々、聞きたいわあ」
万葉は辺りを見回す。近くに人がいないのを確認すると、二人してデスクにへばりつくようにして身を寄せた。
「いい、驚かないでね? そして、絶対に誰にも言わないでね?」
「あらやだ、私が口固いの知っているわよね?」
それに万葉はうんと頷いてから、もう一度辺りを見回して桃花の耳にそっと「結婚しました」と告げる。
「え、え、え……? ええと、冗談よね? というか、誰と?」
「飲み友達と、居酒屋で、ノリで……」
桃花はとろんとしている目を、これでもかというほどに見開いた。
「ちょっと恵ちゃん、いいの、それで!?」
「いいかどうか言われると、ちょっと不安なんだけど、でも今のところ支障はないっぽいし……」
「もしかして、いつも話していた、あのイケオジの人?」
万葉は頷いた。そして恥ずかしくなって両手で頬を掴む。気が付けば耳まで真っ赤になっていた。
「やだ、恵ちゃん可愛い……そんなに赤くなって……でもお姉さんは心配よ、恵ちゃんが」
「も、ほんっと、どうしよう桃花さん……なんかもう、気持ちがふわふわしちゃって。最初はやばい、取り返しがつかないことしちゃったって焦ったのに、なんかあの人のこと知ろうと思ったら、胸騒ぎが止まらなくなっちゃって」
「あらやだ、恋ねえ……」
桃花はよしよしと万葉の頭を撫でる。
「今どきって、もしかしてそういうのもありなのかもしれないわね。っていうか、そうでもしないと、恵ちゃん結婚しなそうだったし、ちょっと心配だけど、いいんじゃない?」
桃花は肯定派だったようで、万葉の不安に寄る眉根にトンと指を押し付けてぐりぐりした。
「イケメンで若見えなんでしょ? 歳の差婚も最近は結構あるし、恵ちゃんが幸せって思えるのならそれでいいじゃないの。それに、そんな顔したって、もうしちゃったんでしょ?……いまさら、後戻りできないじゃない」
「うん、そう……」
「恋愛結婚よりお見合い結婚の方が上手く行くっていうし、これから好きをたくさん見つけて行けばいいだけよ。恋愛と順序が違うけれども、行きつくところは幸せな二人の未来にかわりは無いわけだし」
桃花の言葉に、万葉は勇気をもらった。
「そう、だよね。恋愛結婚だけが全てじゃないし、今から師匠の事たくさん知ればいいわけで……ほんと、名前も知らなかった人と結婚なんてありえるんだね」
「名前も知らない人との結婚。まるで映画のタイトルね」
まるでドラマのようだったのだが、そんな現実が自分の身に起こるとは考えもしなかった。フィクションが今まさに自分の中に降りてきていた。
18
お気に入りに追加
124
あなたにおすすめの小説
あなたと恋に落ちるまで~御曹司は、一途に私に恋をする~
けいこ
恋愛
カフェも併設されたオシャレなパン屋で働く私は、大好きなパンに囲まれて幸せな日々を送っていた。
ただ…
トラウマを抱え、恋愛が上手く出来ない私。
誰かを好きになりたいのに傷つくのが怖いって言う恋愛こじらせ女子。
いや…もう女子と言える年齢ではない。
キラキラドキドキした恋愛はしたい…
結婚もしなきゃいけないと…思ってはいる25歳。
最近、パン屋に来てくれるようになったスーツ姿のイケメン過ぎる男性。
彼が百貨店などを幅広く経営する榊グループの社長で御曹司とわかり、店のみんなが騒ぎ出して…
そんな人が、
『「杏」のパンを、時々会社に配達してもらいたい』
だなんて、私を指名してくれて…
そして…
スーパーで買ったイチゴを落としてしまったバカな私を、必死に走って追いかけ、届けてくれた20歳の可愛い系イケメン君には、
『今度、一緒にテーマパーク行って下さい。この…メロンパンと塩パンとカフェオレのお礼したいから』
って、誘われた…
いったい私に何が起こっているの?
パン屋に出入りする同年齢の爽やかイケメン、パン屋の明るい美人店長、バイトの可愛い女の子…
たくさんの個性溢れる人々に関わる中で、私の平凡過ぎる毎日が変わっていくのがわかる。
誰かを思いっきり好きになって…
甘えてみても…いいですか?
※after story別作品で公開中(同じタイトル)

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
蕩ける愛であなたを覆いつくしたい~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されてます~
泉南佳那
恋愛
梶原茉衣 28歳 × 浅野一樹 25歳
最悪の失恋をしたその夜、茉衣を救ってくれたのは、3歳年下の同僚、その端正な容姿で、会社一の人気を誇る浅野一樹だった。
「抱きしめてもいいですか。今それしか、梶原さんを慰める方法が見つからない」
「行くところがなくて困ってるんなら家にきます? 避難所だと思ってくれればいいですよ」
成り行きで彼のマンションにやっかいになることになった茉衣。
徐々に傷ついた心を優しく慰めてくれる彼に惹かれてゆき……
超イケメンの年下同僚に甘く翻弄されるヒロイン。
一緒にドキドキしていただければ、嬉しいです❤️
同期に恋して
美希みなみ
恋愛
近藤 千夏 27歳 STI株式会社 国内営業部事務
高遠 涼真 27歳 STI株式会社 国内営業部
同期入社の2人。
千夏はもう何年も同期の涼真に片思いをしている。しかし今の仲の良い同期の関係を壊せずにいて。
平凡な千夏と、いつも女の子に囲まれている涼真。
千夏は同期の関係を壊せるの?
「甘い罠に溺れたら」の登場人物が少しだけでてきます。全くストーリには影響がないのでこちらのお話だけでも読んで頂けるとうれしいです。
【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜
四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」
度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。
事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。
しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。
楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。
その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。
ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。
その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。
敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。
それから、3年が経ったある日。
日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。
「私は若佐先生の事を何も知らない」
このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。
目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。
❄︎
※他サイトにも掲載しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる