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第2章
第13話
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「結婚初夜に、泥酔で介抱なんて、素晴らしい笑い話ですよ……これはさすがに笑えないって分かります」
師匠の作った料理は、お店に負けないくらいのおいしさだった。万葉はついつい箸が進み、気が付いたらフランスパンをもりもりと食べながら自分の失態を呪って口にした。
「そうですね、初夜にまで色気がないところは、万葉さんらしいですけど」
「悪うございました、色気がなくて」
むっとして言い返すと、師匠はただただ嬉しそうにニコニコしている。これはいつもの顔なので、万葉は口を尖らせた。
「いいんですよ、あんな状態で色気を出されても困りますから」
「どういう意味ですか?」
「さあ、どういう意味でしょう?」
食えない笑顔の裏で、何を考えているのかが分からない。師匠はいつも笑ったような穏やかな表情をしており、表情が大きく変化するというところを、万葉は見たことがない。
つまりは、万葉は師匠が派手に怒ったところも、どん底のように悲しんでいるところも見たことがないのだった。
「まあ、師匠も困りますよね。泥酔女子に色気というものを出されても」
「そうですね……」
万葉は師匠の含蓄のある答えに、ほんの少しだけ落胆した。色気がないのは自覚していたのだが、こうも真っ向から言われると、やっぱり気持ちが沈む。しかし、それが一瞬にして赤面する事態となった。
「可愛すぎて襲ってしまうかと……でも、あとから覚えていないなんて言われたら、僕が傷つきますから」
万葉は飲んでいたノンアルワインを吹き出しそうになって、慌てた。すぐさま師匠が布巾を片手に手を伸ばしてきて、万葉の頬に触れる。
「ゆっくり飲んでくださいね、こぼすとお洋服が汚れますよ。僕にまた脱がされたいなら話は別ですが」
口元を拭かれて、思い切り近くでにこっと微笑まれる。
(これ、無自覚にこの人やってるなら、相当罪深い気がする……)
あまりにもスマートで甘い対応に、万葉の脈が速くなった。
(静まれバカバカ、私の心臓! 相手はただの師匠で、飲み友達で、アラフォーで……)
意識すると、万葉はもう師匠のことをフェアな飲み友達という目で見ることができなくなってしまった。気が付かないようにしていたが、師匠は男性として認識すれば、かなりのいい男の部類に入ってしまうのだった。
「僕の顔に、何かついていますか?」
「目と鼻と口と眉毛と」
恋愛をして来なかった万葉でも、師匠は手練れだとさすがに分かる。今まで恋人のように万葉に接したことなどなかったのに、手のひらを返されたように、恋人らしく振舞われて、ドギマギした。
「あはは、それは誰でもついていますよ。万葉さん、もう少し食べます? フランスパンに、ガーリックバター塗ってきましょうか?」
「……食べます!」
万葉は慌てて威勢よく手を上げる。何やら色々と心臓がもたない気がしてしまい、紛らわせるかのように意識を食欲へと振る。お酒を一滴も飲んでいないのに、どうやら、師匠の雰囲気だけで酔わされてしまった様だった。
(なんてちょろいんだろう、私……)
師匠の後姿をじっとりとにらみつけながら、気がつかれないようにそうっとため息を吐いた。
師匠の作った料理は、お店に負けないくらいのおいしさだった。万葉はついつい箸が進み、気が付いたらフランスパンをもりもりと食べながら自分の失態を呪って口にした。
「そうですね、初夜にまで色気がないところは、万葉さんらしいですけど」
「悪うございました、色気がなくて」
むっとして言い返すと、師匠はただただ嬉しそうにニコニコしている。これはいつもの顔なので、万葉は口を尖らせた。
「いいんですよ、あんな状態で色気を出されても困りますから」
「どういう意味ですか?」
「さあ、どういう意味でしょう?」
食えない笑顔の裏で、何を考えているのかが分からない。師匠はいつも笑ったような穏やかな表情をしており、表情が大きく変化するというところを、万葉は見たことがない。
つまりは、万葉は師匠が派手に怒ったところも、どん底のように悲しんでいるところも見たことがないのだった。
「まあ、師匠も困りますよね。泥酔女子に色気というものを出されても」
「そうですね……」
万葉は師匠の含蓄のある答えに、ほんの少しだけ落胆した。色気がないのは自覚していたのだが、こうも真っ向から言われると、やっぱり気持ちが沈む。しかし、それが一瞬にして赤面する事態となった。
「可愛すぎて襲ってしまうかと……でも、あとから覚えていないなんて言われたら、僕が傷つきますから」
万葉は飲んでいたノンアルワインを吹き出しそうになって、慌てた。すぐさま師匠が布巾を片手に手を伸ばしてきて、万葉の頬に触れる。
「ゆっくり飲んでくださいね、こぼすとお洋服が汚れますよ。僕にまた脱がされたいなら話は別ですが」
口元を拭かれて、思い切り近くでにこっと微笑まれる。
(これ、無自覚にこの人やってるなら、相当罪深い気がする……)
あまりにもスマートで甘い対応に、万葉の脈が速くなった。
(静まれバカバカ、私の心臓! 相手はただの師匠で、飲み友達で、アラフォーで……)
意識すると、万葉はもう師匠のことをフェアな飲み友達という目で見ることができなくなってしまった。気が付かないようにしていたが、師匠は男性として認識すれば、かなりのいい男の部類に入ってしまうのだった。
「僕の顔に、何かついていますか?」
「目と鼻と口と眉毛と」
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「あはは、それは誰でもついていますよ。万葉さん、もう少し食べます? フランスパンに、ガーリックバター塗ってきましょうか?」
「……食べます!」
万葉は慌てて威勢よく手を上げる。何やら色々と心臓がもたない気がしてしまい、紛らわせるかのように意識を食欲へと振る。お酒を一滴も飲んでいないのに、どうやら、師匠の雰囲気だけで酔わされてしまった様だった。
(なんてちょろいんだろう、私……)
師匠の後姿をじっとりとにらみつけながら、気がつかれないようにそうっとため息を吐いた。
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