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第1章
第3話
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「新海って変なの。私にちょっかいかけてくるの、そろそろ止めたらいいのに。バカなのか、よっぽど暇なのか……」
新海はシャープな顔立ちとスタイリッシュさ、そしてエスっ気のある言動が職場で人気だった。何か問題が起きた時に会話を聞いて判断し、そして助け船を出してくれるというポジションからも、頼りにされている。
「イケメンなんだから、私にかまっていないでサクッと彼女作ればいいのに……って、わたしのが大きなお世話だ」
万葉は新海を思考から追い出すと、電車に乗り込んで、最寄りの駅で降りる。商店街を抜けた先の一角に、行きつけのおしゃれな居酒屋があった。真冬の冷たい風が、コートの隙間から突き刺さってくる。寒波から逃げるように、引き戸を開けた。
「こんばんは」
「いらっしゃい!」
カウンターの奥からマスターがにっこりと笑う。万葉はその笑顔を見るとほっとしていつもの席へと着いた。
「万葉ちゃんお疲れ様、はいこれあったかいおしぼりね」
「ありがとうマスター! これを顔に当てるのがもう最高に疲れが取れる……!」
乙女なマスターに渡されたおしぼりで手を温めてから、顔にボスンと当てた。しばらくそうして息を吹き返してから、出されたお通しに目を輝かせる。ホタルイカの醤油漬けに、小ネギが乗っていて見た目もおしゃれだ。
お酒が進むなと思っていると、席を立っていた隣の人物が戻ってきて、万葉を見るとにこりと笑った。
「万葉さん、こんばんは」
「師匠、こんばんは!」
師匠と呼ばれた見るからに優男は、着流し姿という古風ないで立ちだ。
「今日、師匠は何飲んでます?」
「今日は、ウイスキーにしてみました。ぶり大根がおすすめだそうです。一人じゃ食べきれませんので、万葉さんを待っていました」
「じゃあぶり大根で! 師匠、今日は〆にあっつあっつのお鍋が食べたいです!」
「いいですよ、味噌ちゃんこにしましょうか」
「最高です、熱燗熱燗っと……!」
万葉は注文をすると、お通しへと箸を進めて、美味しいと顔をほころばせた。師匠はその万葉を見て微笑む。すぐにアツアツのぶり大根が運ばれてきて、万葉は器から漂う香りに頬が緩む。
「師匠、ぶり大根熱いうちに……あつっ!」
「慌てて食べると、火傷をしますよ……ほら、口を拭いてください。がっつくほどお腹が空いていましたか?」
手が伸びてきて、おしぼりで口元を拭かれる。万葉はまじまじと師匠を見つめた。師匠は、端正な顔立ちという表現がしっくりくる男性だった。
どのパーツもバランスが取れて、主張しすぎない。おまけに左目にある泣きぼくろが、なんとも色っぽい。いわゆる美形とはこういう人のことを言うのだろうと、万葉は常々思っていた。
四十代と言っていたのを万葉は知っているが、どう見ても三十ちょっとにしか見えず、飄々とした雰囲気に、着流し姿と少し長い髪が、昔の文豪を思い起こさせるような人物だ。
「僕の顔に、何かついていますか?」
「いや……師匠は四十には見えないきれいな顔だなと」
「お褒めいただき光栄です。今年で四十二になります」
「若見えですね。詐欺だって言われませんか? 十歳マイナスしても大丈夫ですよ、師匠なら」
それにニコニコと柔らかく微笑み、美しい所作でぶり大根を口へと運ぶ。美味しい、と思わず口から洩れた言葉と笑顔に、万葉もにっこりと微笑んだ。
新海はシャープな顔立ちとスタイリッシュさ、そしてエスっ気のある言動が職場で人気だった。何か問題が起きた時に会話を聞いて判断し、そして助け船を出してくれるというポジションからも、頼りにされている。
「イケメンなんだから、私にかまっていないでサクッと彼女作ればいいのに……って、わたしのが大きなお世話だ」
万葉は新海を思考から追い出すと、電車に乗り込んで、最寄りの駅で降りる。商店街を抜けた先の一角に、行きつけのおしゃれな居酒屋があった。真冬の冷たい風が、コートの隙間から突き刺さってくる。寒波から逃げるように、引き戸を開けた。
「こんばんは」
「いらっしゃい!」
カウンターの奥からマスターがにっこりと笑う。万葉はその笑顔を見るとほっとしていつもの席へと着いた。
「万葉ちゃんお疲れ様、はいこれあったかいおしぼりね」
「ありがとうマスター! これを顔に当てるのがもう最高に疲れが取れる……!」
乙女なマスターに渡されたおしぼりで手を温めてから、顔にボスンと当てた。しばらくそうして息を吹き返してから、出されたお通しに目を輝かせる。ホタルイカの醤油漬けに、小ネギが乗っていて見た目もおしゃれだ。
お酒が進むなと思っていると、席を立っていた隣の人物が戻ってきて、万葉を見るとにこりと笑った。
「万葉さん、こんばんは」
「師匠、こんばんは!」
師匠と呼ばれた見るからに優男は、着流し姿という古風ないで立ちだ。
「今日、師匠は何飲んでます?」
「今日は、ウイスキーにしてみました。ぶり大根がおすすめだそうです。一人じゃ食べきれませんので、万葉さんを待っていました」
「じゃあぶり大根で! 師匠、今日は〆にあっつあっつのお鍋が食べたいです!」
「いいですよ、味噌ちゃんこにしましょうか」
「最高です、熱燗熱燗っと……!」
万葉は注文をすると、お通しへと箸を進めて、美味しいと顔をほころばせた。師匠はその万葉を見て微笑む。すぐにアツアツのぶり大根が運ばれてきて、万葉は器から漂う香りに頬が緩む。
「師匠、ぶり大根熱いうちに……あつっ!」
「慌てて食べると、火傷をしますよ……ほら、口を拭いてください。がっつくほどお腹が空いていましたか?」
手が伸びてきて、おしぼりで口元を拭かれる。万葉はまじまじと師匠を見つめた。師匠は、端正な顔立ちという表現がしっくりくる男性だった。
どのパーツもバランスが取れて、主張しすぎない。おまけに左目にある泣きぼくろが、なんとも色っぽい。いわゆる美形とはこういう人のことを言うのだろうと、万葉は常々思っていた。
四十代と言っていたのを万葉は知っているが、どう見ても三十ちょっとにしか見えず、飄々とした雰囲気に、着流し姿と少し長い髪が、昔の文豪を思い起こさせるような人物だ。
「僕の顔に、何かついていますか?」
「いや……師匠は四十には見えないきれいな顔だなと」
「お褒めいただき光栄です。今年で四十二になります」
「若見えですね。詐欺だって言われませんか? 十歳マイナスしても大丈夫ですよ、師匠なら」
それにニコニコと柔らかく微笑み、美しい所作でぶり大根を口へと運ぶ。美味しい、と思わず口から洩れた言葉と笑顔に、万葉もにっこりと微笑んだ。
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