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第二章
第10話
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「ラッキー。今日は、先生たち会議みたいね」
屋上に続く階段の手前にあるのは、大会議室だ。使用中のプレートがかかっている。中から漂ってくる雰囲気から察するに、重要な会議中だろう。
「今のうち、サクッと上っちゃいましょう」
周りに人がいないのを確認してから、俺と川田は忍者かなにかのように、こそこそと階段を上った。
立ち入り禁止とわかっているため、誰も立ち寄っていないらしい。やけに埃っぽくて、鼻がムズムズした。
「へ……くじょん!」
俺がくしゃみをすると、かなりの音が響き渡る。川田は笑いを堪えていたのだが、俺はズと鼻をすすってもう一回くしゃみをした。
「……ちょっと、大丈夫?」
俺がくしゃみを連発するので、笑っていた川田も心配になったようだ、
「だいじょ、ぶ」
またくしゃみが止まらない。もらったティッシュを鼻に詰め込み、俺は気合でくしゃみを止めた。
「――あら?」
とその時、川田が不思議そうな顔をした。
階段の手すりに積もっている埃が、一部剥がれ落ちている。川田につられて目を凝らすと、階段の埃が微妙に足跡の形を残しているのが見えた。
「なにかしら?」
「さあ? 上杉がのぼったんじゃないの?」
大して気に留めず、階段をずんずんあがっていく。
俺は、早く偵察を終えて戻りたかった。
やっと屋上の入り口につけられた鍵にたどり着いた時には、俺はくしゃみを我慢するのに必死で疲れ果てていた。
ティッシュの防御である程度平気だが、それでもなんだかむずむずするような気がしてしまう。
「やっぱり、鍵がついているわね」
川田はドアノブの上の突起にご丁寧についている南京錠をにらんだ。
南京錠は強行突破できたとしても、さすがにドアノブを壊すわけにはいかない。
「ナル、ちゃんと見てる?」
川田は南京錠を指さしたが、すぐに眉根を寄せた。
「戻りましょう……ナルもつらそうだし」
「そうしてくれると助かる」
階段を下りるとき、心なしか俺は早足になっていた。体中がなんだか痒い。おまけに鼻にツッコんだティッシュのせいで、呼吸ができなくて苦しかった。
「――おかえり。どうだった?」
教室に戻ると、上杉と茅野が向かい合って座っていた。どうやら、数学の宿題をしていたらしい。プリントの三問目まで解いているのが目に入った。
「南京錠は普通のやつ。でも、そもそも鍵が閉まっているから、無理なんじゃないかしら」
説明が終わったタイミングで、俺はくしゃみをする。鼻からティッシュを引っこ抜いたせいで、もう一発出た。
「ちょっと、ほんとに大丈夫? 階段上ってる時もずっとひどかったけど」
「だから俺、埃苦手なんだって」
ボソッと呟くと、川田は目を見開いた。
「うそ!? ナルが埃アレルギーだったなんて、聞いてないわよ!」
「川田と違って、デリケートなんだよ」
川田の勢いのいいパンチが俺の腕に入った。
「やっぱり、先生に頼んで開けてもらうほうが無難ね」
実際に見に行って出した川田の結論はそれだった。
「それじゃ面白くないだろ」
上杉はあからさまに不満そうだ。
「せっかくなんだから、内緒で忍び込んだ方が楽しいじゃん?」
「だから、そんなことできないわよ」
「なんとかして解錠できねぇの? 俺、家から工具持ってこようか?」
修繕屋の上杉ならば、きっとすぐに工具で開けられるだろうし、元通りに戻せるはずだ。
だが、それが先生たちに見つからないこととイコールで結ばれるわけではない。
いい案が見つからないため、ずっと議論を重ねているが答えは出ない。
「つべこべ言うより、壊したほうが簡単だな」
「壊したらダメだって言ってるの!」
話し合いが進まないのは、上杉と川田の意見が根本的に合わないからだ。大胆な上杉と違い、川田は非常に保守的だ。
今にもけんかしそうな二人を見ながら、茅野はなぜか楽しそうな顔をしている。
「南京錠って開けかたにコツがあって、簡単に開くんだぜ。ちょっと前、琴音の自転車の鍵を開けてやったじゃねーか」
「あれは私物。屋上のは公共のものでしょ」
「でも、あっという間に明日にでものぼれるぞ」
あまりにも簡単なことだと言われてしまい、川田が押され気味になりはじめる。
たしかに、鍵さえクリアすればどうってことないことだろう。上杉がいれば大丈夫なように思えて、俺は秘かにワクワクしてきた。
「でもダメ。いくらこの村がなくなるからとはいえ……」
川田はそこまで言ってから口をつぐんだ。
瞬間、俺と上杉は顔を見合わせる。上杉はすぐさま川田を覗き込んだ。
「おい、琴音。村がなくなるってどういうことだ?」
「え、あれ? 誰かから聞いてない?」
首を横に振ると、川田は眉根を寄せた。
「ナルも聞いていないなら……誰も知らされていないってことで間違いないわね」
屋上に続く階段の手前にあるのは、大会議室だ。使用中のプレートがかかっている。中から漂ってくる雰囲気から察するに、重要な会議中だろう。
「今のうち、サクッと上っちゃいましょう」
周りに人がいないのを確認してから、俺と川田は忍者かなにかのように、こそこそと階段を上った。
立ち入り禁止とわかっているため、誰も立ち寄っていないらしい。やけに埃っぽくて、鼻がムズムズした。
「へ……くじょん!」
俺がくしゃみをすると、かなりの音が響き渡る。川田は笑いを堪えていたのだが、俺はズと鼻をすすってもう一回くしゃみをした。
「……ちょっと、大丈夫?」
俺がくしゃみを連発するので、笑っていた川田も心配になったようだ、
「だいじょ、ぶ」
またくしゃみが止まらない。もらったティッシュを鼻に詰め込み、俺は気合でくしゃみを止めた。
「――あら?」
とその時、川田が不思議そうな顔をした。
階段の手すりに積もっている埃が、一部剥がれ落ちている。川田につられて目を凝らすと、階段の埃が微妙に足跡の形を残しているのが見えた。
「なにかしら?」
「さあ? 上杉がのぼったんじゃないの?」
大して気に留めず、階段をずんずんあがっていく。
俺は、早く偵察を終えて戻りたかった。
やっと屋上の入り口につけられた鍵にたどり着いた時には、俺はくしゃみを我慢するのに必死で疲れ果てていた。
ティッシュの防御である程度平気だが、それでもなんだかむずむずするような気がしてしまう。
「やっぱり、鍵がついているわね」
川田はドアノブの上の突起にご丁寧についている南京錠をにらんだ。
南京錠は強行突破できたとしても、さすがにドアノブを壊すわけにはいかない。
「ナル、ちゃんと見てる?」
川田は南京錠を指さしたが、すぐに眉根を寄せた。
「戻りましょう……ナルもつらそうだし」
「そうしてくれると助かる」
階段を下りるとき、心なしか俺は早足になっていた。体中がなんだか痒い。おまけに鼻にツッコんだティッシュのせいで、呼吸ができなくて苦しかった。
「――おかえり。どうだった?」
教室に戻ると、上杉と茅野が向かい合って座っていた。どうやら、数学の宿題をしていたらしい。プリントの三問目まで解いているのが目に入った。
「南京錠は普通のやつ。でも、そもそも鍵が閉まっているから、無理なんじゃないかしら」
説明が終わったタイミングで、俺はくしゃみをする。鼻からティッシュを引っこ抜いたせいで、もう一発出た。
「ちょっと、ほんとに大丈夫? 階段上ってる時もずっとひどかったけど」
「だから俺、埃苦手なんだって」
ボソッと呟くと、川田は目を見開いた。
「うそ!? ナルが埃アレルギーだったなんて、聞いてないわよ!」
「川田と違って、デリケートなんだよ」
川田の勢いのいいパンチが俺の腕に入った。
「やっぱり、先生に頼んで開けてもらうほうが無難ね」
実際に見に行って出した川田の結論はそれだった。
「それじゃ面白くないだろ」
上杉はあからさまに不満そうだ。
「せっかくなんだから、内緒で忍び込んだ方が楽しいじゃん?」
「だから、そんなことできないわよ」
「なんとかして解錠できねぇの? 俺、家から工具持ってこようか?」
修繕屋の上杉ならば、きっとすぐに工具で開けられるだろうし、元通りに戻せるはずだ。
だが、それが先生たちに見つからないこととイコールで結ばれるわけではない。
いい案が見つからないため、ずっと議論を重ねているが答えは出ない。
「つべこべ言うより、壊したほうが簡単だな」
「壊したらダメだって言ってるの!」
話し合いが進まないのは、上杉と川田の意見が根本的に合わないからだ。大胆な上杉と違い、川田は非常に保守的だ。
今にもけんかしそうな二人を見ながら、茅野はなぜか楽しそうな顔をしている。
「南京錠って開けかたにコツがあって、簡単に開くんだぜ。ちょっと前、琴音の自転車の鍵を開けてやったじゃねーか」
「あれは私物。屋上のは公共のものでしょ」
「でも、あっという間に明日にでものぼれるぞ」
あまりにも簡単なことだと言われてしまい、川田が押され気味になりはじめる。
たしかに、鍵さえクリアすればどうってことないことだろう。上杉がいれば大丈夫なように思えて、俺は秘かにワクワクしてきた。
「でもダメ。いくらこの村がなくなるからとはいえ……」
川田はそこまで言ってから口をつぐんだ。
瞬間、俺と上杉は顔を見合わせる。上杉はすぐさま川田を覗き込んだ。
「おい、琴音。村がなくなるってどういうことだ?」
「え、あれ? 誰かから聞いてない?」
首を横に振ると、川田は眉根を寄せた。
「ナルも聞いていないなら……誰も知らされていないってことで間違いないわね」
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