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第3章
第20話
しおりを挟む いつでも来ていいと言われたので、月日は翌日の放課後に累の家にお邪魔することにした。
一緒に下校すると目立ってしまうので、学校から離れた公園で落ち合うことにする。
まるで忍者のようだが、そうでもしないと月日の取り巻きがうるさい。合流して誰にも後をつけられていないと確認すると、累の家に向かった。
「自転車通学ってことは、累の家はそんなに遠くないのよね?」
「ええ、自転車で十五分くらい、歩くと二十五分ちょっとです」
大通り沿いを進み、環状線から二本奥に入ったところに累の実家がある。
山田という表札がかけられており、洋風で豪華な一軒家だった。
「どうぞ、誰もいないんで」
「お、お邪魔します」
誰もいないのに入っていいのか、と何度も累に確認したが大丈夫だといわれた。
それほどまで累に信用されているとなると、月日も行くのをためらうのはよくないと決定づけた。
家の中に入ると、自分の家ではない匂いがした。
(どどどどどどどうしようっ、そういえばワタシ、女の子の家に入るの初めて!)
累の家にいるんだと思うと、緊張で心臓がどくどくしてくる。累はサクサクとリビングに入っていってしまった。
「先輩、こっち来てください」
玄関で固まってしまっていると、いつまでたっても来ない月日にしびれを切らしたのか、リビングから累の声が聞こえてくる。
「い、い、い、今行くわっ!」
鞄を抱えると月日はおそるおそるリビングに向かう。
十畳以上はある広々としたリビングには、大きなテーブルとソファが置いてあった。
キッチンも広く、そこに四脚のイスとテーブルが置かれている。
「すごく広いお家なのね」
「年の離れた兄が二人いて……もう結婚してますけど。三人も子どもがいたから、広い家に両親がこだわっていました」
「お兄さんがいたのね」
冷やしたお茶をもらうと、月日は一気に飲み干す。
緊張で、全身から汗が噴き出していた。
「ちなみに、今から夕飯作るんですが、先輩は食べたいものありますか?」
「食べたいもの!?」
声が裏返ってしまい、累にフフッと笑われる。累は挙動不審な月日にお茶のおかわりをよそうと、冷蔵庫の中身を調べ始めた。
「うーん。あ、ひき肉ある」
累は冷蔵庫の前で腕組みしていた手を解き、月日に向き直る。
「先輩、ハンバーグはどうですか? 好き?」
「す……ええ、好きよ」
「じゃあハンバーグ作りましょう。手伝ってください」
月日がキッチンに向かうと、累がエプロンを取り出して広げる。
「……これじゃヒラヒラしすぎかな……」
まるでワンピースにも見えるデザインのエプロンだ。
「っていうか、このエプロン誰のだろう?」
累は眉を寄せたのだが、月日はエプロンのあまりの可愛さに瞳を輝かせた。
「か、かわいいっ!」
「……先輩が嫌じゃないなら、これ使います?」
「いいの!?」
「私のはこっちにあるんで」
シンプルな黒いエプロンを身に着けると、累は長い髪の毛を一つにくくる。
借りた花柄のワンピース型エプロンをつけると、月日の気持ちが急激に上がっていく。ルンルンしていると、累にくすくす笑われてしまった。
「な、なに? やっぱりおかしい?」
「違いますよ。ほんとに、可愛いものが好きなんだなって思って」
月日は恥ずかしくて一瞬目をそらしたが「可愛いものって気分が上がるのよね」と呟いた。
「このエプロンはもう一つないの? 累も似合うと思うんだけど」
くるりと一回転してみると、ふわりとエプロンの裾が舞い上がる。
「先輩のほうが似合いますよ」
「ほんと!?」
「可愛いです」
「嬉しい! これなら、苦手なお料理もおいしく作れる気がするわ!」
よーし、やるわよと意気込んだ月日が、玉ねぎと格闘の末に、泣き始めたのはそれから数分後のことである。
一緒に下校すると目立ってしまうので、学校から離れた公園で落ち合うことにする。
まるで忍者のようだが、そうでもしないと月日の取り巻きがうるさい。合流して誰にも後をつけられていないと確認すると、累の家に向かった。
「自転車通学ってことは、累の家はそんなに遠くないのよね?」
「ええ、自転車で十五分くらい、歩くと二十五分ちょっとです」
大通り沿いを進み、環状線から二本奥に入ったところに累の実家がある。
山田という表札がかけられており、洋風で豪華な一軒家だった。
「どうぞ、誰もいないんで」
「お、お邪魔します」
誰もいないのに入っていいのか、と何度も累に確認したが大丈夫だといわれた。
それほどまで累に信用されているとなると、月日も行くのをためらうのはよくないと決定づけた。
家の中に入ると、自分の家ではない匂いがした。
(どどどどどどどうしようっ、そういえばワタシ、女の子の家に入るの初めて!)
累の家にいるんだと思うと、緊張で心臓がどくどくしてくる。累はサクサクとリビングに入っていってしまった。
「先輩、こっち来てください」
玄関で固まってしまっていると、いつまでたっても来ない月日にしびれを切らしたのか、リビングから累の声が聞こえてくる。
「い、い、い、今行くわっ!」
鞄を抱えると月日はおそるおそるリビングに向かう。
十畳以上はある広々としたリビングには、大きなテーブルとソファが置いてあった。
キッチンも広く、そこに四脚のイスとテーブルが置かれている。
「すごく広いお家なのね」
「年の離れた兄が二人いて……もう結婚してますけど。三人も子どもがいたから、広い家に両親がこだわっていました」
「お兄さんがいたのね」
冷やしたお茶をもらうと、月日は一気に飲み干す。
緊張で、全身から汗が噴き出していた。
「ちなみに、今から夕飯作るんですが、先輩は食べたいものありますか?」
「食べたいもの!?」
声が裏返ってしまい、累にフフッと笑われる。累は挙動不審な月日にお茶のおかわりをよそうと、冷蔵庫の中身を調べ始めた。
「うーん。あ、ひき肉ある」
累は冷蔵庫の前で腕組みしていた手を解き、月日に向き直る。
「先輩、ハンバーグはどうですか? 好き?」
「す……ええ、好きよ」
「じゃあハンバーグ作りましょう。手伝ってください」
月日がキッチンに向かうと、累がエプロンを取り出して広げる。
「……これじゃヒラヒラしすぎかな……」
まるでワンピースにも見えるデザインのエプロンだ。
「っていうか、このエプロン誰のだろう?」
累は眉を寄せたのだが、月日はエプロンのあまりの可愛さに瞳を輝かせた。
「か、かわいいっ!」
「……先輩が嫌じゃないなら、これ使います?」
「いいの!?」
「私のはこっちにあるんで」
シンプルな黒いエプロンを身に着けると、累は長い髪の毛を一つにくくる。
借りた花柄のワンピース型エプロンをつけると、月日の気持ちが急激に上がっていく。ルンルンしていると、累にくすくす笑われてしまった。
「な、なに? やっぱりおかしい?」
「違いますよ。ほんとに、可愛いものが好きなんだなって思って」
月日は恥ずかしくて一瞬目をそらしたが「可愛いものって気分が上がるのよね」と呟いた。
「このエプロンはもう一つないの? 累も似合うと思うんだけど」
くるりと一回転してみると、ふわりとエプロンの裾が舞い上がる。
「先輩のほうが似合いますよ」
「ほんと!?」
「可愛いです」
「嬉しい! これなら、苦手なお料理もおいしく作れる気がするわ!」
よーし、やるわよと意気込んだ月日が、玉ねぎと格闘の末に、泣き始めたのはそれから数分後のことである。
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