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第3章
第18話
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帰宅した月日は、部屋に入るなりジェニーを抱きしめた。
「ジェニー! なんかおかしいわ、おかしいのよワタシ――!!」
「うるっさい月日いいいぃ!」
隣の部屋から壁を叩かれて、月日は「きゃあ!」と悲鳴をあげた。
「なにがきゃあだ! 少しは黙っとけこの色ボケぇぇぇっ!」
「色ボケてないわよっ! 永遠ちゃんのバカっ!」
壁に向かってイーッとしてから、月日は背筋を正した。はるるんのポスターがあるのを思い出し、彼女のほうに向きなおる。
ミルクティ色に髪を染めて、薄茶色の大きな瞳を向けている可愛い女の子――はるるん(注※ポスター)がいた。
「今日覗き込んでみてわかったんだけど、累の瞳は焦げ茶色なのよね。はるるんと違って、ってまた累っ! なんでっ!」
姉の部屋から壁をたたく音が聞こえてきて月日は口を閉じた。
「ジェニー。ワタシ、はるるんを見ると心が落ち着くのに、累を見ると落ち着かなくてそわそわしちゃう……」
勉強机の上に置かれた、ティム用の小さな空のベッドを見て月日は落ち込んだ。
いまだにティムの行方はつかめていない。
「心臓が苦しい……」
月日はジェニーを力いっぱい抱きしめて気持ちを切り替えると、宿題に取り掛かることにした。
翌日の朝。
月日の教室に累がやってきた。窓の外をぼうっと眺めていた月日は、クラスメイトに呼ばれて振り返る。
扉の前に立つ累の姿を見るなり、椅子を後ろに飛ばす勢いで立ち上がる。慌ててドアに近づくと、累の手にはとあるものが握られていた。
「おはよう。それ……」
赤とピンクのチェック柄の包みは見覚えがある。月日が昨日、累に作った弁当だ。
「おはようございます十条先輩。昨日はありがとうございました。それで――」
累が教室にやってきたことに驚いて忘れていたが、今は完全に「十条月日」だ。そして、周りからの視線に気づく。
「ちょっと、こっち来て」
累の手を引っ張って、月日は大慌てで踊り場の階段の裏側に逃げ込んだ。
「累、嬉しいけど目立つからっ!」
「……先輩のさっきの行動のほうが目立ちますけど」
「とにかくっ、洗ってくれたの? ありがとう」
累はうなずいたあと、胸元のポケットに差し込まれたペンを取り出して月日に見せてくる。
「あ、そういえば。それって、累の私物で間違ってないわよね?」
「探していたんです。先輩が拾ってくれたんですね」
月日は累に謝るついでに、彼女のシャープペンを返そうと弁当箱に入れていた。
しかし、累が指についたご飯粒を食べたものだから、すっかり頭から抜けて言いそびれてしまっていた。
「遅くなっちゃってごめんね」
「大事なものだったので、嬉しいです」
累は胸元に戻すと、月日を見上げた。
「十条先輩。今日のお昼、生徒会室に来てください」
彼女がほんのちょっとだけ首をかしげると、さらり、と長い黒髪が揺れた。
「え、ワタシに用事?」
「ええ」
「どうして?」
それに累はにこりと口の端を持ち上げた。
「秘密です」
途端、月日の顔が熱くなる。慌てて隠そうとして、しどろもどろになってしまった。累は再度首を傾げたあと、口を開く。
「お昼休みにお弁当箱を返します。じゃあまた先輩。生徒会室で」
「ええ、わかったわ」
踊り場から出て行く累の後ろ姿を見送ってから、月日は高鳴る胸を押さえて呼吸を整える。
「ちょっと、ワタシ、やっぱりなんかおかしいかも……」
告白の呼び出しを受けた時とは違う、初めての胸の高鳴りを感じる。誰かに呼び出される昼休みが待ち遠しいと思えたのは、初めてだった。
「ジェニー! なんかおかしいわ、おかしいのよワタシ――!!」
「うるっさい月日いいいぃ!」
隣の部屋から壁を叩かれて、月日は「きゃあ!」と悲鳴をあげた。
「なにがきゃあだ! 少しは黙っとけこの色ボケぇぇぇっ!」
「色ボケてないわよっ! 永遠ちゃんのバカっ!」
壁に向かってイーッとしてから、月日は背筋を正した。はるるんのポスターがあるのを思い出し、彼女のほうに向きなおる。
ミルクティ色に髪を染めて、薄茶色の大きな瞳を向けている可愛い女の子――はるるん(注※ポスター)がいた。
「今日覗き込んでみてわかったんだけど、累の瞳は焦げ茶色なのよね。はるるんと違って、ってまた累っ! なんでっ!」
姉の部屋から壁をたたく音が聞こえてきて月日は口を閉じた。
「ジェニー。ワタシ、はるるんを見ると心が落ち着くのに、累を見ると落ち着かなくてそわそわしちゃう……」
勉強机の上に置かれた、ティム用の小さな空のベッドを見て月日は落ち込んだ。
いまだにティムの行方はつかめていない。
「心臓が苦しい……」
月日はジェニーを力いっぱい抱きしめて気持ちを切り替えると、宿題に取り掛かることにした。
翌日の朝。
月日の教室に累がやってきた。窓の外をぼうっと眺めていた月日は、クラスメイトに呼ばれて振り返る。
扉の前に立つ累の姿を見るなり、椅子を後ろに飛ばす勢いで立ち上がる。慌ててドアに近づくと、累の手にはとあるものが握られていた。
「おはよう。それ……」
赤とピンクのチェック柄の包みは見覚えがある。月日が昨日、累に作った弁当だ。
「おはようございます十条先輩。昨日はありがとうございました。それで――」
累が教室にやってきたことに驚いて忘れていたが、今は完全に「十条月日」だ。そして、周りからの視線に気づく。
「ちょっと、こっち来て」
累の手を引っ張って、月日は大慌てで踊り場の階段の裏側に逃げ込んだ。
「累、嬉しいけど目立つからっ!」
「……先輩のさっきの行動のほうが目立ちますけど」
「とにかくっ、洗ってくれたの? ありがとう」
累はうなずいたあと、胸元のポケットに差し込まれたペンを取り出して月日に見せてくる。
「あ、そういえば。それって、累の私物で間違ってないわよね?」
「探していたんです。先輩が拾ってくれたんですね」
月日は累に謝るついでに、彼女のシャープペンを返そうと弁当箱に入れていた。
しかし、累が指についたご飯粒を食べたものだから、すっかり頭から抜けて言いそびれてしまっていた。
「遅くなっちゃってごめんね」
「大事なものだったので、嬉しいです」
累は胸元に戻すと、月日を見上げた。
「十条先輩。今日のお昼、生徒会室に来てください」
彼女がほんのちょっとだけ首をかしげると、さらり、と長い黒髪が揺れた。
「え、ワタシに用事?」
「ええ」
「どうして?」
それに累はにこりと口の端を持ち上げた。
「秘密です」
途端、月日の顔が熱くなる。慌てて隠そうとして、しどろもどろになってしまった。累は再度首を傾げたあと、口を開く。
「お昼休みにお弁当箱を返します。じゃあまた先輩。生徒会室で」
「ええ、わかったわ」
踊り場から出て行く累の後ろ姿を見送ってから、月日は高鳴る胸を押さえて呼吸を整える。
「ちょっと、ワタシ、やっぱりなんかおかしいかも……」
告白の呼び出しを受けた時とは違う、初めての胸の高鳴りを感じる。誰かに呼び出される昼休みが待ち遠しいと思えたのは、初めてだった。
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