42 / 46
第五章
第41話
しおりを挟む
なぜか、ずっと昔から、父親の病気を知っていた。
千歳は虫の知らせや直感ではなく、その事実を知っていた。しかし、知っていたのに理由は分からない。思い出そうとするたびに、頭にもやが立ち込めてきてしまう上に、ひどい頭痛がするので、思い出すことは止めた。
知っていた理由を探すことを止めて、千歳は家族と一緒に過ごすことに全力を注いだ。
この地球上で、誰が一番自分のことを愛しているかを知った。両親は、帰ってきた千歳を迎え入れ、懐の深さに千歳は胸を打たれた。
例え病気が蝕んだとして、寿命を刻一刻と縮めているのであれば、最期のひとときまで、ずっと一緒にいたいと思った。
再就職は、それからしてもいいと思っていた。
その千歳の願いは叶った。
余命数ヶ月と宣告されてから、父は一年ほど生きた。父の最期を看取るのは辛かったけれども、心の準備ができていて、そしてなぜか、天国でチビが待っていてくれているのだから大丈夫と、確信していた。
そうぼんやり思うのではなく、確信できた。天国の門の前で、チビが尻尾を振っているのが千歳には分かっていた。
兄も夏前には帰国し、家族四人で過ごした。
いったんバラバラになっていた家族は、やっぱりどんなことがあっても家族のままで、一生、死ぬまで家族なのだと改めて思っていた。
最期まで必死で生きる父の背中は愛おしく、笑った顔を忘れないように、瞼のシャッターをたくさんきった。
そうして父の葬儀が終わったのは師走の終わりに差し掛かったころで、千歳は凍えるほどに寒い海岸へと、毎晩のように出かけてはぼうっと海を眺めていた。
とてつもなく寒くて、もはや身体の感覚がなくなるかと思うほどだったのだが、それに相反して心は落ち着いていた。
その日はクリスマスイブの夜だった。
千歳は虫の知らせや直感ではなく、その事実を知っていた。しかし、知っていたのに理由は分からない。思い出そうとするたびに、頭にもやが立ち込めてきてしまう上に、ひどい頭痛がするので、思い出すことは止めた。
知っていた理由を探すことを止めて、千歳は家族と一緒に過ごすことに全力を注いだ。
この地球上で、誰が一番自分のことを愛しているかを知った。両親は、帰ってきた千歳を迎え入れ、懐の深さに千歳は胸を打たれた。
例え病気が蝕んだとして、寿命を刻一刻と縮めているのであれば、最期のひとときまで、ずっと一緒にいたいと思った。
再就職は、それからしてもいいと思っていた。
その千歳の願いは叶った。
余命数ヶ月と宣告されてから、父は一年ほど生きた。父の最期を看取るのは辛かったけれども、心の準備ができていて、そしてなぜか、天国でチビが待っていてくれているのだから大丈夫と、確信していた。
そうぼんやり思うのではなく、確信できた。天国の門の前で、チビが尻尾を振っているのが千歳には分かっていた。
兄も夏前には帰国し、家族四人で過ごした。
いったんバラバラになっていた家族は、やっぱりどんなことがあっても家族のままで、一生、死ぬまで家族なのだと改めて思っていた。
最期まで必死で生きる父の背中は愛おしく、笑った顔を忘れないように、瞼のシャッターをたくさんきった。
そうして父の葬儀が終わったのは師走の終わりに差し掛かったころで、千歳は凍えるほどに寒い海岸へと、毎晩のように出かけてはぼうっと海を眺めていた。
とてつもなく寒くて、もはや身体の感覚がなくなるかと思うほどだったのだが、それに相反して心は落ち着いていた。
その日はクリスマスイブの夜だった。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
心の落とし物
緋色刹那
ライト文芸
・完結済み(2024/10/12)。また書きたくなったら、番外編として投稿するかも
・第4回、第5回ライト文芸大賞にて奨励賞をいただきました!!✌︎('ω'✌︎ )✌︎('ω'✌︎ )
〈本作の楽しみ方〉
本作は読む喫茶店です。順に読んでもいいし、興味を持ったタイトルや季節から読んでもオッケーです。
知らない人、知らない設定が出てきて不安になるかもしれませんが、喫茶店の常連さんのようなものなので、雰囲気を楽しんでください(一応説明↓)。
〈あらすじ〉
〈心の落とし物〉はありませんか?
どこかに失くした物、ずっと探している人、過去の後悔、忘れていた夢。
あなたは忘れているつもりでも、心があなたの代わりに探し続けているかもしれません……。
喫茶店LAMP(ランプ)の店長、添野由良(そえのゆら)は、人の未練が具現化した幻〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉と、それを探す生き霊〈探し人(さがしびと)〉に気づきやすい体質。
ある夏の日、由良は店の前を何度も通る男性に目を止め、声をかける。男性は数年前に移転した古本屋を探していて……。
懐かしくも切ない、過去の未練に魅せられる。
〈主人公と作中用語〉
・添野由良(そえのゆら)
洋燈町にある喫茶店LAMP(ランプ)の店長。〈心の落とし物〉や〈探し人〉に気づきやすい体質。
・〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉
人の未練が具現化した幻。あるいは、未練そのもの。
・〈探し人(さがしびと)〉
〈心の落とし物〉を探す生き霊で、落とし主。当人に代わって、〈心の落とし物〉を探している。
・〈未練溜まり(みれんだまり)〉
忘れられた〈心の落とし物〉が行き着く場所。
・〈分け御霊(わけみたま)〉
生者の後悔や未練が物に宿り、具現化した者。込められた念が強ければ強いほど、人のように自由意志を持つ。いわゆる付喪神に近い。
シリウスの本音を君に
くろのあずさ
ライト文芸
間山孝太。俺はお前が大っ嫌いだ!
たとえ直接お前にもう言えないとしても、この気持ちだけは変わらない。
百合に対する気持ちほどに。
間山孝太が嫌いでライバル視し、百合に想いを寄せる彼の思いの先には――?
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?
石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。
ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。
ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。
「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。
扉絵は汐の音さまに描いていただきました。
実はこれ実話なんですよ
tomoharu
恋愛
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!1年後には大ヒット間違いなし!!
作品情報【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎ智伝説&夢物語】【トモレオ突破椿】など
・【やりすぎ智久伝説&夢物語】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。
小さい頃から今まで主人公である【智久】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね!
・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。
頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください!
特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる