死神と過ごすクリスマス

第四章

第39話

「君たちは今すぐにでも、戻れる。一ヶ月かかるって言ってた精査は終わったんだ」

　千歳は覗き込んでくる瞳から目がそらせないまま、じっとしていた。すると、死神がその千歳の様子に気がついた。

「——千歳さん！」

　死神がやってくる気配がする。しかし、視線を目の前の青年からそらすことができない。まるで、何かの金縛りにかかってしまったかのように、瞳が動かなかった。

「すぐに、戻れるんだけど、条件があってね」

　青年は穏やかに、そして幸せそうにそう言葉を紡いだ。

「魂の状態で過ごしていた時の記憶を、消さないと元の生活に戻れないんだ」

　はっきりと、チャンスの神様はそう告げる。怖くなった千歳は、死神を求めて手を宙へと漂わせた。

　千歳の手に、死神が触れた。そのよく知る温かさに、安心すると同時に恐怖がやんわりと押し寄せてきた。

　目の前の青年の、圧倒的な存在感に、自分の魂が吹き飛ぶような気配を感じていた。

「本当は、全部消さないといけない。だけど、一つだけ、記憶を残しておいてあげる。これが、僕が千歳くんにあげる、クリスマスプレゼント。魂で過ごしていたこの一週間で君が経験したこと。その中で、たった一つ、記憶として残しておくとしたら、君は、何を選ぶ？」

　迷うことのないその瞳は、見つめる誰もが美しさのあまり言葉を失う。そんな瞳にごっそりと心の奥底まで透視されているかのような状況で、千歳は目を瞬かせた。

「何って……」

「それとも、このまま、記憶を持ったまま死んで、一回人生そのものをリセットする？」

　それもありだよ。チャンスは一度きり。

　簡単に紡がれた言葉は、深い波紋を広げて千歳に届く。

　自分が間違いで死んでしまって、実家に死神と帰省して、死神に名前をつけてクリスマスプレゼントをもらった記憶。

　それを持ったままもう一度やり直すのか、一部だけを持って元に戻るのか。

　千歳は、温かく心を穏やかにしてくれる死神の手をぎゅっと握る。何も言わない死神は、ただただ、そこに立っているだけだった。

「……あたしは……」

　一度ゆっくりと目をつぶる。そして、しっかりと考えてから目を開けて、金縛りから抜け出した。

　青年の手に触れて、それから、死神を見つめる。

　相変わらず乏しい表情の中に、不安とそして優しさがにじんでいた。千歳は息を大きく吐いた。

「——あたしは、」