死神と過ごすクリスマス

神原オホカミ【書籍発売中】

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第四章

第30話

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 目が覚めた時には朝になっていた。目を開けると、カーテンの隙間からほんのりと陽が差し込んでいる。そのカーテンを見て、天井を見て、千歳はここはどこだったっけと思った。

「……実家だ!」

 飛び起きると、ベッドの上にいた。千歳の様子に気がついて、机で仕事をしていた死神が振り返った。

「おはようございます、千歳さん」

「あ、おはよ。あれ、私いつの間に寝ちゃって」

 死神の顔を見て、いつもとすっかり変わらないその表情に、千歳はふと安心した。死神はすでに、細い黒いネクタイを締め、新しいスーツに着替えていた。千歳が昨日解いたネクタイは、部屋のどこにもなかった。

「死神、具合良くなったみたいね」

「おかげさまで。ありがとうございました」

 ベッドに寝かせてくれたのだろう。千歳は重くなかったかなとそんなことを思ったが、元々身体がないのだから重さも何もないか、と気を取り直した。

「ちょっと、下行ってきてもいい?」

「どうぞ」

 千歳は朝の光が美しいうちに、両親の顔を見ようと思った。朝起きて一番元気な顔を見たかった。

 バタバタと階段を下りて行くと、居間に二人がいた。千歳の胸が高鳴る。

「お父さん……」

 千歳の父は、立ち上がって丁度仏壇に手を合わせてようとしているところだった。

 懐かしいその風景に、千歳の胸が締め付けられた。

「お父さん、ただいま」

 聞こえることは無いその声を、父の前でつぶやく。仏壇の前で手を合わせながら、目をつぶって何かを祈っている姿は、今まで感じたことがないくらいに神々しく、神秘的に思えた。

 キッチンを見ると、朝ご飯の用意がされている。千歳はそちらへ向かっていき、そして二人分の食事が並べられた食卓を見る。

 母が、温かいお味噌汁をよそっていた。

 その、小さくしわの増えた手。

「母さん、ただいま」

 千歳は、振り絞るようにそう告げ、こみあげてくる想いをぐっと飲み込むようにして、その場に立ち尽くしたまま、しばらく実家ののどかな風景の中に混じった。
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