死神と過ごすクリスマス

神原オホカミ【書籍発売中】

文字の大きさ
上 下
6 / 46
第一章

第5話

しおりを挟む
「私は、八田千歳《はったちとせ》さん、つまりあなたの命が終わる瞬間を記録するために、上より派遣されました。他の死神はあまりしませんが、私は記録に行く前には必ずその人間のデータを調べてから行きます。どういう人生だったか、どういう終わり方をするのかを見てから行きます。なので、調べていたら、同じ人間の台帳が二冊出てきてしまった」

 死神は少し困ったような顔をして、首をかしげた。

「それが、あたしと、もう一人の千歳さん?」

「そうです。私が慌てて調べ直していると、どうやら誰かが名前の読み仮名を間違って入力していたようで、そのミスに気付かないままになってしまっていたようです。そして、さっきの死神が派遣されていることを知って、私は大慌てで上に報告して現場へと向かったんですが、止める寸前であなたは死んでしまいました」

 もう少し申し訳なさそうにしてほしいものなのだが、業務内容を淡々と伝えている目の前の死神は、いかにも仕事をきちんとこなすタイプのように千歳には見えた。

「で、誰のミスなの?」

「調べていますので、お答えできかねます。ですが、本当に死ぬ予定だったのは、八田千歳《はちだちとせ》さんです。漢字も生年月日も一緒だったので、間違えてしまったのでしょう」

 千歳は溜息を吐いた。紅茶を一気に喉の奥に流し込むと、熱い紅茶が喉を伝っておなかに流れ込んでいくのを感じた。――死んでいるのに。

「住所だって違ったでしょ。なんで気づかなかったんだろ?」

「私たちには住所というものの概念がありませんので、ただの入力ミスとして処理されたんでしょう」

 神様たちに住所という概念がないことに千歳は驚いた。

「だって、住所が違えば、郵便だって届かないじゃない?」

「私たちは思考を共有できます。ですから、その人間や神の情報があれば、その人がどこにいて何をしているのか瞬時に分かります。なので、あなたには間違って、八田千歳《はちだちとせ》さんに行くべきだった人生の情報が入ってしまっている可能性もあります。例えば、身に覚えがないようなことで、いきなり怒鳴られたり、褒められたりとかありませんでしたか?」

 それを聞いて千歳は、まさかと思った。

 自分がしたことではないのに、急に上司が怒ってくることはしょっちゅうあった。さらに、してもいないことを褒められることもあった。

 ――それが、まさかの人違いだったとは。

「その感じですと、心当たりがあるようですね。それは、私たちのミスです。八田千歳《はちだちとせ》さんが解消しなければいけないカルマまで、あなたが引き受けていた可能性があります。こんなこと、めったに起こらないことですから、私も少々困惑しております」

「その割には、困惑している顔じゃないけど……」

「私たちには、人間に備わっているような感情部分は乏しいのです。さっきのアロハシャツの死神は、まあ、その、人間よりの反応をするタイプということです」

 いつの間にか外は夕焼けになっていて、カラスが鳴いていた。

「私には助手が二人います。とても優秀な助手です。彼らにこの案件の調べはつけさせますので、八田千歳《はったちとせ》さん。あなたは申し訳ありませんが、しばらくこのままで、私と一緒にいてください」

 真面目な顔でそう言われた千歳には、その言葉が死刑宣告のようにさえ感じられた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ぼくたちのたぬきち物語

アポロ
ライト文芸
一章にエピソード①〜⑩をまとめました。大人のための童話風ライト文芸として書きましたが、小学生でも読めます。 どの章から読みはじめても大丈夫です。 挿絵はアポロの友人・絵描きのひろ生さん提供。 アポロとたぬきちの見守り隊長、いつもありがとう。 初稿はnoteにて2021年夏〜22年冬、「こたぬきたぬきち、町へゆく」のタイトルで連載していました。 この思い入れのある作品を、全編加筆修正してアルファポリスに投稿します。 🍀一章│①〜⑩のあらすじ🍀 たぬきちは、化け狸の子です。 生まれてはじめて変化の術に成功し、ちょっとおしゃれなかわいい少年にうまく化けました。やったね。 たぬきちは、人生ではじめて山から町へ行くのです。(はい、人生です) 現在行方不明の父さんたぬき・ぽんたから教えてもらった記憶を頼りに、憧れの町の「映画館」を目指します。 さて無事にたどり着けるかどうか。 旅にハプニングはつきものです。 少年たぬきちの小さな冒険を、ぜひ見守ってあげてください。 届けたいのは、ささやかな感動です。 心を込め込め書きました。 あなたにも、届け。

マキノのカフェ開業奮闘記 ~Café Le Repos~

Repos
ライト文芸
カフェ開業を夢見たマキノが、田舎の古民家を改装して開業する物語。 おいしいご飯がたくさん出てきます。 いろんな人に出会って、気づきがあったり、迷ったり、泣いたり。 助けられたり、恋をしたり。 愛とやさしさののあふれるお話です。 なろうにも投降中

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【1】胃の中の君彦【完結】

ホズミロザスケ
ライト文芸
喜志芸術大学・文芸学科一回生の神楽小路君彦は、教室に忘れた筆箱を渡されたのをきっかけに、同じ学科の同級生、佐野真綾に出会う。 ある日、人と関わることを嫌う神楽小路に、佐野は一緒に課題制作をしようと持ちかける。最初は断るも、しつこく誘ってくる佐野に折れた神楽小路は彼女と一緒に食堂のメニュー調査を始める。 佐野や同級生との交流を通じ、閉鎖的だった神楽小路の日常は少しずつ変わっていく。 「いずれ、キミに繋がる物語」シリーズ一作目。 ※完結済。全三十六話。(トラブルがあり、完結後に編集し直しましたため、他サイトより話数は少なくなってますが、内容量は同じです) ※当作品は「カクヨム」「小説家になろう」にも同時掲載しております。(過去に「エブリスタ」「貸し本棚」にも掲載)

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

心の落とし物

緋色刹那
ライト文芸
・完結済み(2024/10/12)。また書きたくなったら、番外編として投稿するかも ・第4回、第5回ライト文芸大賞にて奨励賞をいただきました!!✌︎('ω'✌︎ )✌︎('ω'✌︎ ) 〈本作の楽しみ方〉  本作は読む喫茶店です。順に読んでもいいし、興味を持ったタイトルや季節から読んでもオッケーです。  知らない人、知らない設定が出てきて不安になるかもしれませんが、喫茶店の常連さんのようなものなので、雰囲気を楽しんでください(一応説明↓)。 〈あらすじ〉  〈心の落とし物〉はありませんか?  どこかに失くした物、ずっと探している人、過去の後悔、忘れていた夢。  あなたは忘れているつもりでも、心があなたの代わりに探し続けているかもしれません……。  喫茶店LAMP(ランプ)の店長、添野由良(そえのゆら)は、人の未練が具現化した幻〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉と、それを探す生き霊〈探し人(さがしびと)〉に気づきやすい体質。  ある夏の日、由良は店の前を何度も通る男性に目を止め、声をかける。男性は数年前に移転した古本屋を探していて……。  懐かしくも切ない、過去の未練に魅せられる。 〈主人公と作中用語〉 ・添野由良(そえのゆら)  洋燈町にある喫茶店LAMP(ランプ)の店長。〈心の落とし物〉や〈探し人〉に気づきやすい体質。 ・〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉  人の未練が具現化した幻。あるいは、未練そのもの。 ・〈探し人(さがしびと)〉  〈心の落とし物〉を探す生き霊で、落とし主。当人に代わって、〈心の落とし物〉を探している。 ・〈未練溜まり(みれんだまり)〉  忘れられた〈心の落とし物〉が行き着く場所。 ・〈分け御霊(わけみたま)〉  生者の後悔や未練が物に宿り、具現化した者。込められた念が強ければ強いほど、人のように自由意志を持つ。いわゆる付喪神に近い。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...