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第6章 お互いの意識
第42話
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「うううううう――」
「あーはいはい。杏子、ちょっと休憩必要みたいね」
翌日、杏子の悩ましい溜息を聞くなり、美奈子は休憩もかねてデッキへ連れていってくれた。
「わんこくんと進展あった?」
「まったくない。なのに、進もうと思うと邪魔されてる気がする」
「あーはいはい。なにやってるんだか。好きならつき合えばいいのにわざわざややこしくしちゃって」
「だってあの晴なんだもん」
「じゃあ杏子を悩ます男は、小さい時のわんこくんと同じ?」
思い出すだけで顔面が発火しそうだ。わかっているけど、今の晴は昔の晴ではない。
齧りついてくる八重歯は変わらないが、指も声も、昔とは全然違う。
「晴だけど、しっかり大人の男性で……だから困っちゃう」
「ライバルもいるし、婚姻届もどこにあるかわからない。その上、期限まではあとひと月ちょっと。どうするの?」
三ヶ月は短い。誰かに彼氏のふりをしてもらうのは? という美奈子の提案もあったのだが、ずるい気がして安易に頷けなかった。
「観念してわんこくんの手に落ちちゃえ」
「うーん……」
「じゃあ独身王子を取る?」
「杉浦さんとはそういうんじゃないんだよねぇ」
「……あれ、俺のこと話してた?」
後ろから声をかけられて、杏子も美奈子も短く悲鳴を上げた。二人にひらひらと手を振りながら、爽やかな笑顔で要が現れた。
「あっと……私すぐ出さなきゃいけない書類忘れてた、じゃあね杏子!」
「美奈子!」
にこっと笑って美奈子は去って行く。彼女の後ろ姿に手を伸ばして、杏子は所在なく手を下ろした。
「俺の話題?」
「ええ、まあ。あはは…!」
杏子は苦い顔を隠すように笑ったが、たぶん隠しきれてないだろう。
「あーはいはい。杏子、ちょっと休憩必要みたいね」
翌日、杏子の悩ましい溜息を聞くなり、美奈子は休憩もかねてデッキへ連れていってくれた。
「わんこくんと進展あった?」
「まったくない。なのに、進もうと思うと邪魔されてる気がする」
「あーはいはい。なにやってるんだか。好きならつき合えばいいのにわざわざややこしくしちゃって」
「だってあの晴なんだもん」
「じゃあ杏子を悩ます男は、小さい時のわんこくんと同じ?」
思い出すだけで顔面が発火しそうだ。わかっているけど、今の晴は昔の晴ではない。
齧りついてくる八重歯は変わらないが、指も声も、昔とは全然違う。
「晴だけど、しっかり大人の男性で……だから困っちゃう」
「ライバルもいるし、婚姻届もどこにあるかわからない。その上、期限まではあとひと月ちょっと。どうするの?」
三ヶ月は短い。誰かに彼氏のふりをしてもらうのは? という美奈子の提案もあったのだが、ずるい気がして安易に頷けなかった。
「観念してわんこくんの手に落ちちゃえ」
「うーん……」
「じゃあ独身王子を取る?」
「杉浦さんとはそういうんじゃないんだよねぇ」
「……あれ、俺のこと話してた?」
後ろから声をかけられて、杏子も美奈子も短く悲鳴を上げた。二人にひらひらと手を振りながら、爽やかな笑顔で要が現れた。
「あっと……私すぐ出さなきゃいけない書類忘れてた、じゃあね杏子!」
「美奈子!」
にこっと笑って美奈子は去って行く。彼女の後ろ姿に手を伸ばして、杏子は所在なく手を下ろした。
「俺の話題?」
「ええ、まあ。あはは…!」
杏子は苦い顔を隠すように笑ったが、たぶん隠しきれてないだろう。
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