39 / 67
6、叫びの婦人
第37話
しおりを挟む*
ココは荷ほどきをする際に、絵画の婦人にレイアウトのアドバイスをもらうことにした。
壁から外した絵は思ったよりも重たかったのだが、家令《スチュワード》が手伝ってくれてココの部屋に飾ることにした。
不思議なことに、シュヴァイゲンと名付けた家令が持つと、すべての物が彼と同様、壁をすり抜けるようになってしまう。
どの屋敷にいる家令よりも、ランフォート城の家令のほうが万能に違いない。
そうして叫び声で夜中に起こされた日からずっと、ココは婦人の絵とともに過ごしている。
そして、婦人のセンスは一言でいえば素晴らしかった。
ココだけだったら殺風景な部屋になるところを、彼女の助言によって見事に回避できた。
持ってきた品々やノアから贈られた大量の調度品たちは、部屋のあちこちで日常的に使えるような配置になった。
「もう、櫛のレディも気兼ねなく使えるわね」
ココは昨晩、パーティー会場にて『美貌』を取り戻している。
今までは櫛のレディを使うことは控えていたが、もうそれもしなくて済む。
金でできた櫛を取り出し、ココは自ら髪にとおす。すると櫛の彼女は、非常に喜んでココの髪の毛をつやつやにしてくれた。
『ココちゃん、元に戻ったのね!』
「ええ。おかげさまで。きれいにしてくれる?」
『もちろんよっ! 任せてちょうだい!』
長年付き合ってきた櫛のレディは、溜め込んでいた力を発散させるように、ココの髪を極上の手触りに変えていく。
ココの毛髪は、本来のストロベリーブロンドの色つやを取り戻していた。枯れ枝のような見た目は消え去り、誰もが息を呑むような美しい姿が鏡に映りこんでいた。
櫛のレディだけでなく、ノアと絵画の婦人もココの変貌を喜んでくれ、自分は身体中の痛みがなくなったことが嬉しかった。
『ココちゃんに使ってもらえて、お道具たちも喜びますわね』
壁に飾られた婦人が、満面の笑みでココに話しかけてきた。
「婦人、私はすでにこの城での生活に満足しているわ」
人間がほとんどおらず、骨董遺物に囲まれている生活だ。なにも苦労と心配がなく、穏やかで素晴らしい日々だ。
『女の子はハッピーなのが一番よ、可愛いココちゃん』
「そうね。やっと女の子って言える見た目になったわ」
婦人とのおしゃべりはココにとって新鮮だ。絵画の婦人はまるで祖母か叔母のように優しかった。
絵画婦人は気さくで明るく楽しく、彼女に話しかけられた道具たちは嬉しそうにしている。
会話できる道具が限られているのもあり、そういった理由も重なって、彼女の声が画中に溜まってしまったのだろう。
おしゃべりが好きというのは本当で、婦人は寝ている時以外は、小鳥がさえずるように会話を楽しんでいた。
それから特に婦人は恋物語が大好きだ。劇場で観たというオペラや歌劇の話をたくさん聞かせてくれる。
婦人の絵は骨董呪具であって、生前存在していた本物の婦人の魂が宿っているわけではない。記憶の一部を継承しているようにも思えるが、おそらく応接室で話されたことを自分の記憶だと思っているのだろう。
それなのに、オペラを身振り手振りで再現してくれる婦人の言動は、まるで本当に劇を見てきたかのように臨場感にあふれている。
婦人とおしゃべりするのは面白くて、ココは毎日充実していた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる