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6、叫びの婦人
第37話
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ココは荷ほどきをする際に、絵画の婦人にレイアウトのアドバイスをもらうことにした。
壁から外した絵は思ったよりも重たかったのだが、家令《スチュワード》が手伝ってくれてココの部屋に飾ることにした。
不思議なことに、シュヴァイゲンと名付けた家令が持つと、すべての物が彼と同様、壁をすり抜けるようになってしまう。
どの屋敷にいる家令よりも、ランフォート城の家令のほうが万能に違いない。
そうして叫び声で夜中に起こされた日からずっと、ココは婦人の絵とともに過ごしている。
そして、婦人のセンスは一言でいえば素晴らしかった。
ココだけだったら殺風景な部屋になるところを、彼女の助言によって見事に回避できた。
持ってきた品々やノアから贈られた大量の調度品たちは、部屋のあちこちで日常的に使えるような配置になった。
「もう、櫛のレディも気兼ねなく使えるわね」
ココは昨晩、パーティー会場にて『美貌』を取り戻している。
今までは櫛のレディを使うことは控えていたが、もうそれもしなくて済む。
金でできた櫛を取り出し、ココは自ら髪にとおす。すると櫛の彼女は、非常に喜んでココの髪の毛をつやつやにしてくれた。
『ココちゃん、元に戻ったのね!』
「ええ。おかげさまで。きれいにしてくれる?」
『もちろんよっ! 任せてちょうだい!』
長年付き合ってきた櫛のレディは、溜め込んでいた力を発散させるように、ココの髪を極上の手触りに変えていく。
ココの毛髪は、本来のストロベリーブロンドの色つやを取り戻していた。枯れ枝のような見た目は消え去り、誰もが息を呑むような美しい姿が鏡に映りこんでいた。
櫛のレディだけでなく、ノアと絵画の婦人もココの変貌を喜んでくれ、自分は身体中の痛みがなくなったことが嬉しかった。
『ココちゃんに使ってもらえて、お道具たちも喜びますわね』
壁に飾られた婦人が、満面の笑みでココに話しかけてきた。
「婦人、私はすでにこの城での生活に満足しているわ」
人間がほとんどおらず、骨董遺物に囲まれている生活だ。なにも苦労と心配がなく、穏やかで素晴らしい日々だ。
『女の子はハッピーなのが一番よ、可愛いココちゃん』
「そうね。やっと女の子って言える見た目になったわ」
婦人とのおしゃべりはココにとって新鮮だ。絵画の婦人はまるで祖母か叔母のように優しかった。
絵画婦人は気さくで明るく楽しく、彼女に話しかけられた道具たちは嬉しそうにしている。
会話できる道具が限られているのもあり、そういった理由も重なって、彼女の声が画中に溜まってしまったのだろう。
おしゃべりが好きというのは本当で、婦人は寝ている時以外は、小鳥がさえずるように会話を楽しんでいた。
それから特に婦人は恋物語が大好きだ。劇場で観たというオペラや歌劇の話をたくさん聞かせてくれる。
婦人の絵は骨董呪具であって、生前存在していた本物の婦人の魂が宿っているわけではない。記憶の一部を継承しているようにも思えるが、おそらく応接室で話されたことを自分の記憶だと思っているのだろう。
それなのに、オペラを身振り手振りで再現してくれる婦人の言動は、まるで本当に劇を見てきたかのように臨場感にあふれている。
婦人とおしゃべりするのは面白くて、ココは毎日充実していた。
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