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4、情熱のチョーカー
第19話
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ステイシーは一日も経たず、ココが予想した通りおとなしくなった。
そうして公爵家が安堵したのも束の間。
一週間も過ぎると、手鏡を取り上げようとするとステイシーは大暴れし、手が付けられない事態となっていた。
寝ている間にこっそり持ち出すと、手元にないと気付いた瞬間から泣き叫び始める。
一度はシュードルフ男爵邸に帰宅したものの、酷い状態になってしまったのでまたフレイソン公爵家に戻されることになった。
マッソンとポーラも滞在しようとしたのだが、一般人がいるわけにはいかず、ステイシーの面倒を見るために公爵邸に使用人扱いで通っている状態だ。
そして彼らについては、そもそもなんでもない人たちが、由緒正しきシュードルフ邸に居座っていいわけがないと批判が後を絶たない。
それでも、人がいなければ家が傷む。二人のうち一人は必ずシュードルフ邸に居るように、フレイソン大公爵が書類を整えた。
その一方。
骨董遺物によって疎まれていたのが嘘のように、シュードルフの悪い噂がめっきり減り、名家の威厳が増している。
それに伴って、今やココは聖人のようにあがめられつつある。ココがシュードルフではなくなってしまったことが残念だ、という声もあちこちで囁かれていた。
そうなってくるといよいよ、マッソンもポーラも、後回しにしていた貴族の登録をしなくては言い返すことさえできない。
ステイシーの機嫌がいい時に行えば難なくできるはずだが、それを一番に拒んでいるのはポーラだった。
ノアはステイシーの状態を確認しに公爵家に向かった帰り、次のターゲットであるポーラに会った。
フレイソン公爵家の離れのゲストルームに到着すると、まるで誰もいないかのように静まり返っている。空気がよどんでいるようにさえ感じられる玄関前に立ち、迎えもないのでドアベルを鳴らす。
しばらくすると、やつれたような顔でポーラがすぐに出迎えに来た。使用人もいないらしく、屋敷にはてんで人影が見えない。
挨拶をすますと、ノアは応接室の椅子に腰を下ろした。
「お疲れのようですね、ポーラ夫人。大丈夫ですか?」
訊ねると、ポーラはこれ見よがしに頬に手を当ててため息を吐いた。
「大丈夫じゃありませんわ。ステイシーのこともそうですが、爵位のことで悩んでおりますの」
「といいますと?」
「主人が貴族になるのは喜ばしいことですが、そうなると……あたくしもあのイヤリングをつける権利が発生してしまうので……」
この際、ポーラの前職が娼婦だったということは、水に流そうという話になっている。そうしないとイヤリングを引き継げる人間がいないからだ。
もし前職を無視するのであれば、貴族として登録した瞬間、ポーラにも『シュードルフの秘宝』を身に着ける資格が発生する。
ポーラがイヤリングを引き継いでくれさえすれば、ステイシーは助かる。
厄介者を抱え込んでいるフレイソン公爵家としても、この状態を打破するためにポーラに圧力をかけ始めていた。
そうして公爵家が安堵したのも束の間。
一週間も過ぎると、手鏡を取り上げようとするとステイシーは大暴れし、手が付けられない事態となっていた。
寝ている間にこっそり持ち出すと、手元にないと気付いた瞬間から泣き叫び始める。
一度はシュードルフ男爵邸に帰宅したものの、酷い状態になってしまったのでまたフレイソン公爵家に戻されることになった。
マッソンとポーラも滞在しようとしたのだが、一般人がいるわけにはいかず、ステイシーの面倒を見るために公爵邸に使用人扱いで通っている状態だ。
そして彼らについては、そもそもなんでもない人たちが、由緒正しきシュードルフ邸に居座っていいわけがないと批判が後を絶たない。
それでも、人がいなければ家が傷む。二人のうち一人は必ずシュードルフ邸に居るように、フレイソン大公爵が書類を整えた。
その一方。
骨董遺物によって疎まれていたのが嘘のように、シュードルフの悪い噂がめっきり減り、名家の威厳が増している。
それに伴って、今やココは聖人のようにあがめられつつある。ココがシュードルフではなくなってしまったことが残念だ、という声もあちこちで囁かれていた。
そうなってくるといよいよ、マッソンもポーラも、後回しにしていた貴族の登録をしなくては言い返すことさえできない。
ステイシーの機嫌がいい時に行えば難なくできるはずだが、それを一番に拒んでいるのはポーラだった。
ノアはステイシーの状態を確認しに公爵家に向かった帰り、次のターゲットであるポーラに会った。
フレイソン公爵家の離れのゲストルームに到着すると、まるで誰もいないかのように静まり返っている。空気がよどんでいるようにさえ感じられる玄関前に立ち、迎えもないのでドアベルを鳴らす。
しばらくすると、やつれたような顔でポーラがすぐに出迎えに来た。使用人もいないらしく、屋敷にはてんで人影が見えない。
挨拶をすますと、ノアは応接室の椅子に腰を下ろした。
「お疲れのようですね、ポーラ夫人。大丈夫ですか?」
訊ねると、ポーラはこれ見よがしに頬に手を当ててため息を吐いた。
「大丈夫じゃありませんわ。ステイシーのこともそうですが、爵位のことで悩んでおりますの」
「といいますと?」
「主人が貴族になるのは喜ばしいことですが、そうなると……あたくしもあのイヤリングをつける権利が発生してしまうので……」
この際、ポーラの前職が娼婦だったということは、水に流そうという話になっている。そうしないとイヤリングを引き継げる人間がいないからだ。
もし前職を無視するのであれば、貴族として登録した瞬間、ポーラにも『シュードルフの秘宝』を身に着ける資格が発生する。
ポーラがイヤリングを引き継いでくれさえすれば、ステイシーは助かる。
厄介者を抱え込んでいるフレイソン公爵家としても、この状態を打破するためにポーラに圧力をかけ始めていた。
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