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3、鏡のレディ
第16話
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談話室に到着すると、憂鬱で重たい雰囲気がノアにまとわりついてくる。
室内には、まるで墓場から掘り起こされたかと思うほど顔色の悪いシュードルフ男爵とポーラ夫人、そしてフレイソン大公爵が座っていた。
どうか極秘事項のためご内密にと前置きし、ノアは使用人たちに下がってもらう。
「早速ですが、ココから話を聞いてきました」
お茶には手をつけず、ノアは急くようにして話を切り出す。待っていたと言わんばかりに、みんなが身を乗り出してきた。
「例の『シュードルフの秘宝』は、やはり王家に降りかかる厄災をはねのけているそうです」
見たものをくぎ付けにする美しい見た目や実用的な機能とは反対に、骨董遺物《アンティークジェム》が求めるものは大きい。
「代償として、『美貌』を吸い取られるのは既知の事実だと思いますが、こんなものを見つけました。これしかなかったのですが、十分な証拠となるかと」
ノアは、城にあった古紙で作成した偽装書類を懐から取り出した。
そこには『シュードルフの秘宝:王家の災難払いのために制作』と書かれている。
案の定、紙に書かれている文字を確認した一同の顔から、血の気が引いていった。
ランフォート伯爵は王家の特別枠の家臣ということもあり、一般人はもちろん貴族であっても必要以上に詮索してはいけないという暗黙の掟がある。
そのため、これが偽造だとわかる人物はいないはずだった。
「……どうにかならないのですか?」
変わり果てたステイシーの姿を思い出したポーラが、充血した目をノアに向けてくる。
「外すことは不可能です。このまま、様子を見ることしか」
ノアがいかにも残念そうにつぶやくと、マッソンとポーラはギリギリと奥歯を噛みしめた。
「ココ! あの小娘が、謀ったんだ!」
ポーラが大声を出して放った言葉にマッソンが同意するが、フレイソン大公爵が首を横に振った。
「外せと言ったのは我々のほうですよ、ポーラ殿」
「しかしっ!」
さらになにかを言いかけたポーラだったが、ノアの次の言葉に絶句した。
「でしたら、ポーラ殿が身に着けたらよろしいでしょう。ステイシー様は嫁入りが決まっています。彼女の代わりになるのは母として当然のことかと思います」
ステイシーを哀れに思うのならば、そうするのが手っ取り早いとノアは嫌味なく微笑む。
ものすごく当たり前のことを伝えただけなのだが、ポーラの顔は瞬時に曇った。
「王家の守護者となるわけですから、陛下から支援もいただきましょう。フレイソン大公爵様にも、一筆書いていただければ」
「ち……ちょっと待ってください!」
話が勝手に進められそうになり、ポーラは困惑した様子で口をはさんできた。
先ほどまでの勢いはどこへいったのか、顔面には焦りが滲んでいる。
「たしかに娘はかわいそうですが、たしか、娼婦だとシュードルフの爵位を引き継ぐわけにはいかないとかなんとか聞いたような……」
しりすぼみになっている姿からは、自分が娘のように犠牲になりたくないと思っているのがひしひしと伝わってくる。
あんな姿になるとわかって、好んで骨董遺物をつけようとは誰も思わないのが現実だ。
たとえ、それによって名誉が得られたとしても。
「シュードルフの掟とは言え、やむを得ない状況です。それに、娼婦だったのは過去のこと。ステイシー様に一筆書いていただき、わたしと大公爵様、それからニール殿の署名で夫人を家長に――」
「なにを言ってるんですか! 嫌です!」
ポーラはものすごい勢いで立ち上がる。
「あんな、あんな化け物のような姿になるなんて、まっぴらごめんです!」
「ですが、ステイシー嬢は――」
「父親が誰かもわからない娘なのよっ!」
マッソンがメルゾを幽閉していたことを知るポーラとしては、自分が幽閉される可能性があることを、すんなり受け入れることはできないようだ。
他人はよくて自分には甘い、典型的なくずだなとノアは胸中で毒づいた。
室内には、まるで墓場から掘り起こされたかと思うほど顔色の悪いシュードルフ男爵とポーラ夫人、そしてフレイソン大公爵が座っていた。
どうか極秘事項のためご内密にと前置きし、ノアは使用人たちに下がってもらう。
「早速ですが、ココから話を聞いてきました」
お茶には手をつけず、ノアは急くようにして話を切り出す。待っていたと言わんばかりに、みんなが身を乗り出してきた。
「例の『シュードルフの秘宝』は、やはり王家に降りかかる厄災をはねのけているそうです」
見たものをくぎ付けにする美しい見た目や実用的な機能とは反対に、骨董遺物《アンティークジェム》が求めるものは大きい。
「代償として、『美貌』を吸い取られるのは既知の事実だと思いますが、こんなものを見つけました。これしかなかったのですが、十分な証拠となるかと」
ノアは、城にあった古紙で作成した偽装書類を懐から取り出した。
そこには『シュードルフの秘宝:王家の災難払いのために制作』と書かれている。
案の定、紙に書かれている文字を確認した一同の顔から、血の気が引いていった。
ランフォート伯爵は王家の特別枠の家臣ということもあり、一般人はもちろん貴族であっても必要以上に詮索してはいけないという暗黙の掟がある。
そのため、これが偽造だとわかる人物はいないはずだった。
「……どうにかならないのですか?」
変わり果てたステイシーの姿を思い出したポーラが、充血した目をノアに向けてくる。
「外すことは不可能です。このまま、様子を見ることしか」
ノアがいかにも残念そうにつぶやくと、マッソンとポーラはギリギリと奥歯を噛みしめた。
「ココ! あの小娘が、謀ったんだ!」
ポーラが大声を出して放った言葉にマッソンが同意するが、フレイソン大公爵が首を横に振った。
「外せと言ったのは我々のほうですよ、ポーラ殿」
「しかしっ!」
さらになにかを言いかけたポーラだったが、ノアの次の言葉に絶句した。
「でしたら、ポーラ殿が身に着けたらよろしいでしょう。ステイシー様は嫁入りが決まっています。彼女の代わりになるのは母として当然のことかと思います」
ステイシーを哀れに思うのならば、そうするのが手っ取り早いとノアは嫌味なく微笑む。
ものすごく当たり前のことを伝えただけなのだが、ポーラの顔は瞬時に曇った。
「王家の守護者となるわけですから、陛下から支援もいただきましょう。フレイソン大公爵様にも、一筆書いていただければ」
「ち……ちょっと待ってください!」
話が勝手に進められそうになり、ポーラは困惑した様子で口をはさんできた。
先ほどまでの勢いはどこへいったのか、顔面には焦りが滲んでいる。
「たしかに娘はかわいそうですが、たしか、娼婦だとシュードルフの爵位を引き継ぐわけにはいかないとかなんとか聞いたような……」
しりすぼみになっている姿からは、自分が娘のように犠牲になりたくないと思っているのがひしひしと伝わってくる。
あんな姿になるとわかって、好んで骨董遺物をつけようとは誰も思わないのが現実だ。
たとえ、それによって名誉が得られたとしても。
「シュードルフの掟とは言え、やむを得ない状況です。それに、娼婦だったのは過去のこと。ステイシー様に一筆書いていただき、わたしと大公爵様、それからニール殿の署名で夫人を家長に――」
「なにを言ってるんですか! 嫌です!」
ポーラはものすごい勢いで立ち上がる。
「あんな、あんな化け物のような姿になるなんて、まっぴらごめんです!」
「ですが、ステイシー嬢は――」
「父親が誰かもわからない娘なのよっ!」
マッソンがメルゾを幽閉していたことを知るポーラとしては、自分が幽閉される可能性があることを、すんなり受け入れることはできないようだ。
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