16 / 68
3、鏡のレディ
第13話
しおりを挟む
――翌日。
フレイソン公爵家に『シュードルフの秘宝』の詳細がわかったと報せを飛ばすと、すぐに出向いてほしいと迎えの馬車が来た。
「ノア。グズグズしていないで支度をして」
「うーん、別にもうこのまま放っておいてもいいような気がするし、正直なところ面倒くさくって」
ココは髪をとかしていた櫛を机に戻す。
向かいのソファに座り、文字通り穴が開くほどじっと見つめてくるノアをココは睨む。
「私の顔は、これから先ずっと死ぬまで眺めていられるんだから。早くノアの復讐にも取り掛かりたいし」
「ココが側に居てくれるなら、もうそれでもいい……って、いたたたた」
ノアをソファから引っ張って立たせたのは、ランフォート城の壁を自由自在にすり抜ける家令《スチュワード》だ。
始終無言の彼は、玄関脇に掛けてある絵画の中に描かれている人物でもある。
ココは彼に無口と名付けている。
「無口。あなたけっこう心臓に悪いわね」
神出鬼没すぎる彼にはいまだ慣れておらず、ココは眉根を寄せる。無口は申し訳なさそうに頭を下げたが、言葉を発せないのだから仕方ない。
彼は少々俯いた姿で絵画に描かれているため、もともと口がないのがしゃべれない原因だ。
「シュヴァイゲン、そのヘンタイをサクッと着替えさて」
「変態って、そんな言いかた」
「早く着替えなさい、丸見えよ」
ノアはあっという間に服を脱がされ全裸にされている。
半透明の家令によって、上等な衣服に着替えさせられているノアを横目に、ココは優雅に紅茶のカップを手に取った。
「身支度が終わったわね。じゃあ、今日のノアの仕事は?」
「『シュードルフの秘宝は、対価を吸い取る代わりに、王家に降り注ぐ災厄をはねのけている』という調べの裏が取れた、と伝えること」
ランフォート城にあった古臭い紙に、シュードルフの秘宝のことが書かれているように細工をしたものをノアは取り出す。
「百点ね」
「それから、先日地下から取ってきた『鏡のレディ』をステイシーに渡すこと」
「三百点! さすがノア!」
褒められてすっかり機嫌が良くなったノアは、ココの隣に座って彼女の髪の毛をひとふさ取ると、愛おしそうに口づけした。
相変わらず、ココへの愛情は深くて直球だ。
「しっかり、あちらの味方のふりをしてきてね」
「ココの命令だもの、もちろんだよ」
「ひねり殺してはダメよ」
「……努力する……」
そこだけは心配だ。
なにしろノアは、ココを異常に愛している。
ココにひどい仕打ちをしていた現シュードルフ一族を、ハエでも潰すように殺しかねない。
「誰か殺したら、もうノアとは口きかないからね」
不満なのか、ノアは口をとがらせる。ココは人差し指と中指を自分の唇に当てたあと、その指先でノアの唇に触れた。
みるみるノアの頬が赤くなり、目が見開かれる。
「行ってらっしゃい。帰りを待っているわ」
「……行ってくる」
ココはノアが馬車に乗り込んで出かけていくのを、見えなくなるまでずっと上機嫌で見送った。
フレイソン公爵家に『シュードルフの秘宝』の詳細がわかったと報せを飛ばすと、すぐに出向いてほしいと迎えの馬車が来た。
「ノア。グズグズしていないで支度をして」
「うーん、別にもうこのまま放っておいてもいいような気がするし、正直なところ面倒くさくって」
ココは髪をとかしていた櫛を机に戻す。
向かいのソファに座り、文字通り穴が開くほどじっと見つめてくるノアをココは睨む。
「私の顔は、これから先ずっと死ぬまで眺めていられるんだから。早くノアの復讐にも取り掛かりたいし」
「ココが側に居てくれるなら、もうそれでもいい……って、いたたたた」
ノアをソファから引っ張って立たせたのは、ランフォート城の壁を自由自在にすり抜ける家令《スチュワード》だ。
始終無言の彼は、玄関脇に掛けてある絵画の中に描かれている人物でもある。
ココは彼に無口と名付けている。
「無口。あなたけっこう心臓に悪いわね」
神出鬼没すぎる彼にはいまだ慣れておらず、ココは眉根を寄せる。無口は申し訳なさそうに頭を下げたが、言葉を発せないのだから仕方ない。
彼は少々俯いた姿で絵画に描かれているため、もともと口がないのがしゃべれない原因だ。
「シュヴァイゲン、そのヘンタイをサクッと着替えさて」
「変態って、そんな言いかた」
「早く着替えなさい、丸見えよ」
ノアはあっという間に服を脱がされ全裸にされている。
半透明の家令によって、上等な衣服に着替えさせられているノアを横目に、ココは優雅に紅茶のカップを手に取った。
「身支度が終わったわね。じゃあ、今日のノアの仕事は?」
「『シュードルフの秘宝は、対価を吸い取る代わりに、王家に降り注ぐ災厄をはねのけている』という調べの裏が取れた、と伝えること」
ランフォート城にあった古臭い紙に、シュードルフの秘宝のことが書かれているように細工をしたものをノアは取り出す。
「百点ね」
「それから、先日地下から取ってきた『鏡のレディ』をステイシーに渡すこと」
「三百点! さすがノア!」
褒められてすっかり機嫌が良くなったノアは、ココの隣に座って彼女の髪の毛をひとふさ取ると、愛おしそうに口づけした。
相変わらず、ココへの愛情は深くて直球だ。
「しっかり、あちらの味方のふりをしてきてね」
「ココの命令だもの、もちろんだよ」
「ひねり殺してはダメよ」
「……努力する……」
そこだけは心配だ。
なにしろノアは、ココを異常に愛している。
ココにひどい仕打ちをしていた現シュードルフ一族を、ハエでも潰すように殺しかねない。
「誰か殺したら、もうノアとは口きかないからね」
不満なのか、ノアは口をとがらせる。ココは人差し指と中指を自分の唇に当てたあと、その指先でノアの唇に触れた。
みるみるノアの頬が赤くなり、目が見開かれる。
「行ってらっしゃい。帰りを待っているわ」
「……行ってくる」
ココはノアが馬車に乗り込んで出かけていくのを、見えなくなるまでずっと上機嫌で見送った。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
婚約者に見捨てられた悪役令嬢は世界の終わりにお茶を飲む
めぐめぐ
ファンタジー
魔王によって、世界が終わりを迎えるこの日。
彼女はお茶を飲みながら、青年に語る。
婚約者である王子、異世界の聖女、聖騎士とともに、魔王を倒すために旅立った魔法使いたる彼女が、悪役令嬢となるまでの物語を――
※終わりは読者の想像にお任せする形です
※頭からっぽで
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】待ち望んでいた婚約破棄のおかげで、ついに報復することができます。
みかみかん
恋愛
メリッサの婚約者だったルーザ王子はどうしようもないクズであり、彼が婚約破棄を宣言したことにより、メリッサの復讐計画が始まった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
おかえりなさい。どうぞ、お幸せに。さようなら。
石河 翠
恋愛
主人公は神託により災厄と呼ばれ、蔑まれてきた。家族もなく、神殿で罪人のように暮らしている。
ある時彼女のもとに、見目麗しい騎士がやってくる。警戒する彼女だったが、彼は傷つき怯えた彼女に救いの手を差し伸べた。
騎士のもとで、子ども時代をやり直すように穏やかに過ごす彼女。やがて彼女は騎士に恋心を抱くようになる。騎士に想いが伝わらなくても、彼女はこの生活に満足していた。
ところが神殿から疎まれた騎士は、戦場の最前線に送られることになる。無事を祈る彼女だったが、騎士の訃報が届いたことにより彼女は絶望する。
力を手に入れた彼女は世界を滅ぼすことを望むが……。
騎士の幸せを願ったヒロインと、ヒロインを心から愛していたヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:25824590)をお借りしています。
魔族に育てられた聖女と呪われし召喚勇者【完結】
一色孝太郎
ファンタジー
魔族の薬師グランに育てられた聖女の力を持つ人族の少女ホリーは育ての祖父の遺志を継ぎ、苦しむ人々を救う薬師として生きていくことを決意する。懸命に生きる彼女の周囲には、彼女を慕う人が次々と集まってくる。兄のような幼馴染、イケメンな魔族の王子様、さらには異世界から召喚された勇者まで。やがて世界の運命をも左右する陰謀に巻き込まれた彼女は彼らと力を合わせ、世界を守るべく立ち向かうこととなる。果たして彼女の運命やいかに! そして彼女の周囲で繰り広げられる恋の大騒動の行方は……?
※本作は全 181 話、【完結保証】となります
※カバー画像の著作権は DESIGNALIKIE 様にあります
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~
華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。
突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。
襲撃を受ける元婚約者の領地。
ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!!
そんな数奇な運命をたどる女性の物語。
いざ開幕!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる