13 / 67
2、シュードルフの秘宝
第11話
しおりを挟む*
ココを抱き上げて馬車に乗り込んだまま、ノアは彼女の身体を抱きしめ続けていた。
「ノア、もう放していいわ」
「せっかくだから、もう少しこうしていたいんだけど」
昔からココのことを溺愛していたが、離れている間にどうやらずいぶん、ココに対する愛情をこじらせたようだ。
「いいから放して」
彼の美しい顔を手のひらで押しやると「わかったわかった」と名残惜しそうに解放する。
先ほどまでの素晴らしい高貴なランフォート伯爵はどこへ行ったのか、ココを見つめてくるまなざしは異常な熱を持っているようにも見える。
それは愛情と呼ぶにはあまりにも重たいものだ。
「いい演技だったわ、ノア」
「褒められるなんて嬉しいな」
ココが微笑むと、ノアは嘆息して両手で顔を覆い隠した。
「……君の笑顔を独り占めできるなんて。しかも、こんな間近で」
感極まっているのか、ノアの身体はわなわなと震えている。
やっぱりちょっと、こじらせすぎている気がしてならない。
そんなノアの大げさすぎるリアクションにため息をつきながら、ココは本来の姿の両手を伸ばした。
長く、そして美しく、さらに皺もシミも一つもない。
加えて、痛みがないのが一番うれしかった。
ココは自身の身体に満足すると、馬車の窓を開けて空気を入れ替える。
「ノア、まだまだ始まったばかりよ」
「うん、わかっている。なにがあってもわたしはココを守るよ。ココがわたしを生かしてくれたから」
彼がココに異常に執着するのには理由がある。
そしてそれは、ココにとって都合がいいことでもあった。
「全員地獄に叩き落してやりましょう」
「もちろん」
ノアの灰銀色の瞳の奥に、暗く光る闇が宿っているのをココは知っていた。
「それにしても、ステイシーの暴れっぷりはすごかったわ」
ステイシーが、想像を超える反応をしてくれたのはココにとって嬉しいことだ。
「お誕生日プレゼントを、発狂するほど喜んでくれるなんて」
自分をいじめていた者の悲鳴によって、復讐がスタートする。
最高の出だしでしかない。
「あの女は、いい声で叫んだわね」
ココにとって、彼女たちの苦悶の表情は安らぎに、醜い叫び声は子守歌に代わる。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
【第1章完結】王位を捨てた元王子、冒険者として新たな人生を歩む
凪木桜
ファンタジー
かつて王国の次期国王候補と期待されながらも、自ら王位を捨てた元王子レオン。彼は自由を求め、名もなき冒険者として歩み始める。しかし、貴族社会で培った知識と騎士団で鍛えた剣技は、新たな世界で否応なく彼を際立たせる。ギルドでの成長、仲間との出会い、そして迫り来る王国の影——。過去と向き合いながらも、自らの道を切り開くレオンの冒険譚が今、幕を開ける!
婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる