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1、ココと黄金の骨董品たち
第6話
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偽物のシュードルフ一族が落ちぶれていくのを、この目で見なくてはならない。それはココの使命ともいえた。
ココは自身の手ですべてを制裁するつもりだ。
ついてくるようにノアに促され、ココは城内で世界を覆すための一歩を踏み出した。
迷路のように広い城で、造りは非常に複雑になっている。見た限り、隠し部屋などもたくさんあるようだ。
廊下を抜け、隠し通路を通り、さらに長い廊下を渡った先に、らせん状に作られている石造りの階段が出てくる。
「ここがランフォート城の主塔だよ。上の階に、国の『守護天使様』がいる」
狭くて長い階段を、一歩また一歩と上っていく。百段以上はあるかと思われる階段を上った先にある、最上階の扉の前にココは立った。
扉は石で頑丈に作られている。しかしこれが扉だといわなければ、あまりにも美しい浮彫りに思うだろう。
ココの息が完全に整ったところで、ノアは首から下げたチェーンを引っ張り出した。そこには目もくらむような黄金の鍵がつけられている。
その鍵を、複雑なカラクリの仕掛けがしてある扉の錠に差し込んだ。
天使の羽を模した入り口のからくりが、ゴトゴト回りながら動いていった。
完全に開ききると、恐ろしくまぶしい光が部屋の中から溢れてくる。金色のキラキラ輝く光に満たされた部屋にはいるなり、ココは息を呑んだ。
――ファインデンノルブ王国の神話に登場する天使様が、目の前のベッドの上で無防備に寝ていた。
質のいい調度品に囲まれた部屋の中央、天蓋つきのベッドで天使様は目をつぶっている。
近づいて顔を覗き込むと、ココよりも少々年上に見えるが性別は不明だ。
女性のようにも青年のようにも、子どもにも大人にも見える美しい面立ち。
なめらかで柔らかそうな頬は、花のように淡く上品に色づいている。長い金色のまつ毛は、本物の金でできているような光沢をもつ。
あまりにも人に似ているが、皮膚の質感も髪の毛も人間とは異なっている。まるで、作り物のようだ。
そして人間と決定的に違うのは、天使様の大きさだ。背の高いココとノアと比べても四倍以上はある。それは確実に同じ人間とは呼べない生き物であることはたしかだった。
「天使様は、こうしてずっと寝ているのね」
「千年も昔からこのままの姿だってさ。のんきなものだね」
ココはベッドを一周しながら『守護天使様』を観察したあと、ノアに向きなおる。
「ノア。天使様を起こせる?」
「二分弱ほど」
ノアはベッドの脇にやってくると、ロザリオを取り出して天使様の唇に当てた。すると瞼がゆっくり持ち上がり、まばゆい金色の瞳が現れる。
ココは天使様の近くで深いお辞儀をした。
「守護天使様、わたくしはココ・シュードルフと申します」
天使様の黄金色の瞳がココを一瞥する。感情の読み取れない、不思議な瞳だった。
『シュードルフ……彫金術師の者か』
意識を持っていかれそうになるような、心地よさに魂を奪われるような声音が天使様の口から発せられる。
おそらく、通常の人間であれば卒倒していただろう。骨董遺物となるおおもとの存在なだけあり、神力もけた違いに強すぎた。
天使様は自分の背中に生えている羽根を確認する。
『わたしの羽は、いまだ治らぬのか』
「残念ながら」
半身を起こした天使様の背中にある金色の羽は、今もなお完治していない。一部が欠損したまま、黒く焼けこげたようになっている。
それは悪魔との戦いで負った傷だ。
『信仰心が届かなければ、わたしの羽は戻らない。だからそなたらに彫金の技術を伝えたのに、なにをしている』
「申し訳ございません。時とともに、技術も一族の信頼も失われました」
天使様の表情は変わらなかったが、がっかりしたような空気感がにじみ出た。
『愚かな。それではいつまでたっても治癒できぬ』
天使様は首に巻いてあるチョーカーに嵌められた、黄金色の飾りを撫でる。
骨董遺物を通じて国中から集めた『信仰心』が、この首の飾り玉に貯まって天使様の羽を治癒させる仕組みだ。
見ているとそれはぼわんぼわんと光り輝いている。どうやら、現在王国内に散らばっている骨董遺物が、細々ながらも力を吸い取ってきているようだ。
「天使様。あなたへ人間の根源的な力を必ずやお届けします。ですから、骨董品たちを操る力を私にお授けください」
たくさん集めて届けますとココはかしずく。
『いいだろう。羽を治癒するだけのものを集めてきなさい』
天使様はココの頭上に手を添えて言語として聞き取れない音の波動のようななにかを唱えた。
それが終わると、天使様は無表情のまま瞬きをした。
『――行け』
瞬間、ココたちはいつの間にか天使様の居る部屋から追い出されていた。
先ほど中に入った時に見た、カラクリのほどこされた扉の前にいた。閉まったそれは開くことがなく、入り口と思わしきものは壁と同化してしまっている。
「あれが、守護天使様……」
「ココ、力を授かった気分はどう?」
余韻に浸りながらココがぼうっとしていると、ノアが横から覗き込んできた。
「今までとなにも変わらないわ。本当に力が得られたのかわからないもの」
「試してみたら?」
ココはずっと黙ったまま言うことを聞いてくれなかった、形見のイヤリングに話しかけることにする。
「私の声が聞こえているのなら、「はい」と答えなさい」
『――はい』
ノアを見上げながら、ココはにっこりとほほ笑んだ。
「これで、ノアの復讐も手伝ってあげられるわ」
「楽しみにしているよ」
でもその前に、まずは自分のほうの片づけを開始しなくてはならない――。
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