71 / 74
第6章
第69話 グルメフェア
しおりを挟む
翌朝十時に待ち合わせをしていた駅に行くと、カジュアルな服装をした陽が待っていた。まるで雑誌の撮影現場かと思うような完璧なスタイリングに、芽生は自分がいるのが申し訳なくなってしまった。
「御剣社長、お待たせしました」
「芽生ちゃん、お休みの日に呼び出してごめんね」
芽生はそれに首を横に振った。
「少し移動するね」
陽は芽生の手をさらりとつなぐと、見事にエスコートをした。そのあまりにもスマートな対応に、芽生はさすがだなと感心してしまった。電車に乗ると、陽は芽生に向き直った。
「広場でね、グルメフェアやっているんだ。芽生ちゃん、食べ歩き好き?」
「グルメフェア!?」
芽生のその反応に、陽はにこにこと笑った。
「そう。全国各地のご当地グルメの屋台が集結しているの。レストランでランチ予約しようかと思ったけど、芽生ちゃんこっちの方が好きかと思って」
「好きです、美味しいもの! ありがとうございます!」
美味しいものがあったら、海斗と陸にも買って帰りたいななどと思いつつ、芽生はわくわくしてその広場へと向かった。
最寄りの駅から電車で四駅先、そこから歩いて十分ほどで会場となる公園に到着する。すでに歩いている時からいい匂いが漂ってきて、芽生は浮足立っていた。
「御剣社長は、好きなご当地グルメとかありますか?」
「うーん、なんだろう。海鮮とか好きだよ」
「海鮮ですね! 富山とか、やっぱり日本海側は海鮮が美味しそう」
芽生は入り口でもらったパンフレットを広げながら、何があるのかをチェックする。さすがに全部は食べきれないので、気になったものをまず先に回ることにした。
「芽生ちゃんは、何が好きなの?」
「え、私ですか? うーん、美味しいものは何でも好きですけど、意外と粉もの系好きです。お好み焼きとか、たこ焼きとか」
二人はそんな話をしながら、お目当ての屋台を次々に回っていった。
「御剣社長、食休みにはコロッケ! 絶対このコロッケ美味しいと思います!」
「よく食べるね、芽生ちゃん」
「あ……ごめんなさい。ついつい嬉しくて。私、こういうところ来ることほとんどなくて浮かれちゃいました」
それに陽は芽生の頭を撫でた。温かいお茶を飲みながら、芽生はコロッケを一口食べる。クリームが入っていて、濃厚なコーンの味がぎっしり詰まっており、シャクシャクと口の中で甘みが広がる。
「いいんだよ、芽生ちゃんの喜ぶ顔が見たかったから来たんだから。俺にも一口ちょうだい?」
陽は芽生の手を掴んで、コロッケを口にした。美味しい、とびっくりした顔をする。芽生はその陽の素の笑顔に、思わず心が和らいだ。
「ところで芽生ちゃん、この間の結婚の話だけど」
それに芽生はお茶を詰まらせてむせた。一通りおさまってから、涙目で陽を見ると、真剣な顔をしていた。
「やだ、御剣社長。冗談ですよ。開業資金を負担してくれる人がいたら結婚するなんて、そんなのダメに決まっています」
「どうして?」
「どうしてって……そんなのを理由に結婚するわけにはいかないじゃないですか。好きな人とずっと一緒にいたいから結婚するわけで」
「好きな人とずっと一緒にいたいから、その人が困っていることに手を差し伸べちゃダメなの?」
それは違いますけど、と芽生はコロッケを口にほおばった。コーンの甘みを充分に堪能してから、口の中に押し込む。
「でももしその理屈だったら、御剣社長が私のこと好きっていう、ありえない前提があります」
「ありえなくないよ。俺、本気だよ、芽生ちゃん」
陽の手が伸びてきて、芽生の頬に触れた。じっと覗き込まれて、芽生は陽の目を逆にまじまじと覗き込んでしまった。
「御剣社長、お待たせしました」
「芽生ちゃん、お休みの日に呼び出してごめんね」
芽生はそれに首を横に振った。
「少し移動するね」
陽は芽生の手をさらりとつなぐと、見事にエスコートをした。そのあまりにもスマートな対応に、芽生はさすがだなと感心してしまった。電車に乗ると、陽は芽生に向き直った。
「広場でね、グルメフェアやっているんだ。芽生ちゃん、食べ歩き好き?」
「グルメフェア!?」
芽生のその反応に、陽はにこにこと笑った。
「そう。全国各地のご当地グルメの屋台が集結しているの。レストランでランチ予約しようかと思ったけど、芽生ちゃんこっちの方が好きかと思って」
「好きです、美味しいもの! ありがとうございます!」
美味しいものがあったら、海斗と陸にも買って帰りたいななどと思いつつ、芽生はわくわくしてその広場へと向かった。
最寄りの駅から電車で四駅先、そこから歩いて十分ほどで会場となる公園に到着する。すでに歩いている時からいい匂いが漂ってきて、芽生は浮足立っていた。
「御剣社長は、好きなご当地グルメとかありますか?」
「うーん、なんだろう。海鮮とか好きだよ」
「海鮮ですね! 富山とか、やっぱり日本海側は海鮮が美味しそう」
芽生は入り口でもらったパンフレットを広げながら、何があるのかをチェックする。さすがに全部は食べきれないので、気になったものをまず先に回ることにした。
「芽生ちゃんは、何が好きなの?」
「え、私ですか? うーん、美味しいものは何でも好きですけど、意外と粉もの系好きです。お好み焼きとか、たこ焼きとか」
二人はそんな話をしながら、お目当ての屋台を次々に回っていった。
「御剣社長、食休みにはコロッケ! 絶対このコロッケ美味しいと思います!」
「よく食べるね、芽生ちゃん」
「あ……ごめんなさい。ついつい嬉しくて。私、こういうところ来ることほとんどなくて浮かれちゃいました」
それに陽は芽生の頭を撫でた。温かいお茶を飲みながら、芽生はコロッケを一口食べる。クリームが入っていて、濃厚なコーンの味がぎっしり詰まっており、シャクシャクと口の中で甘みが広がる。
「いいんだよ、芽生ちゃんの喜ぶ顔が見たかったから来たんだから。俺にも一口ちょうだい?」
陽は芽生の手を掴んで、コロッケを口にした。美味しい、とびっくりした顔をする。芽生はその陽の素の笑顔に、思わず心が和らいだ。
「ところで芽生ちゃん、この間の結婚の話だけど」
それに芽生はお茶を詰まらせてむせた。一通りおさまってから、涙目で陽を見ると、真剣な顔をしていた。
「やだ、御剣社長。冗談ですよ。開業資金を負担してくれる人がいたら結婚するなんて、そんなのダメに決まっています」
「どうして?」
「どうしてって……そんなのを理由に結婚するわけにはいかないじゃないですか。好きな人とずっと一緒にいたいから結婚するわけで」
「好きな人とずっと一緒にいたいから、その人が困っていることに手を差し伸べちゃダメなの?」
それは違いますけど、と芽生はコロッケを口にほおばった。コーンの甘みを充分に堪能してから、口の中に押し込む。
「でももしその理屈だったら、御剣社長が私のこと好きっていう、ありえない前提があります」
「ありえなくないよ。俺、本気だよ、芽生ちゃん」
陽の手が伸びてきて、芽生の頬に触れた。じっと覗き込まれて、芽生は陽の目を逆にまじまじと覗き込んでしまった。
1
お気に入りに追加
127
あなたにおすすめの小説
助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません
和泉杏咲
恋愛
両片思いの2人。「年下上司なんてありえない!」 「できない年上部下なんてまっぴらだ」そんな2人は、どうやって結ばれる?
「年下上司なんてありえない!」
「こっちこそ、できない年上の部下なんてまっぴらだ」
思えば、私とあいつは初対面から相性最悪だった!
人材業界へと転職した高井綾香。
そこで彼女を待ち受けていたのは、エリート街道まっしぐらの上司、加藤涼介からの厳しい言葉の数々。
綾香は年下の涼介に対し、常に反発を繰り返していた。
ところが、ある時自分のミスを助けてくれた涼介が気になるように……?
「あの……私なんで、壁ドンされてるんですか?」
「ほら、やってみなよ、体で俺を誘惑するんだよね?」
「はあ!?誘惑!?」
「取引先を陥落させた技、僕にやってみなよ」
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
ネカフェ難民してたら鬼上司に拾われました
瀬崎由美
恋愛
穂香は、付き合って一年半の彼氏である栄悟と同棲中。でも、一緒に住んでいたマンションへと帰宅すると、家の中はほぼもぬけの殻。家具や家電と共に姿を消した栄悟とは連絡が取れない。彼が持っているはずの合鍵の行方も分からないから怖いと、ビジネスホテルやネットカフェを転々とする日々。そんな穂香の事情を知ったオーナーが自宅マンションの空いている部屋に居候することを提案してくる。一緒に住むうち、怖くて仕事に厳しい完璧イケメンで近寄りがたいと思っていたオーナーがド天然なのことを知った穂香。居候しながら彼のフォローをしていくうちに、その意外性に惹かれていく。
羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。
泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。
でも今、確かに思ってる。
―――この愛は、重い。
------------------------------------------
羽柴健人(30)
羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問
座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』
好き:柊みゆ
嫌い:褒められること
×
柊 みゆ(28)
弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部
座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』
好き:走ること
苦手:羽柴健人
------------------------------------------
恋に異例はつきもので ~会社一の鬼部長は初心でキュートな部下を溺愛したい~
泉南佳那
恋愛
「よっしゃー」が口癖の
元気いっぱい営業部員、辻本花梨27歳
×
敏腕だけど冷徹と噂されている
俺様部長 木沢彰吾34歳
ある朝、花梨が出社すると
異動の辞令が張り出されていた。
異動先は木沢部長率いる
〝ブランディング戦略部〟
なんでこんな時期に……
あまりの〝異例〟の辞令に
戸惑いを隠せない花梨。
しかも、担当するように言われた会社はなんと、元カレが社長を務める玩具会社だった!
花梨の前途多難な日々が、今始まる……
***
元気いっぱい、はりきりガール花梨と
ツンデレ部長木沢の年の差超パワフル・ラブ・ストーリーです。
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる