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第6章
第61話 普通の反応
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「ザキちゃん、今日バイト入ってたならラッキーだよ。御剣社長来るって言ってたし」
居酒屋に入って山崎を見つけた芽生がそう伝えると、明らかに山崎は顔を紅潮させて喜んだ。
「マジですか! やばい、お化粧ちゃんとすれば良かった」
「ははは、大丈夫だよ、そのままで可愛いんだから」
今日の居酒屋は猛烈に忙しかった。学生の歓迎会があったり、新入社員の歓迎会があったりと、連日満席に近い状態で、予約で席がパンパンになる。しかし、一定の時間を過ぎると、多くの客が二件目に行くので、ほんの少し忙しさを乗り切ると、あっという間に静かになるのだった。
そんな、ピークが過ぎてくるころに、陽が姿を現した。山崎が「かっこいい」とぼーっとしてしまったので、芽生は彼女の背中をバンバンと叩いた。
「こんばんは、御剣社長」
「こんばんは、芽生ちゃん」
リザーブしておいたカウンター席に通すと、すぐにお絞りとお茶を出した。
「社長はお仕事でしたか?」
「うん、ちょっとバタバタしちゃった。二人きりで会いたいなんて言っておいて、これじゃ全くダメだよね」
「ダメじゃないですよ」
そんな話をしていると、お通しを山崎が持って来て「ありがとう」と微笑んだ陽の色気にやられて、鼻血を吹き出しそうになりながら、よたよたとカウンターの後ろに背中をつけた。
「芽生さんの知り合い、かっこいい人多すぎません!?」
「んー……そお?」
しかし、確かに言われてみれば、優しくてかっこいい人が多い気もするなと芽生は思ってから、涼音のことを急に思い出して、顔を真っ赤にした。
「……ザキちゃん、そうかも」
「ですよね!? 有紀さんもかなりやばいですけど。芽生さんの弟君たちも、写真見ただけですけど可愛いし。大きくなったらそれはモテそうな……」
うん、うんとうなずきながら、芽生はおちつけ心臓!と自分の心臓を押さえてゆっくり息を吐いた。
「さらに御剣社長なんか、雑誌から出てきたみたいな勢いですし」
「うん」
「芽生さんの彼氏も、すごそう」
「それはっ……その……」
そんな話をしていると、陽が目をぱちくりさせた。
「芽生ちゃん、彼氏いるの?」
それに芽生は飛び上がりそうになった。さすがに会社の社長ですと言えるわけもなく、押し黙って目をきょろきょろさせた。
「御剣社長、もっと言ってやってくださいよ。芽生さん全然話してくれなくて」
「ちょっとザキちゃん!」
「そっか、残念だなあ。俺も、芽生ちゃんの彼氏になりたかったのに」
陽に微笑まれて、芽生は苦笑いを返すしかなかった。
「そんな、私のことはどうでもよくて、それよりも何か召し上がります? アスパラが旬なので、美味しいですよ」
「うん、じゃあそれもらおうかな」
「はい!」
芽生はキッチンへ入って行き、有紀にオーダーを伝えた。カウンターに残された山崎は、注文をとったり片づけをしながらてきぱきと仕事をこなす。
「ザキちゃん、聞いてもいい? 芽生ちゃんいつから彼氏いるの?」
陽が話しかけると、山崎はびっくりした顔をして恥ずかしそうにした。そう、これが普通の反応なのを陽は知っている。容姿が恵まれているおかげで、陽は女性に事欠いたことは無い。さらに言えば、だいたいの女性は、声をかければこういう反応をする。そして、社長だと知れば、あからさまに媚を売ってくる人間を見てきた。
(芽生ちゃんは名乗りもしなかったし、びくともしなかった)
可愛い弟とかっこいい幼馴染に見慣れているからかもしれないが、それでも陽は納得できなかった。
(もっと知りたい。俺のことを、普通の男性として見てくれる子を)
「芽生さん話してくれないからあんまり知らないんですけど、たぶん、ここ一ヶ月か二ヶ月くらいですよ」
それに陽はそうなんだと返事をして、厨房から出てきてオーダーを配りに行く芽生の姿を横目で見た。
居酒屋に入って山崎を見つけた芽生がそう伝えると、明らかに山崎は顔を紅潮させて喜んだ。
「マジですか! やばい、お化粧ちゃんとすれば良かった」
「ははは、大丈夫だよ、そのままで可愛いんだから」
今日の居酒屋は猛烈に忙しかった。学生の歓迎会があったり、新入社員の歓迎会があったりと、連日満席に近い状態で、予約で席がパンパンになる。しかし、一定の時間を過ぎると、多くの客が二件目に行くので、ほんの少し忙しさを乗り切ると、あっという間に静かになるのだった。
そんな、ピークが過ぎてくるころに、陽が姿を現した。山崎が「かっこいい」とぼーっとしてしまったので、芽生は彼女の背中をバンバンと叩いた。
「こんばんは、御剣社長」
「こんばんは、芽生ちゃん」
リザーブしておいたカウンター席に通すと、すぐにお絞りとお茶を出した。
「社長はお仕事でしたか?」
「うん、ちょっとバタバタしちゃった。二人きりで会いたいなんて言っておいて、これじゃ全くダメだよね」
「ダメじゃないですよ」
そんな話をしていると、お通しを山崎が持って来て「ありがとう」と微笑んだ陽の色気にやられて、鼻血を吹き出しそうになりながら、よたよたとカウンターの後ろに背中をつけた。
「芽生さんの知り合い、かっこいい人多すぎません!?」
「んー……そお?」
しかし、確かに言われてみれば、優しくてかっこいい人が多い気もするなと芽生は思ってから、涼音のことを急に思い出して、顔を真っ赤にした。
「……ザキちゃん、そうかも」
「ですよね!? 有紀さんもかなりやばいですけど。芽生さんの弟君たちも、写真見ただけですけど可愛いし。大きくなったらそれはモテそうな……」
うん、うんとうなずきながら、芽生はおちつけ心臓!と自分の心臓を押さえてゆっくり息を吐いた。
「さらに御剣社長なんか、雑誌から出てきたみたいな勢いですし」
「うん」
「芽生さんの彼氏も、すごそう」
「それはっ……その……」
そんな話をしていると、陽が目をぱちくりさせた。
「芽生ちゃん、彼氏いるの?」
それに芽生は飛び上がりそうになった。さすがに会社の社長ですと言えるわけもなく、押し黙って目をきょろきょろさせた。
「御剣社長、もっと言ってやってくださいよ。芽生さん全然話してくれなくて」
「ちょっとザキちゃん!」
「そっか、残念だなあ。俺も、芽生ちゃんの彼氏になりたかったのに」
陽に微笑まれて、芽生は苦笑いを返すしかなかった。
「そんな、私のことはどうでもよくて、それよりも何か召し上がります? アスパラが旬なので、美味しいですよ」
「うん、じゃあそれもらおうかな」
「はい!」
芽生はキッチンへ入って行き、有紀にオーダーを伝えた。カウンターに残された山崎は、注文をとったり片づけをしながらてきぱきと仕事をこなす。
「ザキちゃん、聞いてもいい? 芽生ちゃんいつから彼氏いるの?」
陽が話しかけると、山崎はびっくりした顔をして恥ずかしそうにした。そう、これが普通の反応なのを陽は知っている。容姿が恵まれているおかげで、陽は女性に事欠いたことは無い。さらに言えば、だいたいの女性は、声をかければこういう反応をする。そして、社長だと知れば、あからさまに媚を売ってくる人間を見てきた。
(芽生ちゃんは名乗りもしなかったし、びくともしなかった)
可愛い弟とかっこいい幼馴染に見慣れているからかもしれないが、それでも陽は納得できなかった。
(もっと知りたい。俺のことを、普通の男性として見てくれる子を)
「芽生さん話してくれないからあんまり知らないんですけど、たぶん、ここ一ヶ月か二ヶ月くらいですよ」
それに陽はそうなんだと返事をして、厨房から出てきてオーダーを配りに行く芽生の姿を横目で見た。
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