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第5章
第59話 向き合う
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涼音のマンションに戻ると、テーブルの上の料理が消えていて、食べたのかと思いきや冷蔵庫に丸々と入っていた。
「涼音さん!」
芽生が寝室の扉を開けると、窓際に置かれてソファに座って、涼音はぼーっとしていた。芽生が来たことに今気がついた様子で、驚いた顔をする。
「お昼、食べなかったんですか? っていうか、朝も!」
「あのなあ」
「ダメです、ちゃんと食べないと。そんなやつれた感じで月曜日出社できません……っていうか、そんなんじゃ私があなたを出社させませんよ、ちゃんとしないと」
涼音は読んでいた本を閉じると、芽生にこいこいと手招きをする。芽生が近寄ると引き寄せて抱きしめられた。
「あのね、涼音さん。ごめんなさい」
「うん」
「私、あなたのこと放っておけません。心配で心配で、いつも頭の片隅にいます。何もかも忘れるくらい………本当はあなたのことで頭いっぱいですよ。家族のこと、昨日の夜は忘れていたんですから」
「……わかってる。俺も大人げなかった」
強く抱きしめられると、芽生はその柔らかな温かみに安堵した。
「お前といると調子が狂うんだ。女は大体金目当てで、お前みたいなのは初めてだ。俺にゴミだのクズだのはげろだの言いやがって。何をせがむかと思えば早く寝ろだのしっかり食べろだの、俺にそんなことを要求してきた奴はいなかったぞ」
「……褒めてるんですよね?」
それに涼音はさあな、と答えた。
「お前みたいに立場や役職なんかを、バカみたいに何も考えないおせっかいは初めてだ。お前がどうしても欲しいのに、全部手に入らないのがもどかしい。お前の心も、身体も、全部俺のものにしたいのに」
「バカみたいに何も考えてないとは失礼ですが、考えていますって」
涼音が優しく微笑む。改めて間近で見て、あまりの美形っぷりに芽生が一瞬にしてしり込みして離れようとするのを、涼音は離さなかった。
「お前の作った物が食べたい。この先ずっとだ。俺と一緒にいろよ」
(もはやそれは一歩間違えるとプロポーズ!)
芽生はさっと顔が赤くなるのを感じた。
「ほんとに猿みたいだな。こうして顔をすぐに真っ赤にするところとか……キスしても顔が赤くなるのとか……」
「わ、わ、わ!!! ストップストップ」
涼音は芽生を抱き寄せて首筋に唇を押し付けたまま話し続ける。
「昨日だってベッドの上じゃあんなに可愛かったのに。起きると小姑みたいになりやがって、俺の気をもませるわ、イライラさせるわ……もういっそずっとベッドの上に縛りつけてやろうか」
「ダメですってば。ご飯作れませんよ」
それもそうだな、と涼音は芽生を解放する。困り切った芽生が、「お昼、食べましょ?」と誘うと、涼音はうなずいた。
(たぶん、もう私きっとこの人のこと大好きだ)
芽生は家族に対する愛しい気持ちとはまた別の感情が、自分の胸の中に溢れてくるのを感じていた。
「涼音さん。会社の案件を私が任されていると、父がどうやら勘違いしたようです。ですから、しばらく土日の夕飯は一緒に食べられますし……その、泊まるのも大丈夫って言われて」
キッチンに立って、昼食の用意をしながらそう伝えると、後ろからぎゅっと抱きしめられた。
「へえ。じゃあ帰さなくていいってことか。だったらもう今すぐベッドに行ってもいいぞ。昼はいいから先にお前が食べたい」
「冗談じゃないです。ご飯、ご飯食べますよ!」
芽生がぎゃあぎゃあ騒いだので涼音は笑いながら彼女を放すと、二人で少し遅めの昼食を食べた。
「涼音さん!」
芽生が寝室の扉を開けると、窓際に置かれてソファに座って、涼音はぼーっとしていた。芽生が来たことに今気がついた様子で、驚いた顔をする。
「お昼、食べなかったんですか? っていうか、朝も!」
「あのなあ」
「ダメです、ちゃんと食べないと。そんなやつれた感じで月曜日出社できません……っていうか、そんなんじゃ私があなたを出社させませんよ、ちゃんとしないと」
涼音は読んでいた本を閉じると、芽生にこいこいと手招きをする。芽生が近寄ると引き寄せて抱きしめられた。
「あのね、涼音さん。ごめんなさい」
「うん」
「私、あなたのこと放っておけません。心配で心配で、いつも頭の片隅にいます。何もかも忘れるくらい………本当はあなたのことで頭いっぱいですよ。家族のこと、昨日の夜は忘れていたんですから」
「……わかってる。俺も大人げなかった」
強く抱きしめられると、芽生はその柔らかな温かみに安堵した。
「お前といると調子が狂うんだ。女は大体金目当てで、お前みたいなのは初めてだ。俺にゴミだのクズだのはげろだの言いやがって。何をせがむかと思えば早く寝ろだのしっかり食べろだの、俺にそんなことを要求してきた奴はいなかったぞ」
「……褒めてるんですよね?」
それに涼音はさあな、と答えた。
「お前みたいに立場や役職なんかを、バカみたいに何も考えないおせっかいは初めてだ。お前がどうしても欲しいのに、全部手に入らないのがもどかしい。お前の心も、身体も、全部俺のものにしたいのに」
「バカみたいに何も考えてないとは失礼ですが、考えていますって」
涼音が優しく微笑む。改めて間近で見て、あまりの美形っぷりに芽生が一瞬にしてしり込みして離れようとするのを、涼音は離さなかった。
「お前の作った物が食べたい。この先ずっとだ。俺と一緒にいろよ」
(もはやそれは一歩間違えるとプロポーズ!)
芽生はさっと顔が赤くなるのを感じた。
「ほんとに猿みたいだな。こうして顔をすぐに真っ赤にするところとか……キスしても顔が赤くなるのとか……」
「わ、わ、わ!!! ストップストップ」
涼音は芽生を抱き寄せて首筋に唇を押し付けたまま話し続ける。
「昨日だってベッドの上じゃあんなに可愛かったのに。起きると小姑みたいになりやがって、俺の気をもませるわ、イライラさせるわ……もういっそずっとベッドの上に縛りつけてやろうか」
「ダメですってば。ご飯作れませんよ」
それもそうだな、と涼音は芽生を解放する。困り切った芽生が、「お昼、食べましょ?」と誘うと、涼音はうなずいた。
(たぶん、もう私きっとこの人のこと大好きだ)
芽生は家族に対する愛しい気持ちとはまた別の感情が、自分の胸の中に溢れてくるのを感じていた。
「涼音さん。会社の案件を私が任されていると、父がどうやら勘違いしたようです。ですから、しばらく土日の夕飯は一緒に食べられますし……その、泊まるのも大丈夫って言われて」
キッチンに立って、昼食の用意をしながらそう伝えると、後ろからぎゅっと抱きしめられた。
「へえ。じゃあ帰さなくていいってことか。だったらもう今すぐベッドに行ってもいいぞ。昼はいいから先にお前が食べたい」
「冗談じゃないです。ご飯、ご飯食べますよ!」
芽生がぎゃあぎゃあ騒いだので涼音は笑いながら彼女を放すと、二人で少し遅めの昼食を食べた。
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