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第5章
第57話 どっち?
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ふと目が覚めて、時計を見るといつも通りの時間だった。寝坊したかと思って焦ったのだが、それに安堵した瞬間に、がっちりと自分をひっつかんで離れない涼音の寝顔を見てドキッとした。
(寝顔まできれい……)
そっと髪の毛を撫でて、起こさないように手をゆっくりと外したのだが、外そうとするとまた掴まれ、そっと抜け出そうとするとさらに強く抱きしめられた。
(これじゃ、忍術でも使わない限りぬけられない!)
芽生は枕を取ると、それを涼音に掴ませて起き上がった。それこそ忍者かと思うほどに静かに寝室を出ると、半分片付いた部屋のテーブルに置いてあった鞄から、携帯電話を取り出す。
「うわ、やっちゃった……」
海斗と陸から、鬼の電話の嵐の着信履歴が残されていた。すぐさま芽生は電話をかけると、ワンコールたたないで海斗が出た。
『もしもし芽生、今どこ? 何があった、大丈夫か?』
「海斗、落ち着いて、何もない。大丈夫。今、涼音さん——社長のお家にいて……」
必死に説明をしていたので、芽生は後ろに立っている人物に気がつかなかった。
「そう、あれ父さん言ってなかったの? ごめん、だから大丈夫——」
芽生の携帯電話が、ひょいとつままれ、驚いて声も出せないまま見ると、涼音がものすごい不機嫌な顔をして芽生の携帯を見つめていた。ディスプレイの文字の海斗を半眼でにらみつけると、電話を耳にあてた。
「あ、涼音さ――」
「弟君、お子さまはちょーっと黙っていろ。大人の事情に口出すなよ。芽生は無事に決まっている。今日の夕方には帰すから、それまで連絡するな」
そう言うと通話を終了させて、あっという間に携帯の電源をオフにしてしまった。
「涼音さん、ちょっとなに人の携帯……っていうか、海斗心配していただけなのに」
「うるせーな。目の前の恋人よりも、弟の方が大事か?」
芽生はそう言い放つ涼音の目に、びくりと震えた。寂しさを通り越して、冷酷無慈悲な社長の目をしていた。
「弟たちは家族です。比較するもんじゃありません。涼音さんは涼音さんで大事です」
芽生の顎をもち、涼音がのぞき込んでくる。
「どうやったら……お前は何もかも忘れるくらいに、俺のことを見てくれるようになるんだ?」
芽生は目を瞬かせた。それにため息をついてから涼音は頭を掻いた。
「もう少し寝ている。お前も来るか?」
「私は……」
「そんなに家族が心配なら、帰っていいぞ」
「そういうわけには」
芽生がその後の言葉を紡がないまま床をじっと見ていると、涼音は眉根を寄せて一人で寝室へと戻って行ってしまった。
「そんなこと言われたって、全部大事なんだもん」
芽生は痛烈に悲しくなってしまって、なぜか泣きそうになったのをこらえた。
(泣きたいのはきっと、涼音さんの方だ)
芽生は涙をこらえて、それから部屋の掃除をしようと窓を開け放つ。曇り空が広がっていたのだが、気持ちの良い風が吹いてくるのを全身にあびた。
掃除をさっと済ませると、朝食と昼食の準備をする。時間になっても起きてこない涼音を起こしに行こうか迷ったが、自信が無くて芽生はやめた。
『家に戻ります』
書置きを残すと、芽生は涼音の部屋を出た。今にもぽつぽつと雨が降ってきそうなお天気で、芽生は小走りで家まで急いだ。
(寝顔まできれい……)
そっと髪の毛を撫でて、起こさないように手をゆっくりと外したのだが、外そうとするとまた掴まれ、そっと抜け出そうとするとさらに強く抱きしめられた。
(これじゃ、忍術でも使わない限りぬけられない!)
芽生は枕を取ると、それを涼音に掴ませて起き上がった。それこそ忍者かと思うほどに静かに寝室を出ると、半分片付いた部屋のテーブルに置いてあった鞄から、携帯電話を取り出す。
「うわ、やっちゃった……」
海斗と陸から、鬼の電話の嵐の着信履歴が残されていた。すぐさま芽生は電話をかけると、ワンコールたたないで海斗が出た。
『もしもし芽生、今どこ? 何があった、大丈夫か?』
「海斗、落ち着いて、何もない。大丈夫。今、涼音さん——社長のお家にいて……」
必死に説明をしていたので、芽生は後ろに立っている人物に気がつかなかった。
「そう、あれ父さん言ってなかったの? ごめん、だから大丈夫——」
芽生の携帯電話が、ひょいとつままれ、驚いて声も出せないまま見ると、涼音がものすごい不機嫌な顔をして芽生の携帯を見つめていた。ディスプレイの文字の海斗を半眼でにらみつけると、電話を耳にあてた。
「あ、涼音さ――」
「弟君、お子さまはちょーっと黙っていろ。大人の事情に口出すなよ。芽生は無事に決まっている。今日の夕方には帰すから、それまで連絡するな」
そう言うと通話を終了させて、あっという間に携帯の電源をオフにしてしまった。
「涼音さん、ちょっとなに人の携帯……っていうか、海斗心配していただけなのに」
「うるせーな。目の前の恋人よりも、弟の方が大事か?」
芽生はそう言い放つ涼音の目に、びくりと震えた。寂しさを通り越して、冷酷無慈悲な社長の目をしていた。
「弟たちは家族です。比較するもんじゃありません。涼音さんは涼音さんで大事です」
芽生の顎をもち、涼音がのぞき込んでくる。
「どうやったら……お前は何もかも忘れるくらいに、俺のことを見てくれるようになるんだ?」
芽生は目を瞬かせた。それにため息をついてから涼音は頭を掻いた。
「もう少し寝ている。お前も来るか?」
「私は……」
「そんなに家族が心配なら、帰っていいぞ」
「そういうわけには」
芽生がその後の言葉を紡がないまま床をじっと見ていると、涼音は眉根を寄せて一人で寝室へと戻って行ってしまった。
「そんなこと言われたって、全部大事なんだもん」
芽生は痛烈に悲しくなってしまって、なぜか泣きそうになったのをこらえた。
(泣きたいのはきっと、涼音さんの方だ)
芽生は涙をこらえて、それから部屋の掃除をしようと窓を開け放つ。曇り空が広がっていたのだが、気持ちの良い風が吹いてくるのを全身にあびた。
掃除をさっと済ませると、朝食と昼食の準備をする。時間になっても起きてこない涼音を起こしに行こうか迷ったが、自信が無くて芽生はやめた。
『家に戻ります』
書置きを残すと、芽生は涼音の部屋を出た。今にもぽつぽつと雨が降ってきそうなお天気で、芽生は小走りで家まで急いだ。
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