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第5章
第53話 幼馴染
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無事に月末の処理が終わり、書類も勢ぞろいをし、新しい月が始まる。新入社員が入ってくる準備なども総務部が一手に引き受けているため、雑務や処理で毎日が目まぐるしかった。
涼音とはあの水をかけられた一件以来、まともに会うことさえできていない。週末の家政婦の仕事に行っても、休日出勤であわただしかった。
「新年度だもんね、忙しいよね」
芽生は少し寂しく思ったのだが、あんまり迷惑をかけてもと思って、携帯への連絡はせず、土日の間は置手紙を書いておくにとどめた。
あまりにも忙しかったおかげで、有紀の居酒屋に一週間ぶりに顔を出し、そしてその週、涼音が芽生の前に現れることは無かった。
気がつけばまた一週間が過ぎ、涼音とのやりとりはメールだけで、それも二日に一度送るか送らないかを迷うほどだった。
(どうしているかな、涼音さん)
そんなことを考えながらバイトをしていると、有紀が冷たいコップを芽生の首筋に押し当ててきた。
「ひゃあ! なに、冷たい!」
「あはは、芽生驚きすぎ」
その反応に有紀が大笑いし、すでに客足が減った店内で二人で一息ついた。
テーブル席からはまだチラホラと笑い合う声が聞こえるが、カウンターにはもう人がいないので、有紀と久々にゆっくり話をした。
「で、最近の芽生はなんかちょっと違うけど、なにかあった? あ、もしかして彼氏?」
有紀がからかうと、芽生は一瞬止まって、その後顔を赤くして口元が緩んだ。それを必死に見られないように、唇を噛む。
「え? ほんとに? 芽生に彼氏……?」
「うん……えへへ」
途端ににやける芽生を見て、有紀があんぐりと口を開けたまま眉根を寄せた。
「あーあ、ついに芽生に彼氏かよ。小さい時は俺と結婚するってあんなにさんざん言ってたのにな」
「それは小さい時でしょう? もう立派な大人です」
「立派な大人ねぇ。この間までこんな小っちゃかったのに」
「そんな小っちゃくないってば」
「芽生、別に彼氏作ってもいいけど、結婚するなら俺にしとけよ」
「うん……って、はい!?」
今、うんて言ったな? と有紀がにやけながら芽生のほっぺたをつまんだ。
「有紀君、冗談言わないでってば。あんなの、子どもの頃の話なんだから」
「冗談じゃないよ。俺、ずっと芽生だけだよ」
芽生の頬をつまみながら、有紀は真面目なのかそうじゃないのか分からない表情をしながら、覗き込んでいた。芽生はちらりと時計を見て、「ラストオーダー取ってくる」と伝えるが、有紀は芽生の頬を放そうとしなかった。
「有紀くんってば!」
「ちょっとヤキモチ。ひどいよ俺に黙って彼氏つくっちゃうなんて」
有紀がぶすっと口を尖らせていると、ちりんと入口の鈴が鳴って、背の高い人物が入り口の引き戸を開けて入ってきた。そしてカウンター越しでじゃれついている二人を見ると、盛大に不機嫌な顔をする。
「あ、涼音さん!」
するりと芽生が有紀の手を振りほどいて、駆けて行く。そのあまりの速さと嬉しそうな顔に、有紀はこの人かと思って一言いいたい気持ちを押さえて「いらっしゃい」と営業スマイルを投げかけた。
「涼音さん、忙しかったんでしょ? 全然会えなかったから」
芽生はカウンターから出ると、涼音のコートを受け取ろうとして近寄って、怖い顔をしたまま何も言わない涼音を見あげた。
「……涼音さん?」
「芽生、バイト終わったら時間あるか?」
「ええ、ちょっとなら。それより、何か食べます? もうラストなんですけど、私何か作ってきますよ」
涼音はカウンターからにこにこと笑いつつも、目が笑っていない有紀を見て、それから芽生を見る。芽生は涼音に会えた喜びで、目をキラキラさせていた。涼音はこのまま連れて帰りたい衝動を抑えると、席に着いた。
「何でもいい、軽いもの」
「はい!」
テーブル席にラストを告げると、その多くの客が帰り支度を始める。芽生は有紀にお会計を頼むと、厨房へと入って行った。
涼音とはあの水をかけられた一件以来、まともに会うことさえできていない。週末の家政婦の仕事に行っても、休日出勤であわただしかった。
「新年度だもんね、忙しいよね」
芽生は少し寂しく思ったのだが、あんまり迷惑をかけてもと思って、携帯への連絡はせず、土日の間は置手紙を書いておくにとどめた。
あまりにも忙しかったおかげで、有紀の居酒屋に一週間ぶりに顔を出し、そしてその週、涼音が芽生の前に現れることは無かった。
気がつけばまた一週間が過ぎ、涼音とのやりとりはメールだけで、それも二日に一度送るか送らないかを迷うほどだった。
(どうしているかな、涼音さん)
そんなことを考えながらバイトをしていると、有紀が冷たいコップを芽生の首筋に押し当ててきた。
「ひゃあ! なに、冷たい!」
「あはは、芽生驚きすぎ」
その反応に有紀が大笑いし、すでに客足が減った店内で二人で一息ついた。
テーブル席からはまだチラホラと笑い合う声が聞こえるが、カウンターにはもう人がいないので、有紀と久々にゆっくり話をした。
「で、最近の芽生はなんかちょっと違うけど、なにかあった? あ、もしかして彼氏?」
有紀がからかうと、芽生は一瞬止まって、その後顔を赤くして口元が緩んだ。それを必死に見られないように、唇を噛む。
「え? ほんとに? 芽生に彼氏……?」
「うん……えへへ」
途端ににやける芽生を見て、有紀があんぐりと口を開けたまま眉根を寄せた。
「あーあ、ついに芽生に彼氏かよ。小さい時は俺と結婚するってあんなにさんざん言ってたのにな」
「それは小さい時でしょう? もう立派な大人です」
「立派な大人ねぇ。この間までこんな小っちゃかったのに」
「そんな小っちゃくないってば」
「芽生、別に彼氏作ってもいいけど、結婚するなら俺にしとけよ」
「うん……って、はい!?」
今、うんて言ったな? と有紀がにやけながら芽生のほっぺたをつまんだ。
「有紀君、冗談言わないでってば。あんなの、子どもの頃の話なんだから」
「冗談じゃないよ。俺、ずっと芽生だけだよ」
芽生の頬をつまみながら、有紀は真面目なのかそうじゃないのか分からない表情をしながら、覗き込んでいた。芽生はちらりと時計を見て、「ラストオーダー取ってくる」と伝えるが、有紀は芽生の頬を放そうとしなかった。
「有紀くんってば!」
「ちょっとヤキモチ。ひどいよ俺に黙って彼氏つくっちゃうなんて」
有紀がぶすっと口を尖らせていると、ちりんと入口の鈴が鳴って、背の高い人物が入り口の引き戸を開けて入ってきた。そしてカウンター越しでじゃれついている二人を見ると、盛大に不機嫌な顔をする。
「あ、涼音さん!」
するりと芽生が有紀の手を振りほどいて、駆けて行く。そのあまりの速さと嬉しそうな顔に、有紀はこの人かと思って一言いいたい気持ちを押さえて「いらっしゃい」と営業スマイルを投げかけた。
「涼音さん、忙しかったんでしょ? 全然会えなかったから」
芽生はカウンターから出ると、涼音のコートを受け取ろうとして近寄って、怖い顔をしたまま何も言わない涼音を見あげた。
「……涼音さん?」
「芽生、バイト終わったら時間あるか?」
「ええ、ちょっとなら。それより、何か食べます? もうラストなんですけど、私何か作ってきますよ」
涼音はカウンターからにこにこと笑いつつも、目が笑っていない有紀を見て、それから芽生を見る。芽生は涼音に会えた喜びで、目をキラキラさせていた。涼音はこのまま連れて帰りたい衝動を抑えると、席に着いた。
「何でもいい、軽いもの」
「はい!」
テーブル席にラストを告げると、その多くの客が帰り支度を始める。芽生は有紀にお会計を頼むと、厨房へと入って行った。
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