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第4章
第45話 頼る
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休み明け、ほんの少し気分が落ち込む中、川沿いを歩いて出社する。桜のつぼみがぷっくりと膨らんできそうな雰囲気で、しばらくすればもっと暖かくなってくる頃だった。とても良い季節が訪れるはずなのに、芽生は気が重かった。
出社していつも通りに仕事を始める。しかしまた、データの一部が消えていた。帰る前に確認をしており、ちゃんと入力したものだった。
(これ、また入れ直し……いや、バックアップから復元しよう)
芽生がパソコンとにらめっこしながら復元していると、冬夜が席を立つのが見えた。さりげなく芽生はメモ用紙に『相談があります』と走り書きすると、冬夜が入った給湯室にさっと入ってメモ用紙を無言で渡すだけ渡して、カップを持ってすぐに出た。
「折茂、ちょっと今ここだけ見られる?」
数分後、冬夜がさりげなくファイルを渡してきて、芽生はそれを受け取って開くと、冬夜の指が伸びてきて、指さす。そこには、『相談ブースに来て』と書かれていた。
「で、ここが間違っているんだけど……経理課にこれ届けて、後これ伝えておいてほしいんだよね。急ぎだから今行ける?」
「はい」
芽生は立ち上がると、すぐにフロアを出て、経理課に行く振りをして相談ブースへと入った。数分後、頃合いを見計らって、冬夜がノックして入ってくる。
「悪いね、突然呼びだして」
「いえ、こちらこそ。あの、主任。データと資料の紛失の件なんですけど」
「うん、折茂じゃないのは分かってる。ちなみに先週末から起こっている折茂の名前の大量の発注ミスで会社の損失額がヤバイあれも……違うの分かっているから」
芽生は怒られるかと身構えていたので、気が抜けてブースの椅子の背もたれにつかまったものの、へなへなとしゃがみこんでしまった。
「わ、折茂。大丈夫?」
「ちょっとほっとしちゃって。座ってもいいですか? え、発注ミス?」
冬夜に起こされて、芽生は椅子に深く腰掛けた。そしてやっとほっと息をする。
「定時上がりをしたい折茂が間違った大量発注したり、わざわざデータを紛失させたり、資料を無くしたりするわけないでしょ。それに、紛失犯だったらわざわざそんな顔して俺に相談しない……これで完全に、折茂の犯人説が消えたね」
冬夜は人懐っこい笑みを向けてくる。それに芽生の方がほっとして、何やら胸がいっぱいになった。涼音といい、冬夜といい、芽生を信じて疑わないでいてくれる人がいるということに、心底ほっとしていた。
「主任は、犯人がいると思っているんですか? 私の不注意かもしれませんよ?」
「不注意だったとしたら、今までだって起こっているはずだけど。しかも、発注作業なんてほとんどやったことないだろ? ちょっとみんなに聞いてみたんだけど、御剣社長がこの間来たとき、何か貰い物したのが噂になっているみたい」
「あれは……噂するくらいなら、私に直接聞いてくれればいいのに」
「話しかけるなオーラ出していたのは、折茂の方でしょ?」
その言葉に芽生はグサッと来てしまった。面倒くさい、面倒を起こしたくない、早く帰りたい。だからこそ、極力接触を避けていたツケが、今ここで回ってくるとは考えもしなかった。
「まあ、誰これ構わず言えないことだって、人にはあるんだからしょうがないよね。だからこそ、こうして頼ってくれたからには、俺も何とかするよ。頼ってくれなきゃ、助けることだってできないんだ」
芽生は冬夜を見た。優しい見た目に反して、涼音の引き抜きだけあって、頼りになる存在だった。
「大方見当はついているけどね、確証はない。でも、会社の仕事に私情を持ち込んで、君を困らせるのはよくないと思う。あーあ、まったく」
冬夜は髪の毛をくしゃくしゃと掻いた。
「御剣社長もやってくれたな。あの人はどれだけ自分が魅力的かを分かっていないから質が悪い。おかげで、折茂はうちの部署でちょうどいいストレスとやっかみのターゲットになったというわけ。で、ちなみに、折茂の名前で発注ミス大量にあるんだけど。これはさすがにヤバくってね」
芽生は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「もう少し辛抱な、折茂。かんかんな部長は俺が説得しておくから、何か言われたらかわしておけよ。他の人もだ。犯人は絶対に探す。俺の残業を奪った罪は重い」
冬夜のその言い方に、芽生は思わず笑ってしまった。
出社していつも通りに仕事を始める。しかしまた、データの一部が消えていた。帰る前に確認をしており、ちゃんと入力したものだった。
(これ、また入れ直し……いや、バックアップから復元しよう)
芽生がパソコンとにらめっこしながら復元していると、冬夜が席を立つのが見えた。さりげなく芽生はメモ用紙に『相談があります』と走り書きすると、冬夜が入った給湯室にさっと入ってメモ用紙を無言で渡すだけ渡して、カップを持ってすぐに出た。
「折茂、ちょっと今ここだけ見られる?」
数分後、冬夜がさりげなくファイルを渡してきて、芽生はそれを受け取って開くと、冬夜の指が伸びてきて、指さす。そこには、『相談ブースに来て』と書かれていた。
「で、ここが間違っているんだけど……経理課にこれ届けて、後これ伝えておいてほしいんだよね。急ぎだから今行ける?」
「はい」
芽生は立ち上がると、すぐにフロアを出て、経理課に行く振りをして相談ブースへと入った。数分後、頃合いを見計らって、冬夜がノックして入ってくる。
「悪いね、突然呼びだして」
「いえ、こちらこそ。あの、主任。データと資料の紛失の件なんですけど」
「うん、折茂じゃないのは分かってる。ちなみに先週末から起こっている折茂の名前の大量の発注ミスで会社の損失額がヤバイあれも……違うの分かっているから」
芽生は怒られるかと身構えていたので、気が抜けてブースの椅子の背もたれにつかまったものの、へなへなとしゃがみこんでしまった。
「わ、折茂。大丈夫?」
「ちょっとほっとしちゃって。座ってもいいですか? え、発注ミス?」
冬夜に起こされて、芽生は椅子に深く腰掛けた。そしてやっとほっと息をする。
「定時上がりをしたい折茂が間違った大量発注したり、わざわざデータを紛失させたり、資料を無くしたりするわけないでしょ。それに、紛失犯だったらわざわざそんな顔して俺に相談しない……これで完全に、折茂の犯人説が消えたね」
冬夜は人懐っこい笑みを向けてくる。それに芽生の方がほっとして、何やら胸がいっぱいになった。涼音といい、冬夜といい、芽生を信じて疑わないでいてくれる人がいるということに、心底ほっとしていた。
「主任は、犯人がいると思っているんですか? 私の不注意かもしれませんよ?」
「不注意だったとしたら、今までだって起こっているはずだけど。しかも、発注作業なんてほとんどやったことないだろ? ちょっとみんなに聞いてみたんだけど、御剣社長がこの間来たとき、何か貰い物したのが噂になっているみたい」
「あれは……噂するくらいなら、私に直接聞いてくれればいいのに」
「話しかけるなオーラ出していたのは、折茂の方でしょ?」
その言葉に芽生はグサッと来てしまった。面倒くさい、面倒を起こしたくない、早く帰りたい。だからこそ、極力接触を避けていたツケが、今ここで回ってくるとは考えもしなかった。
「まあ、誰これ構わず言えないことだって、人にはあるんだからしょうがないよね。だからこそ、こうして頼ってくれたからには、俺も何とかするよ。頼ってくれなきゃ、助けることだってできないんだ」
芽生は冬夜を見た。優しい見た目に反して、涼音の引き抜きだけあって、頼りになる存在だった。
「大方見当はついているけどね、確証はない。でも、会社の仕事に私情を持ち込んで、君を困らせるのはよくないと思う。あーあ、まったく」
冬夜は髪の毛をくしゃくしゃと掻いた。
「御剣社長もやってくれたな。あの人はどれだけ自分が魅力的かを分かっていないから質が悪い。おかげで、折茂はうちの部署でちょうどいいストレスとやっかみのターゲットになったというわけ。で、ちなみに、折茂の名前で発注ミス大量にあるんだけど。これはさすがにヤバくってね」
芽生は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「もう少し辛抱な、折茂。かんかんな部長は俺が説得しておくから、何か言われたらかわしておけよ。他の人もだ。犯人は絶対に探す。俺の残業を奪った罪は重い」
冬夜のその言い方に、芽生は思わず笑ってしまった。
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