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第4章

第42話 和風プリン

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 翌日の午前中、総務部のフロアがまたもやざわついたので芽生がもうお昼だったっけと時計を見ると、まだまだ十一時だった。なんだろうと入り口に視線を向けると、陽が立っていて、女子社員が色めきながら用の姿を直視している。お出迎えのスタートダッシュを切ることができた一人が、にこにこしながら用件を聞いているのが見えた。

 すると、くるりと女子社員が振り返って、剣呑な顔つきでフロアにやってくる。よく見たら、隣の席の三井だった。どすのきいた顔で芽生を見ると、「御剣社長が呼んでるわよ」と言われた。

「え、私ですか?」

「そうよ。他に折茂なんていないんだからあんたでしょ」

「ありがとうございます」

 立ち上がると、なぜかにらまれてしまい、ぎょっとしながらも芽生はそそくさと入口へと向かった。

「御剣社長、お待たせしました」

「芽生ちゃん」

 相変わらずものすごいおしゃれなセミフォーマルスタイルにほれぼれすると、色っぽい笑顔で手を振ってくる。芽生は慌ててピシッと気をつけをした。

「どうされましたか?」

「ははは、昨日の夜とは大違いだね」

 それに芽生は目を見開いて、しーっとジェスチャーをする。芽生がブースに案内しようとすると、ここでいいよすぐ終わるからと言われた。首をかしげていると、紙袋を渡される。

「え、これ……?」

 見ると、近くの洋菓子店の大人気の和風プリンが四つ入っている。午前中に行かないと売り切れてしまう貴重なものだ。

「ええ、いいんですか!?」

「うん。四つで足りるかな?」

「ちょうど四人暮らしなんです、嬉しい! ありがとうございます。帰宅したら弟たちと食べます」

「本当に家族のこと大事なんだね。いいな、弟君たちは、芽生ちゃんに大事にされて……俺も芽生ちゃんに特別にされたいなあ」

 それに芽生は笑顔になった。

「私に特別扱いされても何もいいことありませんって。ほんとありがとうございます」

「ふふふ、いいのいいの。昨日のお礼。おかげで腫れなかった」

「良かったです」

「芽生ちゃん、また会いたいんだけど」

「いいですよ。あ、でも会社だと他の人の目が気になっちゃうんで。居酒屋の方でしたら」

「ううん、そうじゃなくてね。二人っきりで……また連絡するね」

 ひらひらと手を振って、陽は去っていった。その言葉の意味が理解できずに、芽生はぽつんとそこに立ったまま、その後姿を見送った。

 デスクに戻り、隣の席からのきつい視線に緊張しながらも、とっとと仕事に戻った。昼休みに、海斗と陸にプリンをもらったと連絡をすると、かわいい返事が返ってきて、それだけで芽生はにやにやが止まらなくなってしまった。

 幸せな気持ちでいた芽生が、資料が無くなっていることに気がついたのは、休憩時間を終えて、デスクに戻ってからだった。

(あれ、ここに置いておいたんだけど……)

 いくら探しても見当たらず、それに時間を割くわけにもいかないので、別の仕事に取りかかった。しかし、それが終わって探しても見つからない。

(おかしい)

 まさかと思って隣のデスクを見たのだが、それといった変化は見られなかったので、どこかで自分が紛失したのだと思い、明日に探そうと芽生は決めた。

 しかし、翌日には資料が見つかるどころか、データの一部が消えているという事態まで引き起こされ、芽生はいつも以上にバタバタとした日を過ごす羽目になった。
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