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第4章
第41話 春キャベツの中華炒め
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注文を取り終わった芽生が陽を見に行くと、お通しをきれいに食べ終わっていた。
「御剣社長、ちょっと見せてください」
芽生が手を伸ばして、頬にあてていた氷を取ると、だいぶおさまって赤味も引いている。
「これなら、みみず腫れとかにもならなそうですね。良かった」
「とんだ修羅場を見せちゃったね」
それに芽生は苦笑いをした。
「よく分かんないですけど、ひとまずは大怪我にならなくて良かったです。あー、また私失礼なこととかおせっかいなことを言ってます?」
「大丈夫だよ」
「ちなみに、御剣社長はお腹空いていますか? よかったら、何か私作ってきますよ」
それに陽は目をぱちくりさせた。山崎が横から「芽生さんの料理美味しいですよ」と合いの手を入れる。
「じゃあ、もうここまで来たら全部甘えちゃおうかな。嫌いな物もないよ。折茂さんの手料理食べられるなら、なんでも」
それに芽生は笑って、厨房へと入って行った。
「有紀君、私休憩いいから、社長に何か作ってもいい?」
「いいよ。何作るんだ?」
「うーん……スタミナがつくけどサッパリ目なやつ……キャベツあったよね?」
芽生は柔らかい春キャベツを持つと、良いキャベツだと言いながらザクザク切っていく。卵をぜいたくに二個溶きほぐして熱したフライパンに入れると、柔らかめの半熟炒り卵を素早く作った。
一度卵を取り出してからキャベツをごま油で炒めて、軽く塩を振る。キャベツから出てきた水分に鶏がらスープの素を入れて、お酒とあらびきのコショウを振りかけて味をさっと調える。
「ちょっとだけ、片栗粉入れて…」
とろみをつけた後に、先ほどの卵を入れてざっくり混ぜると、仕上げにひとたれのごま油をかけて、お皿にするりと乗せた。最後に、彩りで白ごまを振りかけて、小鉢に一口だけご飯をよそい、アサリのお味噌汁を添えて陽の所へ持っていった。
「御剣社長、お待たせしました。キャベツの中華炒めです。栄養満点ですよ」
にこにこしながら芽生がカウンターから出すと、陽はへえ、と目を輝かせる。
「折茂さん、お料理得意なんだ?」
「ええ、毎日家では私の仕事です。洗濯と掃除は可愛い弟たちがやってくれるんですよ」
あったかいうちに食べて、とすすめると、いただきますと手を合わせた。その仕草が美しくて、芽生は思わず見とれてしまった。
(そうそう、涼音さんも所作が本当にキレイで……)
そんなことを思いながら、陽が一口キャベツを口の中に運び入れ、にっこりと微笑んだ。山崎はその笑顔にやられてしまって「芽生さん、私ちょっと頭冷やしてきます」と厨房に逃げ込んで水をがぶがぶ飲んでいた。
「美味しい、ほんとは、あんまり食欲って感じじゃなかったんだけど、これなら食べられそうだよ」
「でしょ? お腹の空き具合微妙かなって思ったんですけど、社長業は忙しいでしょうから、栄養付けてもらわないと。卵もたっぷりですし、何より旬の春キャベツは芯まで甘くて美味しいですよね! とろみがついてるから食べやすいですし、ごま油って、食欲そそりません? 私ごま油大好きすぎて……ってまたしゃべり過ぎちゃった」
顔をしかめる芽生だったが、それには特に何も言わずに陽は出されたものを美味しそうに食べていた。
「嫌なことがあっても、ご飯がおいしいと幸せな気持ちになれるって、お母さんが言ってたんです。私、その言葉が大好きで。食事って毎日とらなきゃ死んじゃうものだから、そこに幸せが入っていたらいいなって思うんですよね」
「うん、本当に美味しいよ。おかげで、嫌なこと忘れられそうだよ。ありがとう、芽生ちゃん」
「いえいえ、ゆっくりしていって下さいね。私が連れ込んだんで、お代は良いですから」
陽は、「連れ込んだって何その言い方」、と笑った。
「今度、お礼するよ」
「――はい!」
芽生はしばらく陽の様子を見てから、他のテーブルへとオーダーを取りに行った。
「御剣社長、ちょっと見せてください」
芽生が手を伸ばして、頬にあてていた氷を取ると、だいぶおさまって赤味も引いている。
「これなら、みみず腫れとかにもならなそうですね。良かった」
「とんだ修羅場を見せちゃったね」
それに芽生は苦笑いをした。
「よく分かんないですけど、ひとまずは大怪我にならなくて良かったです。あー、また私失礼なこととかおせっかいなことを言ってます?」
「大丈夫だよ」
「ちなみに、御剣社長はお腹空いていますか? よかったら、何か私作ってきますよ」
それに陽は目をぱちくりさせた。山崎が横から「芽生さんの料理美味しいですよ」と合いの手を入れる。
「じゃあ、もうここまで来たら全部甘えちゃおうかな。嫌いな物もないよ。折茂さんの手料理食べられるなら、なんでも」
それに芽生は笑って、厨房へと入って行った。
「有紀君、私休憩いいから、社長に何か作ってもいい?」
「いいよ。何作るんだ?」
「うーん……スタミナがつくけどサッパリ目なやつ……キャベツあったよね?」
芽生は柔らかい春キャベツを持つと、良いキャベツだと言いながらザクザク切っていく。卵をぜいたくに二個溶きほぐして熱したフライパンに入れると、柔らかめの半熟炒り卵を素早く作った。
一度卵を取り出してからキャベツをごま油で炒めて、軽く塩を振る。キャベツから出てきた水分に鶏がらスープの素を入れて、お酒とあらびきのコショウを振りかけて味をさっと調える。
「ちょっとだけ、片栗粉入れて…」
とろみをつけた後に、先ほどの卵を入れてざっくり混ぜると、仕上げにひとたれのごま油をかけて、お皿にするりと乗せた。最後に、彩りで白ごまを振りかけて、小鉢に一口だけご飯をよそい、アサリのお味噌汁を添えて陽の所へ持っていった。
「御剣社長、お待たせしました。キャベツの中華炒めです。栄養満点ですよ」
にこにこしながら芽生がカウンターから出すと、陽はへえ、と目を輝かせる。
「折茂さん、お料理得意なんだ?」
「ええ、毎日家では私の仕事です。洗濯と掃除は可愛い弟たちがやってくれるんですよ」
あったかいうちに食べて、とすすめると、いただきますと手を合わせた。その仕草が美しくて、芽生は思わず見とれてしまった。
(そうそう、涼音さんも所作が本当にキレイで……)
そんなことを思いながら、陽が一口キャベツを口の中に運び入れ、にっこりと微笑んだ。山崎はその笑顔にやられてしまって「芽生さん、私ちょっと頭冷やしてきます」と厨房に逃げ込んで水をがぶがぶ飲んでいた。
「美味しい、ほんとは、あんまり食欲って感じじゃなかったんだけど、これなら食べられそうだよ」
「でしょ? お腹の空き具合微妙かなって思ったんですけど、社長業は忙しいでしょうから、栄養付けてもらわないと。卵もたっぷりですし、何より旬の春キャベツは芯まで甘くて美味しいですよね! とろみがついてるから食べやすいですし、ごま油って、食欲そそりません? 私ごま油大好きすぎて……ってまたしゃべり過ぎちゃった」
顔をしかめる芽生だったが、それには特に何も言わずに陽は出されたものを美味しそうに食べていた。
「嫌なことがあっても、ご飯がおいしいと幸せな気持ちになれるって、お母さんが言ってたんです。私、その言葉が大好きで。食事って毎日とらなきゃ死んじゃうものだから、そこに幸せが入っていたらいいなって思うんですよね」
「うん、本当に美味しいよ。おかげで、嫌なこと忘れられそうだよ。ありがとう、芽生ちゃん」
「いえいえ、ゆっくりしていって下さいね。私が連れ込んだんで、お代は良いですから」
陽は、「連れ込んだって何その言い方」、と笑った。
「今度、お礼するよ」
「――はい!」
芽生はしばらく陽の様子を見てから、他のテーブルへとオーダーを取りに行った。
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