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第2章

第27話 告白

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 あっという間に食べ終わり、残りのだし汁に野菜を加えて少量の味噌を溶いて味噌汁にした。

「涼音さん、明日の朝にこれを飲んでから出社してくださいね。生姜も入っているし、身体も温まります。そしてから、うっすいコーヒー飲んで出社すれば、いつもの市原社長の出来上がりです。ちなみにポイントは、うっすいコーヒーです。エスプレッソとかダメですよ。まだ、本調子じゃないでしょ?」

 片づけを終えて手を拭きながら芽生がそうせわしなく言うと、涼音は明日の準備なのか、タブレットをにらんでいた。ひょい、と芽生がソファの後ろから回りこんで覗くと、それはスケジュールだったようで、びっしりと予定が詰まっている。

「うわ、鬼。これは鬼。分刻みのスケジュールの人初めて見ましたよ?」

「社長だからな」

 涼音は髪の毛をかき上げて、覗き込んでいる芽生に手を伸ばした。そして括っていない芽生の長い髪の毛をひとすくいして、自身の唇へと持っていく。

「お前は、ここにいる時は俺だけを見ろ。社長としての俺じゃなくて……」

「へ? えっと、いいですけど……」

「芽生、俺がつき合ってやる」

「はい? どういう意味ですか?」

 そのままの意味だよ、と、涼音の手が芽生の頭を掴んで引き寄せた。

「……やっ、待って」

 ほんの少しだけ芽生の唇に涼音のそれが触れる。しかし、それ以上はなかった。芽生を見つめる視線に耐え切れないのに、頭を持たれているせいで身動きが取れない。

「……冗談ですよね? また、からかって楽しんでます?」

「女に飢えていないと言っただろうが。その俺がこうして提案しているのに、どうして冗談になるのか俺が納得できる理由を言え。俺はお前が気に入ったんだ。弟たちのためにも彼氏くらいつくっとけ。俺なら文句ないだろ」

 芽生は真っ赤になりながら離れようとしたが、腕まで掴まれてしまった。

「……い、嫌に決まっています!」

「ダメだ。お前は俺のものだ。何でもするって言ったんだから、俺のことを好きになれ。いいな?」

「そんな、無理、ですっ!」

 分からせてやろうか、と涼音の腕に力が入る。

「い、嫌です!」

 芽生がそう言うと、パッと手が離された。慌てて涼音から距離を取ると、芽生は大急ぎでエプロンを取って、帰り支度をする。

「おいこら逃げるな。下まで送る」

「大丈夫です!」

「いいから送るって……ほら、言ってるそばからぶつかって、危なっかしいんだよお前は!」

 ウォーターサーバーに激突しかけたのを、涼音に引っ張られて芽生はかろうじてぶつからずに済む。まだ顔中が真っ赤で、まるで熱でもあるかのようになっていた。

「だって、だって、涼音さんが変なこと言うから……!」

 真っ赤になってまくし立てる芽生に、涼音が厳しい顔をしたかと思うと壁に押しやった。動けないくらいに距離を詰めて、そして芽生を見下ろす。

「変なことを言った覚えはないぞ。いつ俺がお前に変なことを言った?」

 顎を持たれて、ますます芽生は慌てる。

「ちょっと、ほんとに……嫌ですってば。なんで私なの!? 他にもいっぱい女性なんているでしょ! っていうか、世界の半分は女です。からかうなんてひどい……」

「うるさい。からかってない。俺はお前がいいんだ」

 覗き込んでくる瞳は、獣を連想させるほどに鋭い。狙ったものは逃さないという、肉食獣の瞳。

「世界中の半分の女よりもお前がいいんだ、芽生。分かったか?」

「む……無理です!」

「逃げるな、芽生。俺だけを見ろと言ったはずだ」

 覗き込まれて、体中が心臓になったかと思うくらいに、脈が早まる。

「お前だけは、俺を見ろ。俺はお前以外いらない。俺から逃げるな」

 ぎゅっと抱きしめられて、しかしため息とともに拘束が緩むと芽生は逃げた。ところが手を掴まれて、結局エレベーターで下まで一緒に行くことになった。あちこちによろける芽生を、そのたびに涼音がフォローするが、一言も口はきかなかった。
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