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第2章
第25話 一緒に
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観察目的なのか仕事のチェックをされているのか、涼音は芽生と一緒に買い物へ行き、クリーニング店も立ち寄った。
「クリーニングのお店の人達も騒いでましたね。さすが涼音さん、仕事っぷりと顔だけは世界一カッコいいです」
「それも美形に対する嫌味の一つというやつか?」
「そうです。面と向かって言ってくる人今までいなかったでしょうから、新鮮かと思いまして」
嫌味を言いたいわけではないのだが、そうでも口にしていないと、芽生の初心な心臓はすぐに涼音に対してドキドキしてしまう。涼音は確信犯で、面白そうなものを見る目で芽生を見ていた。
「お前ほど俺のことを気にしない人間も珍しい」
「お褒めいただき光栄です」
そんな軽口を言い合いながら家へと戻り、芽生は午後にはバスルームや寝室の掃除をした。
「今日の夕飯ですけど、豚肉と白菜の蒸し物にしますがいいですよね? っていうか、文句は受け付けません」
「ああ。お前の作るものなら何でもいい。美味いから」
(うわ、さらりとすごいことを……)
「今夜は一緒に食べましょ?」
それに涼音は驚いた顔をした。
「家で食べなくていいのか?」
「ええ。今日は許可を取ってきました。昨日、涼音さんが一人で食べている姿を見たら、なんだか一緒に食べたくなって。……ダメかな?」
涼音は優しい笑顔になると、芽生の腕を引っ張って抱き寄せる。反射的によけきれなかった芽生は、涼音の胸の中にすっぽりと納まってしまった。心臓が爆音で鳴り始めた芽生の頭に手を乗せて涼音はよしよしと撫でる。
「ちょ……放してください」
「この家で人と飯を食べるのは初めてだ。美女じゃないのが残念だが、お前ならいい」
「……も、ほんとに一言、多いですよね!」
はははと涼音は笑って、真っ赤になっている芽生を離すとソファでくつろぎ始めた。憤慨しながらそれを見やると、芽生は夕飯の準備を始める。
白菜を削ぎ切りにし、深鍋に白菜、豚バラ、生姜を重ねて行く。白菜は火の通りが均一になるように、芯の向きを考えつつ、丁寧に並べて行った。
満杯になるまで敷き詰めると、そこに水とお酒を加え、ほんのひと振り塩とごま油をかける。火にかけて、その間にタレのポン酢を用意した。
テーブルマットを敷いて、一本だけ購入した花を机の真ん中に飾る。ご飯が炊けたのをかき回してから、鍋の様子を見ると、良い感じにぐつぐつしていた。豚肉の油が程よく染み出ており、良い香りに思わずお腹が鳴った。
「んー、美味しそう! 冬の簡単時短料理はこれに限る!」
芽生がルンルンで用意していると、後ろから涼音が覆いかぶさるようにして覗き込んできた。それに「わあ!」と色気のない反応をしてから、慌てて芽生は取り繕った。
「どう、涼音さん。美味しそうな匂いでしょ?」
「ああ。食欲をそそられるな……」
芽生の首筋近くで涼音の唇が動く。それに芽生はたじろぎつつも平静を装った。しかし、次の瞬間に涼音が芽生の肩に顎を乗せた。後ろからぎゅっと抱きしめられて、芽生は驚いて手に持っていたお玉を落としそうになる。
「何でだろうな、お前の料理食べたくなるの」
「ちょっと、もう、セクハラですよ!」
腕の力が緩むと、するりと振り返って芽生は涼音の頬を両手で挟んだ。そして、その顔をまじまじと見つめる。ついでに、親指で目の下を引っ張った。
「うん、顔色もいいみたいだし、貧血でもなさそう。これなら、明日から仕事バリバリできますね」
「……お前さ、口説かれたことないわけ?」
「口説く? 私を? 誰が?」
話しにならんな、と涼音は肩をすくめたが、次の瞬間、芽生に迫った。
「お前、俺のこと好きになれよ」
「はい!?」
にやりと笑った涼音の顔が、悪魔のように美しかった。
「クリーニングのお店の人達も騒いでましたね。さすが涼音さん、仕事っぷりと顔だけは世界一カッコいいです」
「それも美形に対する嫌味の一つというやつか?」
「そうです。面と向かって言ってくる人今までいなかったでしょうから、新鮮かと思いまして」
嫌味を言いたいわけではないのだが、そうでも口にしていないと、芽生の初心な心臓はすぐに涼音に対してドキドキしてしまう。涼音は確信犯で、面白そうなものを見る目で芽生を見ていた。
「お前ほど俺のことを気にしない人間も珍しい」
「お褒めいただき光栄です」
そんな軽口を言い合いながら家へと戻り、芽生は午後にはバスルームや寝室の掃除をした。
「今日の夕飯ですけど、豚肉と白菜の蒸し物にしますがいいですよね? っていうか、文句は受け付けません」
「ああ。お前の作るものなら何でもいい。美味いから」
(うわ、さらりとすごいことを……)
「今夜は一緒に食べましょ?」
それに涼音は驚いた顔をした。
「家で食べなくていいのか?」
「ええ。今日は許可を取ってきました。昨日、涼音さんが一人で食べている姿を見たら、なんだか一緒に食べたくなって。……ダメかな?」
涼音は優しい笑顔になると、芽生の腕を引っ張って抱き寄せる。反射的によけきれなかった芽生は、涼音の胸の中にすっぽりと納まってしまった。心臓が爆音で鳴り始めた芽生の頭に手を乗せて涼音はよしよしと撫でる。
「ちょ……放してください」
「この家で人と飯を食べるのは初めてだ。美女じゃないのが残念だが、お前ならいい」
「……も、ほんとに一言、多いですよね!」
はははと涼音は笑って、真っ赤になっている芽生を離すとソファでくつろぎ始めた。憤慨しながらそれを見やると、芽生は夕飯の準備を始める。
白菜を削ぎ切りにし、深鍋に白菜、豚バラ、生姜を重ねて行く。白菜は火の通りが均一になるように、芯の向きを考えつつ、丁寧に並べて行った。
満杯になるまで敷き詰めると、そこに水とお酒を加え、ほんのひと振り塩とごま油をかける。火にかけて、その間にタレのポン酢を用意した。
テーブルマットを敷いて、一本だけ購入した花を机の真ん中に飾る。ご飯が炊けたのをかき回してから、鍋の様子を見ると、良い感じにぐつぐつしていた。豚肉の油が程よく染み出ており、良い香りに思わずお腹が鳴った。
「んー、美味しそう! 冬の簡単時短料理はこれに限る!」
芽生がルンルンで用意していると、後ろから涼音が覆いかぶさるようにして覗き込んできた。それに「わあ!」と色気のない反応をしてから、慌てて芽生は取り繕った。
「どう、涼音さん。美味しそうな匂いでしょ?」
「ああ。食欲をそそられるな……」
芽生の首筋近くで涼音の唇が動く。それに芽生はたじろぎつつも平静を装った。しかし、次の瞬間に涼音が芽生の肩に顎を乗せた。後ろからぎゅっと抱きしめられて、芽生は驚いて手に持っていたお玉を落としそうになる。
「何でだろうな、お前の料理食べたくなるの」
「ちょっと、もう、セクハラですよ!」
腕の力が緩むと、するりと振り返って芽生は涼音の頬を両手で挟んだ。そして、その顔をまじまじと見つめる。ついでに、親指で目の下を引っ張った。
「うん、顔色もいいみたいだし、貧血でもなさそう。これなら、明日から仕事バリバリできますね」
「……お前さ、口説かれたことないわけ?」
「口説く? 私を? 誰が?」
話しにならんな、と涼音は肩をすくめたが、次の瞬間、芽生に迫った。
「お前、俺のこと好きになれよ」
「はい!?」
にやりと笑った涼音の顔が、悪魔のように美しかった。
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