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第2章
第23話 フレンチトースト
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結局朝ご飯は、海斗と陸の二人が作ってくれて、芽生は可愛くて大好きな弟たちの手料理に感激して泣きそうになりながらフレンチトーストをほおばった。
「もう最高、美味しい、ほんとに幸せ。ああ、二人とも絶対にいいお嫁さんになる………」
「芽生ちゃん、僕たち男の子だってば」
陸の殺人級の笑みに、ハートを鷲掴みにされながら、芽生は甘いフレンチトーストを切り分けてフォークで口へと運ぶ。
「お嫁に行ってほしくないよぉ……」
芽生の妄想が止まらなくなって、半べそになる。
「芽生、俺たちが嫁に来てもらう方だって。その妄想止めろ、泣くな、食べろ」
「うん……」
「芽生、お父さんも二人は良いお嫁さんになると思うけど、芽生が一番いいお嫁さんになる…………芽生が嫁に行く!? ダメ、父さん許さないぞ!」
海斗が溜息を吐いて、陸が大笑いする。半べその娘と、怒る父とを交互に見て、海斗もつい頬が緩んだ。
「親子漫才かよ。父さん、まだ芽生は結婚どころか彼氏もいないって」
「そうそう。芽生ちゃんに彼氏なんて僕が許さない」
「陸のためなら一生独身でもいい気がしてきた、私」
「芽生ちゃんはずっと僕と海斗だけの芽生ちゃんだよ」
「ああ陸、かわいい、可愛すぎて罪!」
芽生は陸の頭をよしよしと撫でた。陸はそれにふふん、と自慢そうに目を細めた。
ふと芽生はまだ目の前で妄想を炸裂させて、幻の婚約者に腹を立てている父を見て、そして可愛すぎる弟二人を見て、目の前のフレンチトーストを見た。
(そうだ、あの人は……今日も一人なんだ)
ふと、涼音の「夕飯は?」と聞いてきたあの表情を思い出す。何の気なしに出た言葉だっただろうし、特に深い意味はないのだとはわかっていたのだが、一緒に食べないのか、というニュアンスを含んでいた。
一人のご飯が寂しいことを、芽生は知っている。だから、こうしてみんなで食べるご飯が、とてつもなく美味しいことも知っている。
(いつも一人なんだ、あの人。あの部屋で、週末いつも……)
外国帰りの涼音が社長に就任して、社風は一気に変わった。それまでの残業のほとんどが禁止になり、徹底的なコスト削減と仕事のできない高給取りの役員を追いやったことで、涼音は会社をぐいぐいと立て直したのに四面楚歌だ。
そんなわけで会社でも社員に恐れられ、たぬきジジイと呼ぶ居座った古株たちには厄介者扱いされ、休めるはずの家はぐちゃぐちゃ。それは、社長であるが故の孤独なのだと頭では分かっていつつも、それを肩代わりすることはできない。手を差し伸べることさえ、芽生にはできなかった。
そんな涼音が、芽生に見せたあの食べ物を食べる時のほっと緩んだ表情は、涼音の素のように思えた。
(本当の顔ってわけね)
きっと、あの表情を知るのは、自分だけなのだと芽生は思った。そう考えた時に、急に胸が熱くなる。お前になら惚れられてもいいと言ったあの言葉が突如、芽生の脳内で再生されて顔が真っ赤になった。
(ダメダメ、からかっているだけなんだからきっと。私があんまりにも恋愛初心者だから、楽しんでるだけ!)
美味しいご飯を食べながら、コーヒーを飲んで、そして芽生は決心する。何を言われたからではなく、あの涼音の顔が芽生の心に焼き付いてしまったせいだった。
「……ねえみんな。今晩、私、外で食べてきてもいい?」
それは、芽生が今まで口にしたことのない言葉だった。
「もう最高、美味しい、ほんとに幸せ。ああ、二人とも絶対にいいお嫁さんになる………」
「芽生ちゃん、僕たち男の子だってば」
陸の殺人級の笑みに、ハートを鷲掴みにされながら、芽生は甘いフレンチトーストを切り分けてフォークで口へと運ぶ。
「お嫁に行ってほしくないよぉ……」
芽生の妄想が止まらなくなって、半べそになる。
「芽生、俺たちが嫁に来てもらう方だって。その妄想止めろ、泣くな、食べろ」
「うん……」
「芽生、お父さんも二人は良いお嫁さんになると思うけど、芽生が一番いいお嫁さんになる…………芽生が嫁に行く!? ダメ、父さん許さないぞ!」
海斗が溜息を吐いて、陸が大笑いする。半べその娘と、怒る父とを交互に見て、海斗もつい頬が緩んだ。
「親子漫才かよ。父さん、まだ芽生は結婚どころか彼氏もいないって」
「そうそう。芽生ちゃんに彼氏なんて僕が許さない」
「陸のためなら一生独身でもいい気がしてきた、私」
「芽生ちゃんはずっと僕と海斗だけの芽生ちゃんだよ」
「ああ陸、かわいい、可愛すぎて罪!」
芽生は陸の頭をよしよしと撫でた。陸はそれにふふん、と自慢そうに目を細めた。
ふと芽生はまだ目の前で妄想を炸裂させて、幻の婚約者に腹を立てている父を見て、そして可愛すぎる弟二人を見て、目の前のフレンチトーストを見た。
(そうだ、あの人は……今日も一人なんだ)
ふと、涼音の「夕飯は?」と聞いてきたあの表情を思い出す。何の気なしに出た言葉だっただろうし、特に深い意味はないのだとはわかっていたのだが、一緒に食べないのか、というニュアンスを含んでいた。
一人のご飯が寂しいことを、芽生は知っている。だから、こうしてみんなで食べるご飯が、とてつもなく美味しいことも知っている。
(いつも一人なんだ、あの人。あの部屋で、週末いつも……)
外国帰りの涼音が社長に就任して、社風は一気に変わった。それまでの残業のほとんどが禁止になり、徹底的なコスト削減と仕事のできない高給取りの役員を追いやったことで、涼音は会社をぐいぐいと立て直したのに四面楚歌だ。
そんなわけで会社でも社員に恐れられ、たぬきジジイと呼ぶ居座った古株たちには厄介者扱いされ、休めるはずの家はぐちゃぐちゃ。それは、社長であるが故の孤独なのだと頭では分かっていつつも、それを肩代わりすることはできない。手を差し伸べることさえ、芽生にはできなかった。
そんな涼音が、芽生に見せたあの食べ物を食べる時のほっと緩んだ表情は、涼音の素のように思えた。
(本当の顔ってわけね)
きっと、あの表情を知るのは、自分だけなのだと芽生は思った。そう考えた時に、急に胸が熱くなる。お前になら惚れられてもいいと言ったあの言葉が突如、芽生の脳内で再生されて顔が真っ赤になった。
(ダメダメ、からかっているだけなんだからきっと。私があんまりにも恋愛初心者だから、楽しんでるだけ!)
美味しいご飯を食べながら、コーヒーを飲んで、そして芽生は決心する。何を言われたからではなく、あの涼音の顔が芽生の心に焼き付いてしまったせいだった。
「……ねえみんな。今晩、私、外で食べてきてもいい?」
それは、芽生が今まで口にしたことのない言葉だった。
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