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第2章
第13話 対価
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『家政婦として俺と個人契約しろ。日給二万出すぞ、週末だけで四万、月収で約十六万弱だ――断るのか? 何でもするって言ったのに?』
そう言ってから、断ったら会社もクビだと脅し文句をつけられて、芽生は強引に、週末に涼音の部屋の掃除と片付けに雑用、三食のご飯をつくるという家政婦の個人契約をさせられた。
おまけに、初めてだったキスまでちゃっかり奪われてしまい、なんとも良いことが無い。
さらに悪いことに、処女に襲い掛かるほど飢えてないから安心して来るようになどという、いらぬ一言まで付け加えられて、芽生は泣きたい気持ちさえ俊足で遠ざかって行ってしまった。
社長室を去るときに思い切り「はげちゃえ!」と言った精一杯の文句だけで、もういっぱいいっぱいになるほど、すでに芽生は涼音に振り回されていた。
その日一日悩み尽くし、金曜日の今日まで悩み尽くして、居酒屋のバイト中もそれを考えていたので、有紀に心ここにあらずだけど大丈夫と心配された。
結局、明日の朝には行かなくてはいけない状況なのにもかかわらず、いまだに踏ん切りがついていなかった。
「父さん、ちょっと話があるんだけど……」
「ん、芽生どうした?」
「あのね、土日の日中、バイト増やしたくてね。っていうか、もう契約しちゃったんだけど」
「ええ!? 芽生、働き過ぎだよ。倒れちゃうよ」
「でもね、日給二万円くれるって」
「芽生それダメ! 怪しいバイトだよ絶対ダメ! 父さん、許さないぞ!」
父親はその金額の高さに、見ていたテレビをそっちのけに芽生に向き直った。
「違うの父さん。私の会社の社長が、家政婦を募集していてね。それで、こないだ有紀君のお店に来ちゃって翌日に社長室呼ばれたんだけど、バイト許す代わりに、週末に家政婦しろって言われたの」
「そんなことがあったのか……」
「私がお店で作ったお雑炊がおいしかったみたい。それだけのお金もらえたら、開業資金の足しにかなりなると思うし……」
「不安そうな顔をしているよ、本当は行きたくないんじゃないのか?」
さすが父だな、と芽生は笑ってしまった。なんでもやはりお見通しだった。
「ちょっと心配なの、そんなにお金もらって大丈夫かなって。でもね、仕事は好きだし、夢を諦めたくない」
「芽生……本当に、そういうところは母親似だな」
「母さんに?」
父はうなずいた。
「母さんは、働くのが好きな人だったんだよ。しっかり芽生にまで遺伝しているね。でも、いざとなったら、父さんがいるんだから、無理はしてはいけないよ。言い出したら言うことを聞かないのも知っているから止めないけれど、無理のないように頑張りなさい」
「うん、ありがとう」
「あと芽生。それだけお金出してくれるんだから、しっかり働けばいいんだ。そんなにもらっていいのかなんて、気後れするもんじゃない。きちんと対価に見合うだけのことをやったらいいだけの話だ」
父親にポンと肩を叩かれると、そこから芽生の力がすうっと抜けていく。まるで魔法のように、気持ちが穏やかになった。
「……そうだよね。もらって困るものではないのだし。私、頑張るね!」
父はにっこりと笑った。芽生も話をしたのが良かったのか、胸のつかえがとれた。
(頑張ろう。やることをやるだけなんだもん)
芽生はしっかりとうなずくと、翌朝に備えてすぐに布団に入った。
そう言ってから、断ったら会社もクビだと脅し文句をつけられて、芽生は強引に、週末に涼音の部屋の掃除と片付けに雑用、三食のご飯をつくるという家政婦の個人契約をさせられた。
おまけに、初めてだったキスまでちゃっかり奪われてしまい、なんとも良いことが無い。
さらに悪いことに、処女に襲い掛かるほど飢えてないから安心して来るようになどという、いらぬ一言まで付け加えられて、芽生は泣きたい気持ちさえ俊足で遠ざかって行ってしまった。
社長室を去るときに思い切り「はげちゃえ!」と言った精一杯の文句だけで、もういっぱいいっぱいになるほど、すでに芽生は涼音に振り回されていた。
その日一日悩み尽くし、金曜日の今日まで悩み尽くして、居酒屋のバイト中もそれを考えていたので、有紀に心ここにあらずだけど大丈夫と心配された。
結局、明日の朝には行かなくてはいけない状況なのにもかかわらず、いまだに踏ん切りがついていなかった。
「父さん、ちょっと話があるんだけど……」
「ん、芽生どうした?」
「あのね、土日の日中、バイト増やしたくてね。っていうか、もう契約しちゃったんだけど」
「ええ!? 芽生、働き過ぎだよ。倒れちゃうよ」
「でもね、日給二万円くれるって」
「芽生それダメ! 怪しいバイトだよ絶対ダメ! 父さん、許さないぞ!」
父親はその金額の高さに、見ていたテレビをそっちのけに芽生に向き直った。
「違うの父さん。私の会社の社長が、家政婦を募集していてね。それで、こないだ有紀君のお店に来ちゃって翌日に社長室呼ばれたんだけど、バイト許す代わりに、週末に家政婦しろって言われたの」
「そんなことがあったのか……」
「私がお店で作ったお雑炊がおいしかったみたい。それだけのお金もらえたら、開業資金の足しにかなりなると思うし……」
「不安そうな顔をしているよ、本当は行きたくないんじゃないのか?」
さすが父だな、と芽生は笑ってしまった。なんでもやはりお見通しだった。
「ちょっと心配なの、そんなにお金もらって大丈夫かなって。でもね、仕事は好きだし、夢を諦めたくない」
「芽生……本当に、そういうところは母親似だな」
「母さんに?」
父はうなずいた。
「母さんは、働くのが好きな人だったんだよ。しっかり芽生にまで遺伝しているね。でも、いざとなったら、父さんがいるんだから、無理はしてはいけないよ。言い出したら言うことを聞かないのも知っているから止めないけれど、無理のないように頑張りなさい」
「うん、ありがとう」
「あと芽生。それだけお金出してくれるんだから、しっかり働けばいいんだ。そんなにもらっていいのかなんて、気後れするもんじゃない。きちんと対価に見合うだけのことをやったらいいだけの話だ」
父親にポンと肩を叩かれると、そこから芽生の力がすうっと抜けていく。まるで魔法のように、気持ちが穏やかになった。
「……そうだよね。もらって困るものではないのだし。私、頑張るね!」
父はにっこりと笑った。芽生も話をしたのが良かったのか、胸のつかえがとれた。
(頑張ろう。やることをやるだけなんだもん)
芽生はしっかりとうなずくと、翌朝に備えてすぐに布団に入った。
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