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第一章 トゥオンとヴァン
第6話
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大陸の東の山々は、手つかずの自然が残っている場所だ。
東の地域を人々は竜の住む聖域と呼び、決して近づかない。そして、人が入ることは禁止されている領域でもある。
入ってはいけない理由は、そこが竜たちの住処だからだ。
太古の昔、人と仲たがいをし、住む場所を分けたと言われる竜。彼らと今も同じ大陸で共存できているのは、竜と人とが別の場所で生活をしているからだ。
人が決して入ってはいけない聖域が竜の住む聖域であり、竜も決してその場所から出てこない。
いつ誰がどのように決めたのかわからないが、古い言い伝えによると人間の王様と竜の王様が、お互い傷つけあわないように取り決めたのだとか。
だから、竜の卵が一体なぜラナカイ村の近くの藪に落ちていたのかは、誰にも理由がわからない。
トゥオンとヴァンは毎日を一緒に過ごした。
夜寝る時も、朝起きる時も、仕事をしている時も、片時もはなれなかった。それは周りから見るとまるで姉弟のように見えた。
トゥオンもヴァンを弟のように思っていたし、ヴァンもトゥオンのことを家族と思っている様子だった。
しかしヴァンの成長は早い。
彼が空を飛べるようになったのは、生まれて半年後のことだった。その頃には、トゥオンよりも大きくなっていたし、小さかった翼は見事な大きさになっていた。
立派になったヴァンの翼は、鳥たちと同じように普段は背中に折りたたんでいるような形だ。
「ねえ、ヴァン。この翼で飛べるんじゃないかな?」
トゥオンがそれをひょいと引っ張って、広げて上下に動かしてみたところ、ヴァンは羽の使い方を勘で理解したようだ。
だからといって、初めから上手く飛べたわけではない。
最初のうちは翼をただ広げてパタパタ動かすだけだった。そうするといつもと身体の軸が変わってしまうのか、よろけて尻餅をつく姿が何度も目撃された。
トゥオンが何度もヴァンを抱え起こし、ヴァンはようやく動かしてもよろけなくなった。
その時には、羽のつけ根に立派な筋肉がつき、足腰もさらにたくましくなった。
「ヴァンはきっと、空を自由に飛びたいんだよね?」
『ヴ……ァン!』
鳴き声は、『もちろん!』とヴァンが言っているように聞こえた。
トゥオンは飛べないので、仕事が始まる早朝と終わった夕刻に、村の見張り台まで通うことにした。
「いずれは、ここから飛べるようにしようね」
トゥオンは見張り台から、大空を羽ばたく鳥たちの姿をヴァンに見せてあげた。
「ほんとうは、トゥオンが飛んでヴァンに見せてあげたいけれど。トゥオンは飛べないんだ。だから、ヴァンが飛んでいる姿が見られる日が楽しみだよ」
『ヴゥゥン』
鳥の姿を見て、羽を動かすことを始めたヴァンだったが、飛ぶという様子は一向に見られなかった。
そこで、トゥオンは時間を見つけると、爺さまと一緒にとあるものを作った。ヴァンの羽の形に似せた布を、竹で作った土台に貼りつけた張りぼてだ。
腕を中に通せるように作っていて、トゥオンは出来上がったそれを両の腕にはめ込み、ヴァンの横で羽ばたいて飛ぶような仕草を何度も見せた。
すると、トゥオンをまねてヴァンも翼を動かす。助走をつけてトゥオンが羽ばたく真似をすると、ヴァンもそれを真似して走りながら翼を動かすようになっていった。
初めてヴァンの翼が風をとらえ、ふわりと宙に浮いたのは、ひと月も経ってからだ。
「ヴァン、今浮いたよね!?」
トゥオンが駆け寄ると、ヴァンも驚いたのか目をしばたたかせていた。
「きっと飛べるよ! ヴァン、いっぱい練習しよう!」
『ヴ……ヴァンっ!』
「あはは! 嬉しい!」
トゥオンはヴァンと過ごす毎日が、まるで宝石のようにキラキラ輝いて見えていた。
東の地域を人々は竜の住む聖域と呼び、決して近づかない。そして、人が入ることは禁止されている領域でもある。
入ってはいけない理由は、そこが竜たちの住処だからだ。
太古の昔、人と仲たがいをし、住む場所を分けたと言われる竜。彼らと今も同じ大陸で共存できているのは、竜と人とが別の場所で生活をしているからだ。
人が決して入ってはいけない聖域が竜の住む聖域であり、竜も決してその場所から出てこない。
いつ誰がどのように決めたのかわからないが、古い言い伝えによると人間の王様と竜の王様が、お互い傷つけあわないように取り決めたのだとか。
だから、竜の卵が一体なぜラナカイ村の近くの藪に落ちていたのかは、誰にも理由がわからない。
トゥオンとヴァンは毎日を一緒に過ごした。
夜寝る時も、朝起きる時も、仕事をしている時も、片時もはなれなかった。それは周りから見るとまるで姉弟のように見えた。
トゥオンもヴァンを弟のように思っていたし、ヴァンもトゥオンのことを家族と思っている様子だった。
しかしヴァンの成長は早い。
彼が空を飛べるようになったのは、生まれて半年後のことだった。その頃には、トゥオンよりも大きくなっていたし、小さかった翼は見事な大きさになっていた。
立派になったヴァンの翼は、鳥たちと同じように普段は背中に折りたたんでいるような形だ。
「ねえ、ヴァン。この翼で飛べるんじゃないかな?」
トゥオンがそれをひょいと引っ張って、広げて上下に動かしてみたところ、ヴァンは羽の使い方を勘で理解したようだ。
だからといって、初めから上手く飛べたわけではない。
最初のうちは翼をただ広げてパタパタ動かすだけだった。そうするといつもと身体の軸が変わってしまうのか、よろけて尻餅をつく姿が何度も目撃された。
トゥオンが何度もヴァンを抱え起こし、ヴァンはようやく動かしてもよろけなくなった。
その時には、羽のつけ根に立派な筋肉がつき、足腰もさらにたくましくなった。
「ヴァンはきっと、空を自由に飛びたいんだよね?」
『ヴ……ァン!』
鳴き声は、『もちろん!』とヴァンが言っているように聞こえた。
トゥオンは飛べないので、仕事が始まる早朝と終わった夕刻に、村の見張り台まで通うことにした。
「いずれは、ここから飛べるようにしようね」
トゥオンは見張り台から、大空を羽ばたく鳥たちの姿をヴァンに見せてあげた。
「ほんとうは、トゥオンが飛んでヴァンに見せてあげたいけれど。トゥオンは飛べないんだ。だから、ヴァンが飛んでいる姿が見られる日が楽しみだよ」
『ヴゥゥン』
鳥の姿を見て、羽を動かすことを始めたヴァンだったが、飛ぶという様子は一向に見られなかった。
そこで、トゥオンは時間を見つけると、爺さまと一緒にとあるものを作った。ヴァンの羽の形に似せた布を、竹で作った土台に貼りつけた張りぼてだ。
腕を中に通せるように作っていて、トゥオンは出来上がったそれを両の腕にはめ込み、ヴァンの横で羽ばたいて飛ぶような仕草を何度も見せた。
すると、トゥオンをまねてヴァンも翼を動かす。助走をつけてトゥオンが羽ばたく真似をすると、ヴァンもそれを真似して走りながら翼を動かすようになっていった。
初めてヴァンの翼が風をとらえ、ふわりと宙に浮いたのは、ひと月も経ってからだ。
「ヴァン、今浮いたよね!?」
トゥオンが駆け寄ると、ヴァンも驚いたのか目をしばたたかせていた。
「きっと飛べるよ! ヴァン、いっぱい練習しよう!」
『ヴ……ヴァンっ!』
「あはは! 嬉しい!」
トゥオンはヴァンと過ごす毎日が、まるで宝石のようにキラキラ輝いて見えていた。
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