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長く短い真夏の殺意
第2話
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翌日。またもや振り出しに戻ってしまった取調室で、青木は白鷺と向かい合うことになった。
ゲームの世界から抜け出してきたような白鷺の顔立ちは美しく、表情が乏しいため人形のような印象を受ける。
見た目だけで言えば人と対峙しているようには思えないのに、白鷺の目を見ていると青木は感情の一部を揺さぶられるような気がしてくるから不思議だった。
白鷺は青木が入ってくると、立ち上がって瞬きを二回してお辞儀する。
主人とのやりとりを学習していく執事型ロボットは、各家庭の影響を色濃く受けることが多い。
性格とも呼べるようなその癖は、主人の人柄を反映するため、間接的だが主人がどういう人かがおおむねわかりやすいとも言えた。
おそらくどの執事型ロボットにも見られる礼儀正しくて丁寧な癖《データ》だが、白鷺はそれが特に顕著だ。
青木には、ほかの家事ロボットよりもひときわ礼節を重んじているような白鷺が、あんな惨たらしい殺人をするようには思えないのだ――理由もなく。
「おはようございます、青木刑事さん」
「おう、おはよう白鷺くん。昨夜はよく休めたかよ?」
「はい。おかげさまでぐっすりと眠ることができました。私のために布団をご用意くださり、ありがとうございます」
まるで執事とのやりとりをしているような会話だが、相手はロボット。もちろん白鷺は眠ることはない。
青木はボリボリと頭を掻きながら、白鷺の前のパイプ椅子に座る。昨日は体調不良で参加できなかった黒岩刑事も、後からやってくると取り調べに参加することになった。
丁寧すぎる自己紹介をする白鷺に、黒岩は「なんか、調子狂っちゃいますね」と困った顔をした。
「昨日は、あんな血まみれだったのに……」
黒岩は自分で言いかけてから、昨日の惨状を思い出して気持ち悪くなったのか、慌ててハンカチで口元を抑えた。そんな黒岩をやれやれと思いつつ、青木は白鷺に向き直る。
「で、白鷺くん。昨日の続きなんだけど。どうやら君のメモリースティックが損傷していて、データの復元ができないんだと」
「それは大変ご迷惑をおかけして申し訳ございません」
「いいっていいって。まあ、だから、事件の真相を知っているのは、あんたとお嬢様だけだ。というわけで、そろそろ真相を話してくれないかな?」
窓の外では、蝉がミンミンと鳴いている。取調室も太陽が昇るとともにジメジメと暑くなってきた。
古いクーラーが、ガタガタ言いながら冷気を吐き出しているが、それでも暑い。汗をかく刑事二人に対して、白鷺は表情一つ変えず汗ひとつにじませなかった。
「また、だんまりかよ。まあいい。それなら、こちらの状況を話そうか」
「恐れ入ります」
「とりあえずマスコミには殺人事件発生、容疑者二名逮捕取り調べ中と伝えてある。これ以上は、まだ発表してない。理由はわかるな?」
「はい。私のような執事型ロボットが、人を殺すことなど世間一般にはあり得ないからです」
「ご名答」
「そんな事があったら、マスコミだけでなく世間中が大騒ぎになる。私の製造元も大損害を被るでしょうし、日本のロボット市場の基盤を揺るがしかねない」
「そう、よくわかってるな」
白鷺の淡々とした答えを聞きながら、青木は目を細めた。
「……お前、わかっててやっただろ。だから黙っているんじゃないか?」
青木の発言に、黒岩が驚いた。しかし、白鷺は寸分も動かず、瞬きさえしないまま黙っている。
「本当に、あの家の主人を殺したのはお前か、白鷺」
「ちょっとちょっと、青木さん。まさか犯人がこいつじゃないって疑ってるんですか? このロボットは犯行を認めているじゃないですか!」
そこが、青木の勘に引っ掛かるところなのだ。
「被害者を殺したというのなら、動機はなんだ? なんで、あんなぐちゃぐちゃになるまで散らかしたんだ? 黒岩、答えられるか?」
「それは……自分にはわからないっすけど」
あの凄惨な現場を思い出して黒岩は顔色を失いながら眉をひそめる。気を取り直したように、黒岩は白鷺を見つめた。
白鷺は佇まいまで礼儀正しく、清廉な印象さえ受けた。言われて黒岩も、このロボットが家主を殺したようには思えなくなってきてしまった。
「旦那様を殺したのは私です」
白鷺は、それ以上は口を割らなかった。
なにを聞いても黙秘を貫き、電源ボタンを一度落としてデータをもう一度スキャンし直して再起動させたが、やはり同じことを繰り返すだけだった。
ゲームの世界から抜け出してきたような白鷺の顔立ちは美しく、表情が乏しいため人形のような印象を受ける。
見た目だけで言えば人と対峙しているようには思えないのに、白鷺の目を見ていると青木は感情の一部を揺さぶられるような気がしてくるから不思議だった。
白鷺は青木が入ってくると、立ち上がって瞬きを二回してお辞儀する。
主人とのやりとりを学習していく執事型ロボットは、各家庭の影響を色濃く受けることが多い。
性格とも呼べるようなその癖は、主人の人柄を反映するため、間接的だが主人がどういう人かがおおむねわかりやすいとも言えた。
おそらくどの執事型ロボットにも見られる礼儀正しくて丁寧な癖《データ》だが、白鷺はそれが特に顕著だ。
青木には、ほかの家事ロボットよりもひときわ礼節を重んじているような白鷺が、あんな惨たらしい殺人をするようには思えないのだ――理由もなく。
「おはようございます、青木刑事さん」
「おう、おはよう白鷺くん。昨夜はよく休めたかよ?」
「はい。おかげさまでぐっすりと眠ることができました。私のために布団をご用意くださり、ありがとうございます」
まるで執事とのやりとりをしているような会話だが、相手はロボット。もちろん白鷺は眠ることはない。
青木はボリボリと頭を掻きながら、白鷺の前のパイプ椅子に座る。昨日は体調不良で参加できなかった黒岩刑事も、後からやってくると取り調べに参加することになった。
丁寧すぎる自己紹介をする白鷺に、黒岩は「なんか、調子狂っちゃいますね」と困った顔をした。
「昨日は、あんな血まみれだったのに……」
黒岩は自分で言いかけてから、昨日の惨状を思い出して気持ち悪くなったのか、慌ててハンカチで口元を抑えた。そんな黒岩をやれやれと思いつつ、青木は白鷺に向き直る。
「で、白鷺くん。昨日の続きなんだけど。どうやら君のメモリースティックが損傷していて、データの復元ができないんだと」
「それは大変ご迷惑をおかけして申し訳ございません」
「いいっていいって。まあ、だから、事件の真相を知っているのは、あんたとお嬢様だけだ。というわけで、そろそろ真相を話してくれないかな?」
窓の外では、蝉がミンミンと鳴いている。取調室も太陽が昇るとともにジメジメと暑くなってきた。
古いクーラーが、ガタガタ言いながら冷気を吐き出しているが、それでも暑い。汗をかく刑事二人に対して、白鷺は表情一つ変えず汗ひとつにじませなかった。
「また、だんまりかよ。まあいい。それなら、こちらの状況を話そうか」
「恐れ入ります」
「とりあえずマスコミには殺人事件発生、容疑者二名逮捕取り調べ中と伝えてある。これ以上は、まだ発表してない。理由はわかるな?」
「はい。私のような執事型ロボットが、人を殺すことなど世間一般にはあり得ないからです」
「ご名答」
「そんな事があったら、マスコミだけでなく世間中が大騒ぎになる。私の製造元も大損害を被るでしょうし、日本のロボット市場の基盤を揺るがしかねない」
「そう、よくわかってるな」
白鷺の淡々とした答えを聞きながら、青木は目を細めた。
「……お前、わかっててやっただろ。だから黙っているんじゃないか?」
青木の発言に、黒岩が驚いた。しかし、白鷺は寸分も動かず、瞬きさえしないまま黙っている。
「本当に、あの家の主人を殺したのはお前か、白鷺」
「ちょっとちょっと、青木さん。まさか犯人がこいつじゃないって疑ってるんですか? このロボットは犯行を認めているじゃないですか!」
そこが、青木の勘に引っ掛かるところなのだ。
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