54 / 68
第十章 あっつあつ昭和レトロのナポリタン
51
しおりを挟む〇本日のプレート
あっつあつ昭和レトロのナポリタン
自家製タルタルソースのエビフライ
魚介たくさんクラムチャウダー
祥に山盛りの大盛りナポリタンを出したあと、サンキャッチャーの鈴の音と共に扉が開く。光治と朝代の二人の姿が見えた。
光治のステッキはなくなったが、代わりに朝代と腕を組みながら、姿勢よく入店してくる。
「こんばんは。光治さん、朝代さん」
夜空の声を訊いた涼真が二人に駆け出していき、手前で速度を落としてから抱きついた。まるで、祖父母と再会したような瞬間だ。
光治と朝代は、延長保育ができない時に店で涼真の面倒を見てくれる。涼真は二人にとても懐いていた。
「あのねー、今日はパパとママと水族館にイルカさんをみにいったの!」
「おおそうかそうか。楽しかったようだね。私たちにも、涼真のお話をたくさん聞かせておくれ」
うん! と威勢のいい返事に、光治と朝代は涼真の近くの席に座った。
好美と和也も老アベックに挨拶をしながら、だんらんが始まる。
ほかのお客さんも入ってきて、『はぐれ猫亭』はどんどんにぎやかになってきた。その様子を、珍しくゆっくりしている祥が、目を細めながら満足そうに見ている。
「タバスコいります?」
「んなもん食ったら舌がいかれるだろうが」
「じゃあチョコレートソースでも」
夜空がからかうと、すかさず鼻をつままれて逆襲される。
それを光治と朝代に見られてしまって、夜空はものすごく恥ずかしくなりながらプレートを運んだ。
みんな、自分が提案したナポリタンにどういう反応をするだろうか。
今日はこういう気分じゃないという顔をされないだろうか。夜空の胸はドキドキし始める。
「ナポリタンか、懐かしいね」
「ケチャップが甘くておいしいのよね……急に食べたくなっちゃうの」
笑い合う姿に、夜空はホッと胸をなでおろした。みんな、嬉しそうな表情でナポリタンを食べ始める。
夜空がカウンターに戻ったところで、自転車のブレーキ音が聞こえてきた。
「あれ、今日はやけに早いなあ」
「ですね。早起きできたんじゃないですか?」
善と夜空の話を聞いていた祥がニヤリと笑う。
「いや、あっちで大きな事故があったから……一日半寝ずに今さっき帰宅したっていう可能性のほうが高い」
「えっ!?」
夜空がゾッとしていると、順平は疲れた顔でニカッと微笑んで、倒れ込むように席に着いた。
順平は「こんばんはっす」と蚊の鳴くような声で挨拶した。
「無理っす、もう報告書とか書き直しで眠くてヘロヘロで……でもまず飯食いたいっす」
順平はもはやしゃべるのも億劫になっているようだったが、涼真がいることに気がつくと、気力を振り絞って敬礼していた。
「夜空、大当たりしたから正解者に甘いもの追加だ」
祥はニヤニヤと勝ち誇った顔をしている。
「え、そんな話聞いていませんけど」
「これから仕事なんだよ、夜通しとか甘いものなかったらつらいだろうが」
「事前に連絡してくださいよ。そうしたらコレステロールめっちゃ上がるようなもの作っておくのに」
祥は夜空の作るお菓子は気に入っているようで、用意してほしいと言付けがあることも増えていた。
クリームをだばっと載せたケーキを出すと、祥はさすがに眉根を寄せる。
「これはさすがに俺でも太るぞ……」
祥の前に出された恐ろしい量のケーキに順平が大笑いする。夜空が客に噛みついている姿を見るのが珍しかったようだ。
「おいこら、笑ってんなよ。これはさすがにいじめだろうが。取り締まれよ警察官」
「いや、それ最高っす」
普段とは一味違って店内は賑やかで、気づくと満席になっていた。
常連客に、遠くから来た観光客。たまに来る商店街のメンバーもチラホラいる。
「……なんだか、家族みたいですね、こういうの」
夜空は大忙しな様子の善を手伝いながら、こそっと胸の内を打ち明ける。
そんなわけないよと笑われるかと思ったが、善は大まじめに頷いた。
「血のつながりがなくても、こうして心を通わせる本当の意味での人間関係が築けたら……それはもう、家族なのかもしれないね」
「そういうくくりで家族っていうののほうが、今の時代に合っているのかもしれないです」
一息つくと、談笑する皆をカウンターの内側から見つめた。
ナポリタンはケチャップをたっぷり使っているから甘い。大きなエビフライも、みんな口を開けてガブっと齧りついている。
トルコランプの優しくて幻想的な光の中で、一番輝いているのは来場客の笑顔だった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
oldies ~僕たちの時間[とき]
菊
ライト文芸
「オマエ、すっげえつまんなそーにピアノ弾くのな」
…それをヤツに言われた時から。
僕の中で、何かが変わっていったのかもしれない――。
竹内俊彦、中学生。
“ヤツら”と出逢い、本当の“音楽”というものを知る。
[当作品は、少し懐かしい時代(1980~90年代頃?)を背景とした青春モノとなっております。現代にはそぐわない表現などもあると思われますので、苦手な方はご注意ください。]
ボッチによるクラスの姫討伐作戦
イカタコ
ライト文芸
本田拓人は、転校した学校へ登校した初日に謎のクラスメイト・五十鈴明日香に呼び出される。
「私がクラスの頂点に立つための協力をしてほしい」
明日香が敵視していた豊田姫乃は、クラス内カーストトップの女子で、誰も彼女に逆らうことができない状況となっていた。
転校してきたばかりの拓人にとって、そんな提案を呑めるわけもなく断ろうとするものの、明日香による主人公の知られたくない秘密を暴露すると脅され、仕方なく協力することとなる。
明日香と行動を共にすることになった拓人を見た姫乃は、自分側に取り込もうとするも拓人に断られ、敵視するようになる。
2人の間で板挟みになる拓人は、果たして平穏な学校生活を送ることができるのだろうか?
そして、明日香の目的は遂げられるのだろうか。
ボッチによるクラスの姫討伐作戦が始まる。
演じる家族
ことは
ライト文芸
永野未来(ながのみらい)、14歳。
大好きだったおばあちゃんが突然、いや、徐々に消えていった。
だが、彼女は甦った。
未来の双子の姉、春子として。
未来には、おばあちゃんがいない。
それが永野家の、ルールだ。
【表紙イラスト】ノーコピーライトガール様からお借りしました。
https://fromtheasia.com/illustration/nocopyrightgirl
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
僕とコウ
三原みぱぱ
ライト文芸
大学時代の友人のコウとの思い出を大学入学から卒業、それからを僕の目線で語ろうと思う。
毎日が楽しかったあの頃を振り返る。
悲しいこともあったけどすべてが輝いていたように思える。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
高度救命救急センターの憂鬱 Spinoff
さかき原枝都は
ライト文芸
フェローは家畜だ。たっぷり餌を与えて…いや指導だ!
読み切り!全8話
高度救命救急センターの憂鬱 Spinoff 外科女医二人が織り成す恐ろしくも、そしてフェロー(研修医)をかわいがるその姿。少し違うと思う。いやだいぶ違うと思う。
高度救命センターを舞台に織り成す外科女医2名と二人のフェローの物語。
Emergency Doctor 救命医 の後続編Spinoff版。
実際にこんな救命センターがもしもあったなら………
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる