15 / 68
第二章 懐かしのほくほくじゅわぁ肉じゃが
12
しおりを挟む
マグロのステーキが焼きあがると、すぐにプレートの準備を整える。おまちどおさまとそれを出すと、順平は目をキラキラ輝かせた。
「ほんと、うまいんだよな。善さんの料理。いただきます!」
ぱん、と音を響かせながら手を合わせ、順平は気持ちいい食べっぷりを発揮する。
「順平さん、今日は非番ですか?」
「そおなんすよ、非番の日は寝過ぎちゃってダメっすね。で、ここからなにしようってくらい昼夜逆転しちゃうんだけど……あ、このマグロめっちゃうまい!」
順平は交番勤務二年目だ。
配属されてから非番の日になると、よく『はぐれ猫亭』に足を運ぶようだ。昼過ぎまで寝てしまうらしく、起きて用事を済ませているとあっという間に夜なのだ。
「今日、初めての食事なんっすよ。いやあ、沁みる!」
「順平くん、今日も絶好調な感想だね」
善がくすくす笑いながら、順平にお茶を渡した。
「お茶あざっす! 善さんの料理食ってなかったら、俺、多分不摂生で死ぬかゾンビになってますって」
「ゾンビは嫌だなあ」
順平は町内を見回っている時にも、店に立ち寄って様子を聞いてくれる。街に来たばかりの夜空の様子も気遣ってくれる、心優しい青年だ。
「善さんのご飯食べたら、人間に戻れますよきっと」
「あはは、だったらいっか」
順平が来てひときわ賑やかになった店内だったのだが、しばらくするとラストオーダーの時間だ。
夜空は残っている人たちにオーダーを聞きに行き、飲み物の追加を善に伝えた。
順平もとっくに食べ終わっており、一息つきながらゆっくりとしている。止まってしまっていたジャズのレコードを再度流しながら、『はぐれ猫亭』の夜が更けていく。
「ごちそうさまでした! また来ます!」
「あ、順平くん」
帰ろうとする順平を善が呼び止めた。呼ばれた順平はくるりと振り返ると、カウンターから善が手招きをする。
「これ。よかったらどうぞ」
紙袋に包んだ品物を渡す。
「肉じゃがリメイクの、あげ焼きコロッケ。チーズ入りだよ」
「いいんですか!?」
「うん。昼ご飯にでも食べてね。またぜひどうぞ」
順平は嬉しそうに笑って、ふかぶかとお辞儀をして帰っていく。
店の外まで夜空は順平を見送って、手を振って別れた。中に戻って入り口に鍵をかけると、玄関灯を消す。
店じまいだ。
「……善さん、いつの間にコロッケ作っていたんですか?」
「ん? さっき、夜空くんが順平くんとお話している時だよ」
「すごい早業」
夜空は感心しっぱなしだ。善は本当に魔法使いなのではないかと思う時がある。
「今日は、肉じゃがで大正解でしたね。みんな、肉じゃがが食べたいって顔していましたもん」
善は振り返って、ふふふと笑う。
「でしょう? 僕は、魔法使いだからね」
善のきめ台詞を聞くと、なぜか夜空は嬉しくなる。
お疲れさまでしたと言い合ってから、クローズ作業に入った。
「あ、ちなみに僕たちの明日のお昼ご飯は、肉じゃがだよ」
「え……?」
「夜空くんも、食べたいかと思って取っておいたんだ」
まるでそれは、心を読まれたかのようなタイミング。
「食べたかったんですよ、実は。ずっと我慢していました」
善に手招きされて、夜空は冷蔵庫の中を見る。中に入っていた小さい鍋の蓋を善が開けると、そこには肉じゃがが詰まっていた。
「善さん……やっぱり魔法ですか?」
「そう。僕の得意技なんだ」
てりてりでしっかりと味の沁み込んだ肉じゃがは、明日食べてもまたすぐに食べたくなる味に違いない。
「ほんと、うまいんだよな。善さんの料理。いただきます!」
ぱん、と音を響かせながら手を合わせ、順平は気持ちいい食べっぷりを発揮する。
「順平さん、今日は非番ですか?」
「そおなんすよ、非番の日は寝過ぎちゃってダメっすね。で、ここからなにしようってくらい昼夜逆転しちゃうんだけど……あ、このマグロめっちゃうまい!」
順平は交番勤務二年目だ。
配属されてから非番の日になると、よく『はぐれ猫亭』に足を運ぶようだ。昼過ぎまで寝てしまうらしく、起きて用事を済ませているとあっという間に夜なのだ。
「今日、初めての食事なんっすよ。いやあ、沁みる!」
「順平くん、今日も絶好調な感想だね」
善がくすくす笑いながら、順平にお茶を渡した。
「お茶あざっす! 善さんの料理食ってなかったら、俺、多分不摂生で死ぬかゾンビになってますって」
「ゾンビは嫌だなあ」
順平は町内を見回っている時にも、店に立ち寄って様子を聞いてくれる。街に来たばかりの夜空の様子も気遣ってくれる、心優しい青年だ。
「善さんのご飯食べたら、人間に戻れますよきっと」
「あはは、だったらいっか」
順平が来てひときわ賑やかになった店内だったのだが、しばらくするとラストオーダーの時間だ。
夜空は残っている人たちにオーダーを聞きに行き、飲み物の追加を善に伝えた。
順平もとっくに食べ終わっており、一息つきながらゆっくりとしている。止まってしまっていたジャズのレコードを再度流しながら、『はぐれ猫亭』の夜が更けていく。
「ごちそうさまでした! また来ます!」
「あ、順平くん」
帰ろうとする順平を善が呼び止めた。呼ばれた順平はくるりと振り返ると、カウンターから善が手招きをする。
「これ。よかったらどうぞ」
紙袋に包んだ品物を渡す。
「肉じゃがリメイクの、あげ焼きコロッケ。チーズ入りだよ」
「いいんですか!?」
「うん。昼ご飯にでも食べてね。またぜひどうぞ」
順平は嬉しそうに笑って、ふかぶかとお辞儀をして帰っていく。
店の外まで夜空は順平を見送って、手を振って別れた。中に戻って入り口に鍵をかけると、玄関灯を消す。
店じまいだ。
「……善さん、いつの間にコロッケ作っていたんですか?」
「ん? さっき、夜空くんが順平くんとお話している時だよ」
「すごい早業」
夜空は感心しっぱなしだ。善は本当に魔法使いなのではないかと思う時がある。
「今日は、肉じゃがで大正解でしたね。みんな、肉じゃがが食べたいって顔していましたもん」
善は振り返って、ふふふと笑う。
「でしょう? 僕は、魔法使いだからね」
善のきめ台詞を聞くと、なぜか夜空は嬉しくなる。
お疲れさまでしたと言い合ってから、クローズ作業に入った。
「あ、ちなみに僕たちの明日のお昼ご飯は、肉じゃがだよ」
「え……?」
「夜空くんも、食べたいかと思って取っておいたんだ」
まるでそれは、心を読まれたかのようなタイミング。
「食べたかったんですよ、実は。ずっと我慢していました」
善に手招きされて、夜空は冷蔵庫の中を見る。中に入っていた小さい鍋の蓋を善が開けると、そこには肉じゃがが詰まっていた。
「善さん……やっぱり魔法ですか?」
「そう。僕の得意技なんだ」
てりてりでしっかりと味の沁み込んだ肉じゃがは、明日食べてもまたすぐに食べたくなる味に違いない。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
瞬間、青く燃ゆ
葛城騰成
ライト文芸
ストーカーに刺殺され、最愛の彼女である相場夏南(あいばかなん)を失った春野律(はるのりつ)は、彼女の死を境に、他人の感情が顔の周りに色となって見える病、色視症(しきししょう)を患ってしまう。
時が経ち、夏南の一周忌を二ヶ月後に控えた4月がやって来た。高校三年生に進級した春野の元に、一年生である市川麻友(いちかわまゆ)が訪ねてきた。色視症により、他人の顔が見えないことを悩んでいた春野は、市川の顔が見えることに衝撃を受ける。
どうして? どうして彼女だけ見えるんだ?
狼狽する春野に畳み掛けるように、市川がストーカーの被害に遭っていることを告げる。
春野は、夏南を守れなかったという罪の意識と、市川の顔が見える理由を知りたいという思いから、彼女と関わることを決意する。
やがて、ストーカーの顔色が黒へと至った時、全ての真実が顔を覗かせる。
第5回ライト文芸大賞 青春賞 受賞作
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
隣の家の幼馴染は学園一の美少女だが、ぼっちの僕が好きらしい
四乃森ゆいな
ライト文芸
『この感情は、幼馴染としての感情か。それとも……親友以上の感情だろうか──。』
孤独な読書家《凪宮晴斗》には、いわゆる『幼馴染』という者が存在する。それが、クラスは愚か学校中からも注目を集める才色兼備の美少女《一之瀬渚》である。
しかし、学校での直接的な接触は無く、あってもメッセージのやり取りのみ。せいぜい、誰もいなくなった教室で一緒に勉強するか読書をするぐらいだった。
ところが今年の春休み──晴斗は渚から……、
「──私、ハル君のことが好きなの!」と、告白をされてしまう。
この告白を機に、二人の関係性に変化が起き始めることとなる。
他愛のないメッセージのやり取り、部室でのお昼、放課後の教室。そして、お泊まり。今までにも送ってきた『いつもの日常』が、少しずつ〝特別〟なものへと変わっていく。
だが幼馴染からの僅かな関係の変化に、晴斗達は戸惑うばかり……。
更には過去のトラウマが引っかかり、相手には迷惑をかけまいと中々本音を言い出せず、悩みが生まれてしまい──。
親友以上恋人未満。
これはそんな曖昧な関係性の幼馴染たちが、本当の恋人となるまでの“一年間”を描く青春ラブコメである。
ことりの台所
如月 凜
ライト文芸
※第7回ライト文芸大賞・奨励賞
オフィスビル街に佇む昔ながらの弁当屋に勤める森野ことりは、母の住む津久茂島に引っ越すことになる。
そして、ある出来事から古民家を改修し、店を始めるのだが――。
店の名は「ことりの台所」
目印は、大きなケヤキの木と、青い鳥が羽ばたく看板。
悩みや様々な思いを抱きながらも、ことりはこの島でやっていけるのだろうか。
※実在の島をモデルにしたフィクションです。
人物・建物・名称・詳細等は事実と異なります
葛城依代の夏休み日記~我が家に野良猫がきました~
白水緑
ライト文芸
一人ぼっちの夏休みを過ごす依代は、道端で自称捨て猫を拾った。
二人は楽しい共同生活を送るが、それはあっという間に終わりを告げる。
――ひと夏の、儚い思い出。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる