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第二章 懐かしのほくほくじゅわぁ肉じゃが
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夜空が結婚詐欺にだまされ、傷心していた時に見つけたのは、海沿いにある喫茶店――海街喫茶『はぐれ猫亭』。
夕方からオープンする、ワンプレートの手料理のみを提供する、不思議な喫茶店。
同じ規格で作られた三階建ての長屋風の建物で、連なる店々の一番端っこに佇んでいる。
店の前を通る道路の向こうでは、キラキラ輝く海が見える。
時代からうっかりとり残されたような昭和レトロなこの店で、一ノ瀬夜空は働いていた。
古びた外観はこの辺り一帯の店の特徴だが、『はぐれ猫亭』も負けず劣らずだ。白色の格子のガラス窓に同じ色調の扉。しかしドアを開けると、見た目の印象とは対照的な、クラシカルな内装なのだ。
全体的にダークな木彫の室内に、調度品の多くは青みを基調としたオリエンタルなものでまとめてある。重厚な内装なのに、エスニックやオリエンタルな品々が、なんとも絶妙にマッチしていて、誰がどう見てもオシャレな空間だ。
「猫ってさ、戦利品を飼い主に見せびらかすの。そんな感じ」
内装について訊ねるとそんな答えが返ってくるので、夜空は首を傾げるばかりだ。
「夜空くんも、いいものを手にしたら、こそっと置いておきたくなるでしょう?」
マスターの善は毎日そんな調子だ。
スタイリッシュという言葉がぴったりの細身に長身。癖のある髪を一つに括っている姿は、一見モデルのようにも見える。小粒だがつぶらでパッチリ二重の目元に、凛々しい眉毛が優しい雰囲気だ。
対する夜空は、下手すると女性よりもかわいいとさえ言われてしまう容姿だった。童顔女顔で小柄な身体つきをしていて、気づけばそれがコンプレックスになりつつある。
そんな夜空と善は、見事にチグハグなコンビだった。
二人は今や、一つ屋根の下で暮らしている。
始めのうち、善の家で一緒に住むことに夜空はどことなく抵抗感があった。
壁を一枚隔てた向こうに、数日前に知り合ったばかりの見ず知らずに近い男性がいるのだ。
よく考えたら、おかしな話に違いない。常識的とは言い難い状況だと、自分でも思っている。
それなのに、善という人間はまるで空気のようだった。
数日一緒に過ごしてみてわかったのだが、他人との心地よい距離というのを熟知している。
さながら仙人のような空気感で、あっという間に夜空の警戒心はどこかへ消え去ってしまっていた。
同居するにあたって、二人で決めたことがいくつかある。三階に二つある部屋を、それぞれが個人用として使うこと。むやみに立ち入らないこと。そして、キッチンと風呂がある二階は共有スペースだ。
二週間を過ぎたあたりから、善がクラスメイトのような存在に感じられた。寮が一緒で、昔から生活していたかのような気心知れた人。
警戒していたというのに、警戒心など不要だということにすぐさま気付かされてしまっていた。
夕方からオープンする、ワンプレートの手料理のみを提供する、不思議な喫茶店。
同じ規格で作られた三階建ての長屋風の建物で、連なる店々の一番端っこに佇んでいる。
店の前を通る道路の向こうでは、キラキラ輝く海が見える。
時代からうっかりとり残されたような昭和レトロなこの店で、一ノ瀬夜空は働いていた。
古びた外観はこの辺り一帯の店の特徴だが、『はぐれ猫亭』も負けず劣らずだ。白色の格子のガラス窓に同じ色調の扉。しかしドアを開けると、見た目の印象とは対照的な、クラシカルな内装なのだ。
全体的にダークな木彫の室内に、調度品の多くは青みを基調としたオリエンタルなものでまとめてある。重厚な内装なのに、エスニックやオリエンタルな品々が、なんとも絶妙にマッチしていて、誰がどう見てもオシャレな空間だ。
「猫ってさ、戦利品を飼い主に見せびらかすの。そんな感じ」
内装について訊ねるとそんな答えが返ってくるので、夜空は首を傾げるばかりだ。
「夜空くんも、いいものを手にしたら、こそっと置いておきたくなるでしょう?」
マスターの善は毎日そんな調子だ。
スタイリッシュという言葉がぴったりの細身に長身。癖のある髪を一つに括っている姿は、一見モデルのようにも見える。小粒だがつぶらでパッチリ二重の目元に、凛々しい眉毛が優しい雰囲気だ。
対する夜空は、下手すると女性よりもかわいいとさえ言われてしまう容姿だった。童顔女顔で小柄な身体つきをしていて、気づけばそれがコンプレックスになりつつある。
そんな夜空と善は、見事にチグハグなコンビだった。
二人は今や、一つ屋根の下で暮らしている。
始めのうち、善の家で一緒に住むことに夜空はどことなく抵抗感があった。
壁を一枚隔てた向こうに、数日前に知り合ったばかりの見ず知らずに近い男性がいるのだ。
よく考えたら、おかしな話に違いない。常識的とは言い難い状況だと、自分でも思っている。
それなのに、善という人間はまるで空気のようだった。
数日一緒に過ごしてみてわかったのだが、他人との心地よい距離というのを熟知している。
さながら仙人のような空気感で、あっという間に夜空の警戒心はどこかへ消え去ってしまっていた。
同居するにあたって、二人で決めたことがいくつかある。三階に二つある部屋を、それぞれが個人用として使うこと。むやみに立ち入らないこと。そして、キッチンと風呂がある二階は共有スペースだ。
二週間を過ぎたあたりから、善がクラスメイトのような存在に感じられた。寮が一緒で、昔から生活していたかのような気心知れた人。
警戒していたというのに、警戒心など不要だということにすぐさま気付かされてしまっていた。
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