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第6章 封ずる

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 柰雲たち候虎の村に、『ガノムの知恵』が届けられたのはそれからすぐだ。

 時を同じくして、各地に散らばり在住していた寒稲の民の密偵たちを伝い、參ノ國全土に、ガノムの知恵が広がった。

 最初は半信半疑だった人々だったが、藁にも縋る思いでそれを実行した民族は厳しい冬を乗り越えて春に畑を耕した。

 数年後、參ノ國には豊かな緑と黄金色の稻が広がる大地が出現するようになる。

 夏には田畑は真っ赤な花でいっぱいになり、秋には黄金の実りが収穫される。冬は大地の恵みを宿す、毒が消えた根を乾燥させることで安心して寒さを越せた。

 生き物たちの数が戻ってきたのはさらに数年後。大地はますます豊かになり、ほどなくして人から争いは途絶えた。豊かな大地と実りが人々に活気をもたらし、參ノ國は新たに再生し始めたのだった。

 それから先も『ガノムの知恵』は文字と共に伝わり、それによって後世にもきちんと残されたという。

 それから数百年の時を経て、參ノ國にはこのような伝説が残った。

 友情と文字を伝えた異国の神と、命の大切さを伝えた生と死の神、人々に豊作を授けた知恵の神の三人の聖人が、疲弊した国を救い再建した――と。

 聖人は參ノ國各地にあらゆる時代ごとに現れては、知恵と勇気と命の大事さを教え、争いを治め、人々の生活と心を豊かにしていった。

 三聖人たちは今では鷲とウミヘビと候虎で色々な物に表され、各地に彼らを祀る廟が建てられている。

 いまでは、廟には三種の生き物を連れた彼らの像が設置され、米蔵として利用されるようになった。

 時代が下り、廟が破壊され新たな宗教が生まれ、そして人は争いまた國は疲弊した。

 それでもすぐに人が良識と愛を取り戻せたのは『ガノムの知恵』の神話が參ノ國の人々の心の奥深くに根付き、生活基盤となっていたからだ。

 その頃になると、三聖人の姿を見たものは誰一人としていなくなっており、遠い昔の古い神話として伝わるだけになってしまった。

 その神話は、千年経ったいまでは『祖神話』と呼ばれて伝説となっている

 しかし、山間の候虎の一族たちはなぜか『柰雲神話』と呼び語り継がれることになる。だが、なぜそう呼ばれるのか知る人はもう誰もいないのだった――。


 ―おわり―
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