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第6章 封ずる
第58話
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カイは少し口をとがらせてから、うーんと腕を組み始める。
「問題は、相手は腐っていても神……どんな祟りが跳ね返ってくるか」
「ならばわたしが祟りをもらう」
柰雲の申し出に、カイは大きな目を見開いた。
「正気か、柰雲?」
「もちろんだ」
「どうなるかわからないぞ?」
「死にはしないさ」
確信を持って呟くと、カイが首をかしげた。
「わたしは參ノ國に、和賀ノ実の真実を伝えたい。生き返らせてもらった今、それが役目だとわかっている」
「竇の中に入ってなんだか変わったようだな、柰雲」
「自分の命は自分だけのものではないとわかった。わたしにはやるべきことが続いていると思うんだ。だからどんな祟りをもらおうとも、死ぬことはないと言い切れる」
「自信満々だな。ならば、死ぬことはないだろう。カカもきっと、そのつもりでお前を黄泉がえりさせたはずだ」
根拠はないが、死なないだろうという絶対的な自身が柰雲にはあった。
「それならば、生き返らせた責任があるから私も最後まで寄り添おう。柰雲が創る參ノ國を見るまでは私も死なない」
柰雲はカイに感謝を伝えると、与那を見た。
「与那は半分はこの國の者ではないから、付き合わなくてもいいんだ。神を封じようというのだから、どんなことが起こるかわからない」
それに与那はふてくされたように眉をひそめた。
「阿保か。オレも半分は參ノ國の血が入っているし、この國生まれだ。それに、仲間を見捨てるのは悪いことだ」
与那の言い分に柰雲はぽかんとし、カイもびっくりしたように開いた口が塞がらなくなっている。
「んだよ、オレがなにか変なこと言ったかよ!」
「いや別に。お前がそんな風に思っているとは思わなくて」
「……阿流弖臥《あるてが》はオレを信じなかった。だけど、お前たちはオレのことを敵なのに信じた。この違いはオレにとって大きい」
神妙な空気が流れたあと、柰雲が珍しく声を上げて笑って与那の肩を抱いた。
「くっつくなうっとおしい! で、どうやって神とやらを封じるんだよ、カイ!」
まかせろ、とカイは不敵に笑った。
「私が神域から持ち帰った腐った稲穂を使って、まじないの陣を角岩に敷く。その間に柰雲は阿流弖臥を竇へ誘導しろ。術の発動には与那、お前が重要だ」
カイは与那をじっと見つめた。
「鏃《やじり》に破魔のまじないをかけるから、竇から出てきた賢人を射抜け。それが賢人に触れたら陣の完成だ。与那は矢が射れる範囲まで舟を寄せて待機していろ」
ちなみに、とカイは付け足す。
「破魔矢は一本しか作れない。材料が一つしかないからな。失敗したら終わりだ」
カイは荷物の中にあった翡翠の勾玉を引っ張ってきて見せる。
「朝飯前だ。俺の弓の腕をなめんな」
「なめてなどいない。与那にしか頼めないから頼むんだ。私はあの莫迦の阿流弖臥と違って与那を信用している」
とたん、与那は言葉に詰まってしまった。カイはニヤッと笑う。
「あとは柰雲の大刀を靈符の代わりにして、二度と神域に行けないように閉じる」
全員の力が必要だった。一つが失敗すれば、亡霊が參の國の大地を覆うだろう。そうなったら、止める術は誰も持っていない。
「よし、準備に取り掛かるぞ。もたもたしていると全員死にかねないからな」
カイは勢いよく立ち上がり作業を始めた。柰雲と与那はカイの指示に従って準備を手伝った。
「問題は、相手は腐っていても神……どんな祟りが跳ね返ってくるか」
「ならばわたしが祟りをもらう」
柰雲の申し出に、カイは大きな目を見開いた。
「正気か、柰雲?」
「もちろんだ」
「どうなるかわからないぞ?」
「死にはしないさ」
確信を持って呟くと、カイが首をかしげた。
「わたしは參ノ國に、和賀ノ実の真実を伝えたい。生き返らせてもらった今、それが役目だとわかっている」
「竇の中に入ってなんだか変わったようだな、柰雲」
「自分の命は自分だけのものではないとわかった。わたしにはやるべきことが続いていると思うんだ。だからどんな祟りをもらおうとも、死ぬことはないと言い切れる」
「自信満々だな。ならば、死ぬことはないだろう。カカもきっと、そのつもりでお前を黄泉がえりさせたはずだ」
根拠はないが、死なないだろうという絶対的な自身が柰雲にはあった。
「それならば、生き返らせた責任があるから私も最後まで寄り添おう。柰雲が創る參ノ國を見るまでは私も死なない」
柰雲はカイに感謝を伝えると、与那を見た。
「与那は半分はこの國の者ではないから、付き合わなくてもいいんだ。神を封じようというのだから、どんなことが起こるかわからない」
それに与那はふてくされたように眉をひそめた。
「阿保か。オレも半分は參ノ國の血が入っているし、この國生まれだ。それに、仲間を見捨てるのは悪いことだ」
与那の言い分に柰雲はぽかんとし、カイもびっくりしたように開いた口が塞がらなくなっている。
「んだよ、オレがなにか変なこと言ったかよ!」
「いや別に。お前がそんな風に思っているとは思わなくて」
「……阿流弖臥《あるてが》はオレを信じなかった。だけど、お前たちはオレのことを敵なのに信じた。この違いはオレにとって大きい」
神妙な空気が流れたあと、柰雲が珍しく声を上げて笑って与那の肩を抱いた。
「くっつくなうっとおしい! で、どうやって神とやらを封じるんだよ、カイ!」
まかせろ、とカイは不敵に笑った。
「私が神域から持ち帰った腐った稲穂を使って、まじないの陣を角岩に敷く。その間に柰雲は阿流弖臥を竇へ誘導しろ。術の発動には与那、お前が重要だ」
カイは与那をじっと見つめた。
「鏃《やじり》に破魔のまじないをかけるから、竇から出てきた賢人を射抜け。それが賢人に触れたら陣の完成だ。与那は矢が射れる範囲まで舟を寄せて待機していろ」
ちなみに、とカイは付け足す。
「破魔矢は一本しか作れない。材料が一つしかないからな。失敗したら終わりだ」
カイは荷物の中にあった翡翠の勾玉を引っ張ってきて見せる。
「朝飯前だ。俺の弓の腕をなめんな」
「なめてなどいない。与那にしか頼めないから頼むんだ。私はあの莫迦の阿流弖臥と違って与那を信用している」
とたん、与那は言葉に詰まってしまった。カイはニヤッと笑う。
「あとは柰雲の大刀を靈符の代わりにして、二度と神域に行けないように閉じる」
全員の力が必要だった。一つが失敗すれば、亡霊が參の國の大地を覆うだろう。そうなったら、止める術は誰も持っていない。
「よし、準備に取り掛かるぞ。もたもたしていると全員死にかねないからな」
カイは勢いよく立ち上がり作業を始めた。柰雲と与那はカイの指示に従って準備を手伝った。
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