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第3章 逃走
第24話
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武器がぶつかり合う甲高い音が聞こえ、一人が柰雲を押し切ろうとする。あとの二人は脇や背後に回ってきた。
だいぶ手練れた剣の使い手たちだったのだが、一人、二人と昏倒させる。三人目と対峙していると、騒ぎに気がついてさらに十数人ほどの人間が集まってくる気配がした。
「多いな……」
予想していたよりもだいぶ大人数が追いかけてきたようだ。なるべくならば傷つけないようにしたい。しかし逃げ切るには、大刀を抜かなくてはならないだろう。
考えていた一瞬の隙に、三人目の男が大きく上から振りかぶってきた。それを受け流しているうちに馬に乗った数十人に囲まれてしまった。
すでに負傷していたカイのことを考えると、自分が怪我をするわけにはいかない。彼らが襲い掛かってきた瞬間、柰雲は隙間を縫って男たちの包囲を抜けようとする。
だが、「逃がすか!」という声とともに数人に取り囲まれてしまい、咄嗟に急所を攻撃して倒してしまった。仲間が一瞬で地面に倒れたのを見た兵士たちは、逆上して襲い掛かってくる。
さすがに多勢に無勢になってしまい、不意打ちをくらって片膝を地面についた。瞬間、恐ろしい勢いで男たちが襲い掛かってくる。
「くっ……」
一人二人ならまだしも、五人に押しつぶされればさすがに身動きが取れない。柰雲は目をつぶって深呼吸をする。稀葉と別れた今現在でも、自分が一人ではないことを知っていた。
これだけ周りを囲まれても、傷一つ負うことなく逃げ延びる確実な方法がある。一瞬迷った後に助けを求めることにした時。
闇を切り裂く風の音が聞こえた。
次の瞬間。
柰雲を押さえつけていた男の一人が、悲鳴を上げて地面に倒れた。どよめきが起こったのは、倒れた男の首元に見事に矢が突き刺さっていて、口から泡を噴き出してのたうち回ったからだ。
なにが起きたのかわからなかった兵士たちは驚き、柰雲を抑えていた力が緩む。その間に、数人に当て身をお見舞いして兵士たちの間を素早く抜けきった。
「くそ、逃げたぞ!」
追えという掛け声は悲鳴に代わる。数本の矢が森の奥から放たれ、柰雲を追いかけようとした男たちが地面に倒れていた。柰雲はすぐさま稀葉の後を追った。
「待て、逃がすか――!」
追いかけてくる男たちが、暗い森から放たれる毒矢に次々と倒れていく。しばらく悲鳴が聞こえ続け、それが聞こえなくなるころには、柰雲は森の奥深くへ入っていた。
歩調を緩めず稀葉の足跡をたどり、柰雲は森を走った。全速力で走り続け、追っ手が来る気配の欠片もなくなると、やっと速度を落とす。月の光が少ない夜は暗く、慌てすぎて稀葉の足跡を見失ってしまうわけにはいかなかった。
夜目はきくが、慣れない森では危ないことも多い。追っ手の気配がないことを慎重に確認し、呼吸をすぐさま整えると早足に森を急いだ。
幸いにも、星明かりは森を歩くのにそれほど不便がない。もともと柰雲は森で生きてきた民だから、夜の森は怖くなかった。
途中で後ろを振り返る。ついて来ている毒稲の民の気配を感じ取ると、柰雲はほほ笑んだ。窮地を救ってくれたのは、ほかでもない毒稲の民の密偵だったのだ。
「さっきはありがとう。おかげで助かった」
感謝の言葉は、後ろから付いて来ている人物に届いたはずだ。しかし、返答もなければ、姿を見せる気配もない。反応がないことをわかっていて声をかけたので、それでよかった。
柰雲は細々とした星明かりだけを頼りに、森の中を歩いていく。
そんな柰雲の後を、毒稲の民の密偵はつかず離れずでついてきている。足音も気配もない、熟練した密偵だった。柰雲から距離を取りながらも、決して見失うことのない範囲で、彼は村からずっとついて来ている。
途中何度か振り返り、密偵以外の追っ手の気配を確認する。しかし、密偵によってあの場にいた追っ手の多くが命を落としたのだろう。誰一人として柰雲を追いかけてくる兵士はいなかった。
だいぶ手練れた剣の使い手たちだったのだが、一人、二人と昏倒させる。三人目と対峙していると、騒ぎに気がついてさらに十数人ほどの人間が集まってくる気配がした。
「多いな……」
予想していたよりもだいぶ大人数が追いかけてきたようだ。なるべくならば傷つけないようにしたい。しかし逃げ切るには、大刀を抜かなくてはならないだろう。
考えていた一瞬の隙に、三人目の男が大きく上から振りかぶってきた。それを受け流しているうちに馬に乗った数十人に囲まれてしまった。
すでに負傷していたカイのことを考えると、自分が怪我をするわけにはいかない。彼らが襲い掛かってきた瞬間、柰雲は隙間を縫って男たちの包囲を抜けようとする。
だが、「逃がすか!」という声とともに数人に取り囲まれてしまい、咄嗟に急所を攻撃して倒してしまった。仲間が一瞬で地面に倒れたのを見た兵士たちは、逆上して襲い掛かってくる。
さすがに多勢に無勢になってしまい、不意打ちをくらって片膝を地面についた。瞬間、恐ろしい勢いで男たちが襲い掛かってくる。
「くっ……」
一人二人ならまだしも、五人に押しつぶされればさすがに身動きが取れない。柰雲は目をつぶって深呼吸をする。稀葉と別れた今現在でも、自分が一人ではないことを知っていた。
これだけ周りを囲まれても、傷一つ負うことなく逃げ延びる確実な方法がある。一瞬迷った後に助けを求めることにした時。
闇を切り裂く風の音が聞こえた。
次の瞬間。
柰雲を押さえつけていた男の一人が、悲鳴を上げて地面に倒れた。どよめきが起こったのは、倒れた男の首元に見事に矢が突き刺さっていて、口から泡を噴き出してのたうち回ったからだ。
なにが起きたのかわからなかった兵士たちは驚き、柰雲を抑えていた力が緩む。その間に、数人に当て身をお見舞いして兵士たちの間を素早く抜けきった。
「くそ、逃げたぞ!」
追えという掛け声は悲鳴に代わる。数本の矢が森の奥から放たれ、柰雲を追いかけようとした男たちが地面に倒れていた。柰雲はすぐさま稀葉の後を追った。
「待て、逃がすか――!」
追いかけてくる男たちが、暗い森から放たれる毒矢に次々と倒れていく。しばらく悲鳴が聞こえ続け、それが聞こえなくなるころには、柰雲は森の奥深くへ入っていた。
歩調を緩めず稀葉の足跡をたどり、柰雲は森を走った。全速力で走り続け、追っ手が来る気配の欠片もなくなると、やっと速度を落とす。月の光が少ない夜は暗く、慌てすぎて稀葉の足跡を見失ってしまうわけにはいかなかった。
夜目はきくが、慣れない森では危ないことも多い。追っ手の気配がないことを慎重に確認し、呼吸をすぐさま整えると早足に森を急いだ。
幸いにも、星明かりは森を歩くのにそれほど不便がない。もともと柰雲は森で生きてきた民だから、夜の森は怖くなかった。
途中で後ろを振り返る。ついて来ている毒稲の民の気配を感じ取ると、柰雲はほほ笑んだ。窮地を救ってくれたのは、ほかでもない毒稲の民の密偵だったのだ。
「さっきはありがとう。おかげで助かった」
感謝の言葉は、後ろから付いて来ている人物に届いたはずだ。しかし、返答もなければ、姿を見せる気配もない。反応がないことをわかっていて声をかけたので、それでよかった。
柰雲は細々とした星明かりだけを頼りに、森の中を歩いていく。
そんな柰雲の後を、毒稲の民の密偵はつかず離れずでついてきている。足音も気配もない、熟練した密偵だった。柰雲から距離を取りながらも、決して見失うことのない範囲で、彼は村からずっとついて来ている。
途中何度か振り返り、密偵以外の追っ手の気配を確認する。しかし、密偵によってあの場にいた追っ手の多くが命を落としたのだろう。誰一人として柰雲を追いかけてくる兵士はいなかった。
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