18 / 43
第2章 光の都
第15話 真の魔力確認
しおりを挟む
「ニケ、大丈夫か? よく、あんなに食べたな」
シオンはニケのその小さい身体のどこに、あんなにたくさんの料理が入ったんだと思わざるを得なかった。
「昔っから、食べられるときは食べるようにしてたから、これくらいへっちゃら」
食べすぎたニケは若干具合悪そうに笑う。シオンはあきれた顔をしたが、ニケを部屋まで送り届けると、ちょっと用事があると言って、いったん部屋を後にした。
用意されたふかふかの布団にニケは仰向けに寝転ぶと、師匠ともこうして旅をしてたなとふと思い出した。
それはまだニケが四歳そこそこの年齢の時。
師匠と手を繋ぎながら、あちこちの町を巡っていた。ユタ師匠は、昔は腕の良い巡回薬師だったのだ。
旅先で身寄りのないニケを拾った後も旅を続け、ニケが七歳になるころに自分の薬所をかまえて定住した。
どれも、ニケにとっては宝物の思い出だ。とんでもなく寒い吹雪の中を二人で歩いたときのこと、凍ったばかりの池に足を滑らせて落ちたこと、食べ物が尽きて二人で草を食べながら歩いたこと。
「はは、懐かしいな。ユタ師匠……私、また旅に出て、修行しています。早く、師匠のような一人前の巡回薬師になりたいです」
目をつぶると、師匠の大きくて温かい手を思い出す。ニケは、しばらくそうやって、満腹なお腹とともに幸福感に包まれていた。
*
「夜分にすまない。頼みたいことがあって」
「あら、いいんですよ。気を遣わないいでください。頼みとは?」
ニケがそうしている頃、シオンは、ルシオラの部屋へと赴いていた。
「三重魔法陣布を持っていたら、譲ってほしい」
「……まあ、三重魔法陣布を? ありますけど、どうして、それを?」
ルシオラは驚いた顔をした。そのどうしてとは、どうしてそれを知っているのかというのと、どうしてそれが欲しいのかという二つの疑問がかけられていた。
「もともと持っていたものが壊れてしまった。あれがないと、旅をしている時に、たまに困ることもある」
「そうでしたか。確かに、旅をしていれば、色々なことが起こるでしょうしね。確か、こっちにあったのでお待ちくださいね」
ルシオラは呑気にそう言いながら、三重魔法陣布をシオンに手渡した。
シオンがそれをしっかりと確認する。ほとんど使われていない新品で、強度も一級品だった。
「助かる」
「いえいえ。旅の疲れ、癒していって下さいね」
シオンは礼を述べると、ルシオラの部屋を後にした。
部屋にシオンが戻ると、ニケはお腹いっぱいのまま布団の上で半分寝ていた。
シオンが入ってくると、ものすごく眠たそうに起き上がって、目をこすった。
「あ、お帰り。用事は済んだの?」
「ああ。それよりニケ。今から、魔力確認をするぞ」
それに、ニケは「え? 今から? 誰の?」と半ば抗議の声を上げた。ニケのだよとシオンが答えると、ニケはあからさまに嫌な顔をした。
「私、魔力ないって。今日もうさんざん分かったことじゃん」
頬を膨らませるニケに向かって、シオンはにやりと不敵な笑みを見せる。
「ニケには魔力があるが、説明するには道具が足りないと言ったのを覚えているか?」
「うん。確かにそう言ってた」
「これで揃った。もう一度魔力の確認をするぞ」
今しがた手に入れたばかりの、魔法陣布を広げると、薬箱から魔法石を取り出し、部屋にあるコップに水を汲んで持って来るようにニケに伝えた。
ニケは疑いながらコップを用意する。それを、魔法陣布《まほうじんふ》の上に置いたとき、その魔法陣が見たことがないものだと気が付いた。
「なに、これ。見たことないこんな魔法陣布」
それは何百回と魔力確認を試したニケでさえ、初めて見る文様だった。
いつもの魔法陣布《まほうじんふ》は、大きな円が描かれており、その周りに八つの魔力の性格を表す魔法文字が書かれている。
しかし、シオンが広げたこの布は、大きな円が三重に描かれていて、二重目の円の中には見慣れた魔法文字が、そして、真ん中とその外側には、見たことのない文字が書かれている。
「この魔法陣布は世の中に出回っていないからな。そして、ニケの魔力が今まで確認できなかったのは、これがなかったからだ」
始めるぞ、と言って、シオンはニケに笑ってみせた。
「いつもと全く同じでいいんだ」
シオンに言われるがまま、ニケは昼間と同じように、コップに手をかざした。しかし、何も反応がない。
「ほら、シオン。やっぱり私には――」
「黙って見ていろ」
ぴしゃりと言われて、ニケは引き続き手をかざす。すると、魔法文字が淡く光り始めた。
「え……」
ニケは驚いたが、そのまま光が増大していく。そして、魔力の性格を表す魔法文字の八つすべてから八色の色の光が立ち上り、見る見るうちに絡まり合いながら円を描いたかと思うと。
「え!? うわっ!」
コップの中の魔法石からあっという間に木が生えてきて、コップからあふれ出してずるずると伸びる。そこに強烈な光が差し込んで風が吹き、そしてその風が運んだ炎が木を燃やし尽くす。
すると、燃えかすから金属が生まれ、暗い靄がその上を覆い、その靄が晴れると金属が崩れ落ちて消え、中から土が顔を出す。
その土を水が洗い流して、コップは何事もなかったように元通りになった。
「な、な……何?」
声にならないニケが後ろに立っていたシオンを見上げると、「な。魔力があると言っただろう」と満足そうな顔をしてニケを覗き込んでいた。
シオンはニケのその小さい身体のどこに、あんなにたくさんの料理が入ったんだと思わざるを得なかった。
「昔っから、食べられるときは食べるようにしてたから、これくらいへっちゃら」
食べすぎたニケは若干具合悪そうに笑う。シオンはあきれた顔をしたが、ニケを部屋まで送り届けると、ちょっと用事があると言って、いったん部屋を後にした。
用意されたふかふかの布団にニケは仰向けに寝転ぶと、師匠ともこうして旅をしてたなとふと思い出した。
それはまだニケが四歳そこそこの年齢の時。
師匠と手を繋ぎながら、あちこちの町を巡っていた。ユタ師匠は、昔は腕の良い巡回薬師だったのだ。
旅先で身寄りのないニケを拾った後も旅を続け、ニケが七歳になるころに自分の薬所をかまえて定住した。
どれも、ニケにとっては宝物の思い出だ。とんでもなく寒い吹雪の中を二人で歩いたときのこと、凍ったばかりの池に足を滑らせて落ちたこと、食べ物が尽きて二人で草を食べながら歩いたこと。
「はは、懐かしいな。ユタ師匠……私、また旅に出て、修行しています。早く、師匠のような一人前の巡回薬師になりたいです」
目をつぶると、師匠の大きくて温かい手を思い出す。ニケは、しばらくそうやって、満腹なお腹とともに幸福感に包まれていた。
*
「夜分にすまない。頼みたいことがあって」
「あら、いいんですよ。気を遣わないいでください。頼みとは?」
ニケがそうしている頃、シオンは、ルシオラの部屋へと赴いていた。
「三重魔法陣布を持っていたら、譲ってほしい」
「……まあ、三重魔法陣布を? ありますけど、どうして、それを?」
ルシオラは驚いた顔をした。そのどうしてとは、どうしてそれを知っているのかというのと、どうしてそれが欲しいのかという二つの疑問がかけられていた。
「もともと持っていたものが壊れてしまった。あれがないと、旅をしている時に、たまに困ることもある」
「そうでしたか。確かに、旅をしていれば、色々なことが起こるでしょうしね。確か、こっちにあったのでお待ちくださいね」
ルシオラは呑気にそう言いながら、三重魔法陣布をシオンに手渡した。
シオンがそれをしっかりと確認する。ほとんど使われていない新品で、強度も一級品だった。
「助かる」
「いえいえ。旅の疲れ、癒していって下さいね」
シオンは礼を述べると、ルシオラの部屋を後にした。
部屋にシオンが戻ると、ニケはお腹いっぱいのまま布団の上で半分寝ていた。
シオンが入ってくると、ものすごく眠たそうに起き上がって、目をこすった。
「あ、お帰り。用事は済んだの?」
「ああ。それよりニケ。今から、魔力確認をするぞ」
それに、ニケは「え? 今から? 誰の?」と半ば抗議の声を上げた。ニケのだよとシオンが答えると、ニケはあからさまに嫌な顔をした。
「私、魔力ないって。今日もうさんざん分かったことじゃん」
頬を膨らませるニケに向かって、シオンはにやりと不敵な笑みを見せる。
「ニケには魔力があるが、説明するには道具が足りないと言ったのを覚えているか?」
「うん。確かにそう言ってた」
「これで揃った。もう一度魔力の確認をするぞ」
今しがた手に入れたばかりの、魔法陣布を広げると、薬箱から魔法石を取り出し、部屋にあるコップに水を汲んで持って来るようにニケに伝えた。
ニケは疑いながらコップを用意する。それを、魔法陣布《まほうじんふ》の上に置いたとき、その魔法陣が見たことがないものだと気が付いた。
「なに、これ。見たことないこんな魔法陣布」
それは何百回と魔力確認を試したニケでさえ、初めて見る文様だった。
いつもの魔法陣布《まほうじんふ》は、大きな円が描かれており、その周りに八つの魔力の性格を表す魔法文字が書かれている。
しかし、シオンが広げたこの布は、大きな円が三重に描かれていて、二重目の円の中には見慣れた魔法文字が、そして、真ん中とその外側には、見たことのない文字が書かれている。
「この魔法陣布は世の中に出回っていないからな。そして、ニケの魔力が今まで確認できなかったのは、これがなかったからだ」
始めるぞ、と言って、シオンはニケに笑ってみせた。
「いつもと全く同じでいいんだ」
シオンに言われるがまま、ニケは昼間と同じように、コップに手をかざした。しかし、何も反応がない。
「ほら、シオン。やっぱり私には――」
「黙って見ていろ」
ぴしゃりと言われて、ニケは引き続き手をかざす。すると、魔法文字が淡く光り始めた。
「え……」
ニケは驚いたが、そのまま光が増大していく。そして、魔力の性格を表す魔法文字の八つすべてから八色の色の光が立ち上り、見る見るうちに絡まり合いながら円を描いたかと思うと。
「え!? うわっ!」
コップの中の魔法石からあっという間に木が生えてきて、コップからあふれ出してずるずると伸びる。そこに強烈な光が差し込んで風が吹き、そしてその風が運んだ炎が木を燃やし尽くす。
すると、燃えかすから金属が生まれ、暗い靄がその上を覆い、その靄が晴れると金属が崩れ落ちて消え、中から土が顔を出す。
その土を水が洗い流して、コップは何事もなかったように元通りになった。
「な、な……何?」
声にならないニケが後ろに立っていたシオンを見上げると、「な。魔力があると言っただろう」と満足そうな顔をしてニケを覗き込んでいた。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説

王女、豹妃を狩る
遠野エン
ファンタジー
ベルハイム王国の王子マルセスは身分の差を超えて農家の娘ガルナと結婚を決意。王家からは驚きと反対の声が上がるが、マルセスはガルナの自由闊達な魅力に惹かれ押し切る。彼女は結婚式で大胆不敵な豹柄のドレスをまとい、周囲をあ然とさせる。
ガルナは王子の妻としての地位を得ると、侍女や家臣たちを手の平で転がすかのように振る舞い始める。王宮に新しい風を吹かせると豪語し、次第に無茶な要求をし出すようになる。
マルセスの妹・フュリア王女はガルナの存在に潜む危険を察知し、独自に調査を開始する。ガルナは常に豹柄の服を身にまとい人々の視線を引きつけ、畏怖の念を込めて“豹妃”というあだ名で囁かれるのだった。

書物革命
蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)
ファンタジー
『私は人間が、お前が嫌い。大嫌い。』
壺中の天(こちゅうのてん)こと人間界に居る志郎 豊(しろう ゆたか)は、路地で焼かれていた本を消火したおかげで、異性界へと来てしまった。
そしてその才を見込まれて焚書士(ふんしょし)として任命されてしまう。
"焚書"とは機密データや市民にとっては不利益な本を燃やし、焼却すること。
焼却と消火…漢字や意味は違えど豊はその役目を追う羽目になったのだ。
元の世界に戻るには焚書士の最大の敵、枢要の罪(すうようのざい)と呼ばれる書物と戦い、焼却しないといけない。
そして彼の相棒(パートナー)として豊に付いたのが、傷だらけの少女、反魂(はんごん)の書を司るリィナであった。
仲良くしようとする豊ではあるが彼女は言い放つ。
『私はお前が…人間が嫌い。だってお前も、私を焼くんだろ?焼いてもがく私を見て、笑うんだ。』
彼女の衝撃的な言葉に豊は言葉が出なかった。
たとえ人間の姿としても書物を"人間"として扱えば良いのか?
日々苦悶をしながらも豊は焚書士の道を行く。
完結【清】ご都合主義で生きてます。-空間を切り取り、思ったものを創り出す。これで異世界は楽勝です-
ジェルミ
ファンタジー
社畜の村野玲奈(むらの れな)は23歳で過労死をした。
第二の人生を女神代行に誘われ異世界に転移する。
スキルは剣豪、大魔導士を提案されるが、転移してみないと役に立つのか分からない。
迷っていると想像したことを実現できる『創生魔法』を提案される。
空間を切り取り収納できる『空間魔法』。
思ったものを創り出すことができ『創生魔法』。
少女は冒険者として覇道を歩むのか、それとも魔道具師としてひっそり生きるのか?
『創生魔法』で便利な物を創り富を得ていく少女の物語。
物語はまったり、のんびりと進みます。
※カクヨム様にも掲載中です。

【完結】転生したらもふもふだった。クマ獣人の王子は前世の婚約者を見つけだし今度こそ幸せになりたい。
金峯蓮華
ファンタジー
デーニッツ王国の王太子リオネルは魅了の魔法にかけられ、婚約者カナリアを断罪し処刑した。
デーニッツ王国はジンメル王国に攻め込まれ滅ぼされ、リオネルも亡くなってしまう。
天に上る前に神様と出会い、魅了が解けたリオネルは神様のお情けで転生することになった。
そして転生した先はクマ獣人の国、アウラー王国の王子。どこから見ても立派なもふもふの黒いクマだった。
リオネルはリオンハルトとして仲間達と魔獣退治をしながら婚約者のカナリアを探す。
しかし、仲間のツェツィーの姉、アマーリアがカナリアかもしれないと気になっている。
さて、カナリアは見つかるのか?
アマーリアはカナリアなのか?
緩い世界の緩いお話です。
独自の異世界の話です。
初めて次世代ファンタジーカップにエントリーします。
応援してもらえると嬉しいです。
よろしくお願いします。

田舎者の俺が貴族になるまで
satomi
ファンタジー
見た目は麗しの貴公子の公爵令息だが長期間田舎暮らしをしていたため、強い田舎訛りと悪い姿勢が板についてしまった。
このままでは王都で社交などとんでもない!公爵家の長男がこのままでは!
ということで、彼は努力をするのです。
わりと都合主義です。
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です
カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」
数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。
ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。
「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」
「あ、そういうのいいんで」
「えっ!?」
異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ――
――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。
【完結】魔王を殺された黒竜は勇者を許さない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
幼い竜は何もかも奪われた。勇者を名乗る人族に、ただ一人の肉親である父を殺される。慈しみ大切にしてくれた魔王も……すべてを奪われた黒竜は次の魔王となった。神の名づけにより力を得た彼は、魔族を従えて人間への復讐を始める。奪われた痛みを乗り越えるために。
だが、人族にも魔族を攻撃した理由があった。滅ぼされた村や町、殺された家族、奪われる数多の命。復讐は連鎖する。
互いの譲れない正義と復讐がぶつかり合う世界で、神は何を望み、幼竜に力と名を与えたのか。復讐を終えるとき、ガブリエルは何を思うだろうか。
ハッピーエンド
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/03/02……完結
2023/12/21……エブリスタ、トレンド#ファンタジー 1位
2023/12/20……アルファポリス、男性向けHOT 20位
2023/12/19……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる