薬師のニケと精霊の王

神原オホカミ【書籍発売中】

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第2章 光の都

第15話 真の魔力確認

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「ニケ、大丈夫か? よく、あんなに食べたな」

 シオンはニケのその小さい身体のどこに、あんなにたくさんの料理が入ったんだと思わざるを得なかった。

「昔っから、食べられるときは食べるようにしてたから、これくらいへっちゃら」

 食べすぎたニケは若干具合悪そうに笑う。シオンはあきれた顔をしたが、ニケを部屋まで送り届けると、ちょっと用事があると言って、いったん部屋を後にした。

 用意されたふかふかの布団にニケは仰向けに寝転ぶと、師匠ともこうして旅をしてたなとふと思い出した。

 それはまだニケが四歳そこそこの年齢の時。

 師匠と手を繋ぎながら、あちこちの町を巡っていた。ユタ師匠は、昔は腕の良い巡回薬師だったのだ。

 旅先で身寄りのないニケを拾った後も旅を続け、ニケが七歳になるころに自分の薬所をかまえて定住した。

 どれも、ニケにとっては宝物の思い出だ。とんでもなく寒い吹雪の中を二人で歩いたときのこと、凍ったばかりの池に足を滑らせて落ちたこと、食べ物が尽きて二人で草を食べながら歩いたこと。

「はは、懐かしいな。ユタ師匠……私、また旅に出て、修行しています。早く、師匠のような一人前の巡回薬師になりたいです」

 目をつぶると、師匠の大きくて温かい手を思い出す。ニケは、しばらくそうやって、満腹なお腹とともに幸福感に包まれていた。

 *

「夜分にすまない。頼みたいことがあって」

「あら、いいんですよ。気を遣わないいでください。頼みとは?」

 ニケがそうしている頃、シオンは、ルシオラの部屋へと赴いていた。

三重魔法陣布さんじゅうまほうじんふを持っていたら、譲ってほしい」

「……まあ、三重魔法陣布さんじゅうまほうじんふを? ありますけど、どうして、それを?」

 ルシオラは驚いた顔をした。そのどうしてとは、どうしてそれを知っているのかというのと、どうしてそれが欲しいのかという二つの疑問がかけられていた。

「もともと持っていたものが壊れてしまった。あれがないと、旅をしている時に、たまに困ることもある」

「そうでしたか。確かに、旅をしていれば、色々なことが起こるでしょうしね。確か、こっちにあったのでお待ちくださいね」

 ルシオラは呑気にそう言いながら、三重魔法陣布さんじゅうまほうじんふをシオンに手渡した。

 シオンがそれをしっかりと確認する。ほとんど使われていない新品で、強度も一級品だった。

「助かる」

「いえいえ。旅の疲れ、癒していって下さいね」

 シオンは礼を述べると、ルシオラの部屋を後にした。



 部屋にシオンが戻ると、ニケはお腹いっぱいのまま布団の上で半分寝ていた。
 シオンが入ってくると、ものすごく眠たそうに起き上がって、目をこすった。

「あ、お帰り。用事は済んだの?」

「ああ。それよりニケ。今から、魔力確認をするぞ」

 それに、ニケは「え? 今から? 誰の?」と半ば抗議の声を上げた。ニケのだよとシオンが答えると、ニケはあからさまに嫌な顔をした。

「私、魔力ないって。今日もうさんざん分かったことじゃん」

 頬を膨らませるニケに向かって、シオンはにやりと不敵な笑みを見せる。

「ニケには魔力があるが、説明するには道具が足りないと言ったのを覚えているか?」

「うん。確かにそう言ってた」

「これで揃った。もう一度魔力の確認をするぞ」

 今しがた手に入れたばかりの、魔法陣布まほうじんふを広げると、薬箱から魔法石を取り出し、部屋にあるコップに水を汲んで持って来るようにニケに伝えた。

 ニケは疑いながらコップを用意する。それを、魔法陣布《まほうじんふ》の上に置いたとき、その魔法陣が見たことがないものだと気が付いた。

「なに、これ。見たことないこんな魔法陣布まほうじんふ

 それは何百回と魔力確認を試したニケでさえ、初めて見る文様だった。

 いつもの魔法陣布《まほうじんふ》は、大きな円が描かれており、その周りに八つの魔力の性格を表す魔法文字が書かれている。

 しかし、シオンが広げたこの布は、大きな円が三重に描かれていて、二重目の円の中には見慣れた魔法文字が、そして、真ん中とその外側には、見たことのない文字が書かれている。

「この魔法陣布まほうじんふは世の中に出回っていないからな。そして、ニケの魔力が今まで確認できなかったのは、これがなかったからだ」

 始めるぞ、と言って、シオンはニケに笑ってみせた。



 「いつもと全く同じでいいんだ」

 シオンに言われるがまま、ニケは昼間と同じように、コップに手をかざした。しかし、何も反応がない。

「ほら、シオン。やっぱり私には――」

「黙って見ていろ」

 ぴしゃりと言われて、ニケは引き続き手をかざす。すると、魔法文字が淡く光り始めた。

「え……」

 ニケは驚いたが、そのまま光が増大していく。そして、魔力の性格を表す魔法文字の八つすべてから八色の色の光が立ち上り、見る見るうちに絡まり合いながら円を描いたかと思うと。

「え!? うわっ!」

 コップの中の魔法石からあっという間に木が生えてきて、コップからあふれ出してずるずると伸びる。そこに強烈な光が差し込んで風が吹き、そしてその風が運んだ炎が木を燃やし尽くす。

 すると、燃えかすから金属が生まれ、暗い靄がその上を覆い、その靄が晴れると金属が崩れ落ちて消え、中から土が顔を出す。

 その土を水が洗い流して、コップは何事もなかったように元通りになった。

「な、な……何?」

 声にならないニケが後ろに立っていたシオンを見上げると、「な。魔力があると言っただろう」と満足そうな顔をしてニケを覗き込んでいた。
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