僕は君だけの神様

神原オホカミ

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第三章

第45話

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 義肢装具士という、まだまだこれから発展していく分野に、その身を投じることができる不安と期待とを混じらせながら、美空は着実に前へと進んでいた。

「先輩、私頑張ります」

 美空の部屋の本棚には、夕と初めて一緒に行った海で拾った貝殻を詰めた小瓶が飾られている。隣には、お揃いでUFOキャッチャーでとったぬいぐるみも飾ってある。

 その奥に隠してある魔法のノートを、辛い時には何度も読み返した。夕の日記も、もう何千回読み返したか分からない。酸化しないように、箱に入れて、大事にとっておいてある。

 夕がきっと、天国から見守ってくれている。そう思うと、美空は力が湧いてくる。大きな心の傷で悲しみだったあの別れは、いまだに胸を焦がすように痛めつける時がある。けれども、それ以上に前へと進む底力になっている。

 美空が今生きているのは、夕が生かしてくれたからだ。美空は、夕の人生の分までしっかりと生きようと思っている。生きたくても生きられなかった、あの先輩のためにも、自分のためにも、そして、自分の命があることで繋がる多くの縁と人のためにも、美空は生きて行こうと決意していた。

 あの心優しい神様がくれた人生を、美空は毎日噛みしめている。そして、幸せを願ってくれた夕のためにも、自分自身を幸せにしてあげなくてはと思うのだった。

 美空は、大学生になった今でも、ずっと続けている習慣がある。それは、夢を叶える魔法のノートの習慣だった。

 あの時と同じ、B5サイズのノートに書いたお願いは、何でも叶う。そう信じている。例え神様がいなくなってしまったとしても、夕と一緒じゃなきゃ叶えられないお願い以外は、ノートはたくさん叶えてくれた。

 小さな目標を書いて、コツコツと取り組む。決して大きな非現実的なものではない。例えば、明日の試験では平均点以上を取る、というようなお願いを書く。そして、それが叶うように自分でも精一杯努力をする。

 すると、不思議とそれらは叶って行った。まるで、魔法のように、次々と叶えられていくのだ。美空は、ずっと、毎日のようにノートにたくさんの出来事を書く。

 叶えられていったお願いが増えていくたび、ノートが増えていくたびに、美空は自分に自信が湧いてくる。

 しかし、叶うまでに時間がかかるものも多くあった。何度も諦めかけたものもあった。それでも、そのお願いを叶えるために努力をし続けていれば、結果として、読み返すといつの間にか叶っているという不思議が起きていた。

「きっと、先輩が見守ってくれているんだ」

 魔法のノートはもう数十冊になっていた。あまりにもお願いが叶わない時には、夕と一緒に叶えたノートを読み返して、初心にかえる。夕の日記を読みながら、あの時の驚くほどに輝いて、はちきれんばかりの勇気に満ち溢れていた日々を思い出す。

 そうすると、また不思議と気持ちがリセットできて、頑張ろうと思える。何が悪くてお願いが叶わないのかを分析して、改善していく。

 夕が残してくれたものは、美空の原動力となる。

 未だ叶わない〈先輩と会いたい〉というお願い以外は、順調に美空はやりたいことを多く叶えた。満足のいく人生だと思えていたし、何不自由なく生活できていた。高校生の時に、あんなに絶望していたのが嘘のように、美空の周りは明るかった。

 そしてもう一つ、魔法のノート以外に、美空には大事な習慣があった。

 夕のアドレス宛に、週に一回、一通だけメッセージを送るのだ。決して読まれることがないそれは、ただの美空の自己満足なのだが、夕に報告すると不思議と気持ちがすっきりしてうまくいく気がしていた。

 まるで、夕がいた時のように、美空は一週間の出来事を報告する。文字でノートに書くよりも、メッセージを打ち込んだ方が、夕とやりとりをしているような気持ちだった。

 読まれることはないと分かっていても、美空はそれをずっと続けている。夕の日記を手に入れて一週間後から始めて、ついに百四十通を超えた。

 メッセージに既読がつかないまま、三年半以上の月日がいつの間にか流れていて、その間に美空はだいぶ大人になっていた。

 着々と勉強をして大学を進み、学ぶことの多さにひいひいしながらも、必死に授業に食らいついた。たくさんの友達ができて、たくさん楽しいことを経験した。その一つ一つを、天国にいる夕に報告するのだ。

 いつも見守ってくれている人がいるからこそ、心から信頼できる人がいるからこそ、人は強くなれる。頑張れる。美空にとってそれは夕だった。

 その日も、国家試験を再来月に控えた美空が、それについて思うことを夕にメッセージとして打ち込んでいた。

 ――――その時。

「え……?」

 突然、メッセージに既読がついた。
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