47 / 51
第三章
第45話
しおりを挟む
義肢装具士という、まだまだこれから発展していく分野に、その身を投じることができる不安と期待とを混じらせながら、美空は着実に前へと進んでいた。
「先輩、私頑張ります」
美空の部屋の本棚には、夕と初めて一緒に行った海で拾った貝殻を詰めた小瓶が飾られている。隣には、お揃いでUFOキャッチャーでとったぬいぐるみも飾ってある。
その奥に隠してある魔法のノートを、辛い時には何度も読み返した。夕の日記も、もう何千回読み返したか分からない。酸化しないように、箱に入れて、大事にとっておいてある。
夕がきっと、天国から見守ってくれている。そう思うと、美空は力が湧いてくる。大きな心の傷で悲しみだったあの別れは、いまだに胸を焦がすように痛めつける時がある。けれども、それ以上に前へと進む底力になっている。
美空が今生きているのは、夕が生かしてくれたからだ。美空は、夕の人生の分までしっかりと生きようと思っている。生きたくても生きられなかった、あの先輩のためにも、自分のためにも、そして、自分の命があることで繋がる多くの縁と人のためにも、美空は生きて行こうと決意していた。
あの心優しい神様がくれた人生を、美空は毎日噛みしめている。そして、幸せを願ってくれた夕のためにも、自分自身を幸せにしてあげなくてはと思うのだった。
美空は、大学生になった今でも、ずっと続けている習慣がある。それは、夢を叶える魔法のノートの習慣だった。
あの時と同じ、B5サイズのノートに書いたお願いは、何でも叶う。そう信じている。例え神様がいなくなってしまったとしても、夕と一緒じゃなきゃ叶えられないお願い以外は、ノートはたくさん叶えてくれた。
小さな目標を書いて、コツコツと取り組む。決して大きな非現実的なものではない。例えば、明日の試験では平均点以上を取る、というようなお願いを書く。そして、それが叶うように自分でも精一杯努力をする。
すると、不思議とそれらは叶って行った。まるで、魔法のように、次々と叶えられていくのだ。美空は、ずっと、毎日のようにノートにたくさんの出来事を書く。
叶えられていったお願いが増えていくたび、ノートが増えていくたびに、美空は自分に自信が湧いてくる。
しかし、叶うまでに時間がかかるものも多くあった。何度も諦めかけたものもあった。それでも、そのお願いを叶えるために努力をし続けていれば、結果として、読み返すといつの間にか叶っているという不思議が起きていた。
「きっと、先輩が見守ってくれているんだ」
魔法のノートはもう数十冊になっていた。あまりにもお願いが叶わない時には、夕と一緒に叶えたノートを読み返して、初心にかえる。夕の日記を読みながら、あの時の驚くほどに輝いて、はちきれんばかりの勇気に満ち溢れていた日々を思い出す。
そうすると、また不思議と気持ちがリセットできて、頑張ろうと思える。何が悪くてお願いが叶わないのかを分析して、改善していく。
夕が残してくれたものは、美空の原動力となる。
未だ叶わない〈先輩と会いたい〉というお願い以外は、順調に美空はやりたいことを多く叶えた。満足のいく人生だと思えていたし、何不自由なく生活できていた。高校生の時に、あんなに絶望していたのが嘘のように、美空の周りは明るかった。
そしてもう一つ、魔法のノート以外に、美空には大事な習慣があった。
夕のアドレス宛に、週に一回、一通だけメッセージを送るのだ。決して読まれることがないそれは、ただの美空の自己満足なのだが、夕に報告すると不思議と気持ちがすっきりしてうまくいく気がしていた。
まるで、夕がいた時のように、美空は一週間の出来事を報告する。文字でノートに書くよりも、メッセージを打ち込んだ方が、夕とやりとりをしているような気持ちだった。
読まれることはないと分かっていても、美空はそれをずっと続けている。夕の日記を手に入れて一週間後から始めて、ついに百四十通を超えた。
メッセージに既読がつかないまま、三年半以上の月日がいつの間にか流れていて、その間に美空はだいぶ大人になっていた。
着々と勉強をして大学を進み、学ぶことの多さにひいひいしながらも、必死に授業に食らいついた。たくさんの友達ができて、たくさん楽しいことを経験した。その一つ一つを、天国にいる夕に報告するのだ。
いつも見守ってくれている人がいるからこそ、心から信頼できる人がいるからこそ、人は強くなれる。頑張れる。美空にとってそれは夕だった。
その日も、国家試験を再来月に控えた美空が、それについて思うことを夕にメッセージとして打ち込んでいた。
――――その時。
「え……?」
突然、メッセージに既読がついた。
「先輩、私頑張ります」
美空の部屋の本棚には、夕と初めて一緒に行った海で拾った貝殻を詰めた小瓶が飾られている。隣には、お揃いでUFOキャッチャーでとったぬいぐるみも飾ってある。
その奥に隠してある魔法のノートを、辛い時には何度も読み返した。夕の日記も、もう何千回読み返したか分からない。酸化しないように、箱に入れて、大事にとっておいてある。
夕がきっと、天国から見守ってくれている。そう思うと、美空は力が湧いてくる。大きな心の傷で悲しみだったあの別れは、いまだに胸を焦がすように痛めつける時がある。けれども、それ以上に前へと進む底力になっている。
美空が今生きているのは、夕が生かしてくれたからだ。美空は、夕の人生の分までしっかりと生きようと思っている。生きたくても生きられなかった、あの先輩のためにも、自分のためにも、そして、自分の命があることで繋がる多くの縁と人のためにも、美空は生きて行こうと決意していた。
あの心優しい神様がくれた人生を、美空は毎日噛みしめている。そして、幸せを願ってくれた夕のためにも、自分自身を幸せにしてあげなくてはと思うのだった。
美空は、大学生になった今でも、ずっと続けている習慣がある。それは、夢を叶える魔法のノートの習慣だった。
あの時と同じ、B5サイズのノートに書いたお願いは、何でも叶う。そう信じている。例え神様がいなくなってしまったとしても、夕と一緒じゃなきゃ叶えられないお願い以外は、ノートはたくさん叶えてくれた。
小さな目標を書いて、コツコツと取り組む。決して大きな非現実的なものではない。例えば、明日の試験では平均点以上を取る、というようなお願いを書く。そして、それが叶うように自分でも精一杯努力をする。
すると、不思議とそれらは叶って行った。まるで、魔法のように、次々と叶えられていくのだ。美空は、ずっと、毎日のようにノートにたくさんの出来事を書く。
叶えられていったお願いが増えていくたび、ノートが増えていくたびに、美空は自分に自信が湧いてくる。
しかし、叶うまでに時間がかかるものも多くあった。何度も諦めかけたものもあった。それでも、そのお願いを叶えるために努力をし続けていれば、結果として、読み返すといつの間にか叶っているという不思議が起きていた。
「きっと、先輩が見守ってくれているんだ」
魔法のノートはもう数十冊になっていた。あまりにもお願いが叶わない時には、夕と一緒に叶えたノートを読み返して、初心にかえる。夕の日記を読みながら、あの時の驚くほどに輝いて、はちきれんばかりの勇気に満ち溢れていた日々を思い出す。
そうすると、また不思議と気持ちがリセットできて、頑張ろうと思える。何が悪くてお願いが叶わないのかを分析して、改善していく。
夕が残してくれたものは、美空の原動力となる。
未だ叶わない〈先輩と会いたい〉というお願い以外は、順調に美空はやりたいことを多く叶えた。満足のいく人生だと思えていたし、何不自由なく生活できていた。高校生の時に、あんなに絶望していたのが嘘のように、美空の周りは明るかった。
そしてもう一つ、魔法のノート以外に、美空には大事な習慣があった。
夕のアドレス宛に、週に一回、一通だけメッセージを送るのだ。決して読まれることがないそれは、ただの美空の自己満足なのだが、夕に報告すると不思議と気持ちがすっきりしてうまくいく気がしていた。
まるで、夕がいた時のように、美空は一週間の出来事を報告する。文字でノートに書くよりも、メッセージを打ち込んだ方が、夕とやりとりをしているような気持ちだった。
読まれることはないと分かっていても、美空はそれをずっと続けている。夕の日記を手に入れて一週間後から始めて、ついに百四十通を超えた。
メッセージに既読がつかないまま、三年半以上の月日がいつの間にか流れていて、その間に美空はだいぶ大人になっていた。
着々と勉強をして大学を進み、学ぶことの多さにひいひいしながらも、必死に授業に食らいついた。たくさんの友達ができて、たくさん楽しいことを経験した。その一つ一つを、天国にいる夕に報告するのだ。
いつも見守ってくれている人がいるからこそ、心から信頼できる人がいるからこそ、人は強くなれる。頑張れる。美空にとってそれは夕だった。
その日も、国家試験を再来月に控えた美空が、それについて思うことを夕にメッセージとして打ち込んでいた。
――――その時。
「え……?」
突然、メッセージに既読がついた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる