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第二章
第29話
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美空がプレゼントを渡したい人は四人いる。放課後、文化祭の準備が早く片付いた日に、夕にショッピングにつき合ってもらいたいと伝えると、もちろんだよと快く引き受けてくれた。
夕も文化祭では生徒会としての役割があるようで、最近の放課後は忙しそうにしていた。ちょっとの時間だけでも会えるようにと、帰りはなるべく一緒に帰り、夜に電話ができる時はしていたのだが、こうして放課後にゆっくり二人で過ごすのは久しぶりだった。
美海は夕の伸ばされた手に掴まって、そしてショッピングモールを歩く感覚にドキドキする。何度デートを重ねても、やっぱり夕はいつも格好良くて、この人とつきあっているなんて不思議だなと思わずにはいられない。
しかも、その正体は神様で、美空の願いをこれまでもたくさん叶えてくれる。こうしている今でさえ、その姿は朧気で儚く、背中に白い羽があって今すぐに飛んで行ってしまいそうに思える。
夕と一緒に時間を過ごせる、嬉しさと恥ずかしさが入り混じりながら、美空は目的の雑貨屋へと足を運んだ。
「家族にプレゼントを、渡したいんです」
大事な人にプレゼントを渡すというお願いの詳細を、雑貨屋に入ってから夕に伝えた。
「ご両親と、妹さん?」
はい、と美空は答えた。そして、大きく深呼吸をして、苦い気持ちを押し戻す。プレゼントを両親に渡すことは、美空にとって一大決心のいることだった。
「うちの家族、子どもが親にプレゼントを渡さないんです」
「どうして?」
夕はほんの少し不思議そうな顔をした。
「一度、誕生日に渡したんですが、お父さんすごく怒って。お小遣いをそんなことに使うなって言われてしまって。ドライなんだか何なんだか。でも、このお金はお小遣いじゃなくて、私が稼いだものです。だから、渡してもいいかなって」
美空は鞄の中から、封筒に入ったままの給料を取り出して小さく振る。お札が二枚と、小銭がじゃらじゃらと音を立てる。それは美空にとっては重たい音だった。
「死んじゃう前に、大事な人にプレゼントを渡せたらいいなって思ったんです。私のこと忘れないでいてほしいし、プレゼントを見て、思い出してもらって、幸せな気持ちになってもらえたら嬉しい。もうすぐ、二人の結婚記念日だから」
夕は美空の頭をポンポンと撫でた。気がつくと、美空は泣きそうになっていて、目の端が潤んでいた。
「きっと、喜んでくれるよ。何を渡すの? 一緒に選ぼう」
セットのマグカップを渡したいと美空が伝え、夕と一緒に雑貨屋の中をぐるぐるとめぐる。良いものが見当たらなくて、三件目に、シンプルだけれども、温かい色合いのものを見つけて即決した。可愛い顔が書いてあり、腕に見立てた取っ手が、並べるとくっつくようになっている。
両親は喜ばないデザインかもしれないけれど、やっぱりいつまでも二人には仲良くいてもらいたい。そんな気持ちを込めて、ラッピングをしてもらった。
「あと、美海と私の頭文字のマグも買ってもいいですか?」
「もちろん」
そこまで購入して、そしてからもう一軒付き合ってほしいと伝えると、夕はうん、とうなずいた。
目的の手芸店を見つけて美空が駆け寄って中に入り、そして刺繍糸を探した。その種類の多さに戸惑うも、好みの色を見つめながら、いくつかを手に取る。
「そういえば、先輩って好きな色あありますか?」
「僕は水色が好きかな。美空くんの名前と同じ、空の色」
とんでもないことを言う人だな、と美空は耳まで真っ赤になりながら、顔を見られないように「水色ですね」とつぶやきながら糸を見つめた。今、顔を見られてしまったら恥ずかしくて地中に潜りたくなる。夕の言葉はいつも真っすぐで、それにいちいち美空はくすぐったい。
美空の好きな色はオレンジだ。夕の名前と同じ、夕焼けを連想させる儚いオレンジ色。その二つの色を購入して、二人はショッピングセンターを後にした。
夕も文化祭では生徒会としての役割があるようで、最近の放課後は忙しそうにしていた。ちょっとの時間だけでも会えるようにと、帰りはなるべく一緒に帰り、夜に電話ができる時はしていたのだが、こうして放課後にゆっくり二人で過ごすのは久しぶりだった。
美海は夕の伸ばされた手に掴まって、そしてショッピングモールを歩く感覚にドキドキする。何度デートを重ねても、やっぱり夕はいつも格好良くて、この人とつきあっているなんて不思議だなと思わずにはいられない。
しかも、その正体は神様で、美空の願いをこれまでもたくさん叶えてくれる。こうしている今でさえ、その姿は朧気で儚く、背中に白い羽があって今すぐに飛んで行ってしまいそうに思える。
夕と一緒に時間を過ごせる、嬉しさと恥ずかしさが入り混じりながら、美空は目的の雑貨屋へと足を運んだ。
「家族にプレゼントを、渡したいんです」
大事な人にプレゼントを渡すというお願いの詳細を、雑貨屋に入ってから夕に伝えた。
「ご両親と、妹さん?」
はい、と美空は答えた。そして、大きく深呼吸をして、苦い気持ちを押し戻す。プレゼントを両親に渡すことは、美空にとって一大決心のいることだった。
「うちの家族、子どもが親にプレゼントを渡さないんです」
「どうして?」
夕はほんの少し不思議そうな顔をした。
「一度、誕生日に渡したんですが、お父さんすごく怒って。お小遣いをそんなことに使うなって言われてしまって。ドライなんだか何なんだか。でも、このお金はお小遣いじゃなくて、私が稼いだものです。だから、渡してもいいかなって」
美空は鞄の中から、封筒に入ったままの給料を取り出して小さく振る。お札が二枚と、小銭がじゃらじゃらと音を立てる。それは美空にとっては重たい音だった。
「死んじゃう前に、大事な人にプレゼントを渡せたらいいなって思ったんです。私のこと忘れないでいてほしいし、プレゼントを見て、思い出してもらって、幸せな気持ちになってもらえたら嬉しい。もうすぐ、二人の結婚記念日だから」
夕は美空の頭をポンポンと撫でた。気がつくと、美空は泣きそうになっていて、目の端が潤んでいた。
「きっと、喜んでくれるよ。何を渡すの? 一緒に選ぼう」
セットのマグカップを渡したいと美空が伝え、夕と一緒に雑貨屋の中をぐるぐるとめぐる。良いものが見当たらなくて、三件目に、シンプルだけれども、温かい色合いのものを見つけて即決した。可愛い顔が書いてあり、腕に見立てた取っ手が、並べるとくっつくようになっている。
両親は喜ばないデザインかもしれないけれど、やっぱりいつまでも二人には仲良くいてもらいたい。そんな気持ちを込めて、ラッピングをしてもらった。
「あと、美海と私の頭文字のマグも買ってもいいですか?」
「もちろん」
そこまで購入して、そしてからもう一軒付き合ってほしいと伝えると、夕はうん、とうなずいた。
目的の手芸店を見つけて美空が駆け寄って中に入り、そして刺繍糸を探した。その種類の多さに戸惑うも、好みの色を見つめながら、いくつかを手に取る。
「そういえば、先輩って好きな色あありますか?」
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とんでもないことを言う人だな、と美空は耳まで真っ赤になりながら、顔を見られないように「水色ですね」とつぶやきながら糸を見つめた。今、顔を見られてしまったら恥ずかしくて地中に潜りたくなる。夕の言葉はいつも真っすぐで、それにいちいち美空はくすぐったい。
美空の好きな色はオレンジだ。夕の名前と同じ、夕焼けを連想させる儚いオレンジ色。その二つの色を購入して、二人はショッピングセンターを後にした。
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