僕は君だけの神様

神原オホカミ

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第二章

第22話

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 夕と正式に恋人としてつきあうことになって、美空は気持ちが晴れやかになったのを感じた。恋人になったからといって、それまでと何かがものすごく大きく変わるということは無かったが、毎日がドキドキして、新鮮な気持ちだった。憂鬱な朝など、美空にはこの先、永遠に訪れないのではないかと思われるほどだった。

 二人でただただ、放課後や朝に屋上で話をして、寝る前にお休みのメールをやり取りする。お願いごとを考え、話し合う。たったそれだけのことなのに、夕に対する気持ちはどんどんと膨れ上がり、そして毎日が充実していると感じられた。

 この気持ちが恋なのかと思うと、美空は日に日に夕のことが好きになっていく。溢れるような愛しさを感じる。毎日がほんの些細なことでも、楽しく思えた。

 せっかく恋人になったのだから、恋人らしいことや恋人同士でしか叶えられないお願いも、増やしていくことになった。それは、美空にとってドキドキの連続だった。

 〈手を繋いで帰る〉というお願いを書き込んで見せた時には、夕もとても照れた顔をして、そしてびっくりするくらいに緊張しながら手を繋いで下校した。緊張で冷たくなった自分の手よりも、夕の手の方が震えていた。

 全校生徒の前では見せない、夕の緊張した横顔を見ると、美空まで緊張した。二人ではにかみながら、別れるその瞬間まで、手は繋いだままだった。

 〈放課後にコーヒーショップでデートしたい〉というお願いは、美空の中で忘れられない思い出となった。二人で教科書を見ながら、宿題をして分からないところを教えてもらうというだけなのに、時間がこんなにも早く過ぎることを美空は惜しんだ。放課後にお出かけするのが、こんなに楽しいとは知らなかった。

 夕は、知らないことを教えてくれる。美空に、新しい楽しさを与えてくれる。二人で過ごす時間は、かけがえのないものに思えた。

 〈休日にデートをしてみたい〉が叶った時には、前日からわくわくして眠れず、美海には二日前から服や髪形やメイクのことを相談した。当日駅で待ち合わせをして、水族館へと出かけた。普段見ることのできない夕の姿を見ることができて、美空はこの時が永遠に続けばいいのにと思わずにはいられなかった。

 手を繋いでイルカショーを見て、近くの海で落ちて行く夕日を眺めた。きれいで、何も言葉が出せなかった。ただただ、つないだ手の温もりだけが、現実だった。

 その帰りに道に、〈恋人つなぎをしてみたい〉というお願いを叶えてもらった時には、顔が発火するほどに真っ赤になった。しかし、ちらりと盗み見た夕の顔も、美空に負けないくらいに赤くなっているのを見た。お互いに顔を見合わせて、照れて恥ずかしくなり、二人で同じ時を刻んでいる感覚に、生きている実感が湧いた。

 重ね合わせた夕の指は、しっとりと柔らかく、そしていつものようにひんやりと冷たくて心地良かった。

 夕は美空のお願いを何でも叶えてくれた。夕に無理強いをさせてしまっているのではないかと一瞬不安になることもあったのだが、そんなことないと夕はいつも真剣に否定した。

 二人でいる時間が増えれば増えるほど、夕に対する気持ちが深まり広がっていく。ずっとこうして、一緒にいられたらと思う。しかし、美空の命の期限は、こうしている間にも迫ってきているのだ。

 だから、一瞬たりとも、無駄になんてしたくなかった。

 毎日が目まぐるしく変化し、クラスメイト達とも以前より打ち解けることができていた。夕とつきあっていることに関しては、女子たちの恋の話のチェックに抜かりはない。いつの間にかまゆまで美空と夕の恋愛話を聞いてくるようになっていた。そんなまゆには、大学生の彼氏がいるという。女子たちとおしゃべりは楽しくて、美空は一気に暮らすが、生活が生きることが楽しくなった。

 もう、美空の事を空気のようだと思う人は、クラスにはいない。誰もが、坂木美空という人間を認識していた。

 死のうと思っていたあの日々が嘘か幻かのように、美空の日々に色が咲き戻って行った。

 そんな時、お小遣いが気になりだした。今まで貯めていた貯金は、それほど元が多くはない。しかし、放課後に出かけるようになってから、出費はかさんだ。夕に出してもらうことの方が多かったが、それでも不安になった。

「死ぬときには、天国にお金を持って行けない……」

 思い切って、使い切ってしまうという手も考えた。しかし、葬儀代や美海のお小遣いの足しになればいいと思うように日に日になっていき、美空は人生初の挑戦として、アルバイトをしてみたいと思うようになった。

「死んじゃうなら……感謝の気持ちを伝えたい」

 そう思い立って、すぐにノートに〈アルバイトをする〉と書きこんで、夕へと連絡をした。一緒にバイトの情報を探してみようという返事が来て、それだけで心強くなる。

(何か、両親にもプレゼントしたいな)

 何をプレゼントするかは後で決めようと思いつつも、だいたいの目星をつけて、その合計金額を計算した。二万円あればたっぷりお釣りがくることが分かって、それに向かって頑張ろうと美空は意気込んだ。
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