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マイ・スウィート、プリンドリーム
第68話
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『お久しぶりです、飛鳥さん! それに神仏に見放されたお嬢さん!』
言い方があまりにもストレートすぎるぞと思ったのだが、酷い言われようの通り名がついた水瀬には、天狗の姿も見えていない。俺は水瀬を肘で小突いて、天狗が来たことを報せるだけにとどめた。
『大仏さんからプリン取ってくるように言われましてね。どうやら、めちゃくちゃ忙しいみたいでして』
「そうみたいだね。よろしく言っておいてくれる?」
『もちろんです』
ずいぶん顔色の良くなった天狗は、にこにことしているとまるで普通の心優しい青年のように見えた。その後の恋愛事情を尋ねてみると、すっかり吹っ切れたようで、今は山の奥に籠って修行を続けているということだ。水瀬に宛てられた、おみくじの恋愛〈諦めるべし〉の効果は絶大であった。
プリンをこっそりと渡すと、『確かに受け取りました』と言って天狗は去って行く。俺はその姿を見送りながら、そして今来た道をほんの少しだけ水瀬と戻って、池のほとりにある椅子に腰かけた。
水瀬用のプリンを彼女に渡すと、なんとも言えない表情でプリンを見つめ、そして一口頬張ってから美味しいと呟いた。
「早く食べろよ。味わって食べたい気持ちはやまやまだけど、鹿が来るからな」
そう脅かすと、水瀬は慌ててプリンをもう一口くちに入れる。俺は鹿が来ないかどうかを確認しながら、なんとものんびりな風景に深呼吸をした。
そういえば、届けたら良いことを贈呈すると言っていたのは何だったのだろうと思っていると、プリンを食べ終わった水瀬が突如声にならない声を上げた。
「飛鳥、飛鳥ってば!」
思い切り腕を掴まれて大きく揺すられる。
「何だよ、騒がしいな」
「見て、あれ!」
言われて指さす方向を見て、俺は目を細めた。大仏池にぷかぷかと浮きながらすいすい背泳ぎしているのは、あのくされ河童だった。あまりにもいつもの光景過ぎてだから河童がなんだよと言いかけて、俺はやっと気がついた。
「水瀬、まさか……!」
「なんか、水面に、何かうっすらと見える!」
俺はぎょっとして目を見開いたままの水瀬と河童を交互に見比べた。そのうちに俺の存在に気がついた河童が、今度は平泳ぎでこちらに向かってやって来ると、水瀬は感動のあまり、全身を雷に打たれたかのように震わせた。
「飛鳥、鯉もいないのに、水面がさわさわ揺らいでいるのが見えるわ! 河童ちゃんなのね!」
「河童だけど、本当に見えているのか?」
「うーん、たぶん本体は見えていないけれど、水面に映っている何かがぼんやりと……」
俺は咄嗟に大仏殿の方を見た。まさか、良いものを贈呈とは、俺にではなく水瀬にだったのかと思っていると、頭の中に「その通りだよーん」という間の抜けた返答が返ってきた。
俺にじゃないのかと少々がっかりしつつも、興奮してはしゃぎまくって、顔を真っ赤に上気させて涙目になっている水瀬を見るのは中々ない。なので、良いものを贈呈してもらったと、思わざるを得ないのであった。
その後、河童に絡まれ盛大に迷惑をしたのだが、その姿はやっぱり水瀬に見ることはできなかった。水や鏡に映る、ぼんやりとした姿だけを、ほんの少しだけ捉えることができたのだが、一日でその魔法は解けてしまった。
けれども水瀬は満足そうで、本当に嬉しそうに日記を書いてはしゃぎ疲れて俺のベッドで寝てしまった。水瀬の長年の夢を叶えてあげた大仏様には、今度は水まんじゅうでも持って行こうと、俺は微笑みながらタオルをそっと寝てしまった水瀬にかけた。
言い方があまりにもストレートすぎるぞと思ったのだが、酷い言われようの通り名がついた水瀬には、天狗の姿も見えていない。俺は水瀬を肘で小突いて、天狗が来たことを報せるだけにとどめた。
『大仏さんからプリン取ってくるように言われましてね。どうやら、めちゃくちゃ忙しいみたいでして』
「そうみたいだね。よろしく言っておいてくれる?」
『もちろんです』
ずいぶん顔色の良くなった天狗は、にこにことしているとまるで普通の心優しい青年のように見えた。その後の恋愛事情を尋ねてみると、すっかり吹っ切れたようで、今は山の奥に籠って修行を続けているということだ。水瀬に宛てられた、おみくじの恋愛〈諦めるべし〉の効果は絶大であった。
プリンをこっそりと渡すと、『確かに受け取りました』と言って天狗は去って行く。俺はその姿を見送りながら、そして今来た道をほんの少しだけ水瀬と戻って、池のほとりにある椅子に腰かけた。
水瀬用のプリンを彼女に渡すと、なんとも言えない表情でプリンを見つめ、そして一口頬張ってから美味しいと呟いた。
「早く食べろよ。味わって食べたい気持ちはやまやまだけど、鹿が来るからな」
そう脅かすと、水瀬は慌ててプリンをもう一口くちに入れる。俺は鹿が来ないかどうかを確認しながら、なんとものんびりな風景に深呼吸をした。
そういえば、届けたら良いことを贈呈すると言っていたのは何だったのだろうと思っていると、プリンを食べ終わった水瀬が突如声にならない声を上げた。
「飛鳥、飛鳥ってば!」
思い切り腕を掴まれて大きく揺すられる。
「何だよ、騒がしいな」
「見て、あれ!」
言われて指さす方向を見て、俺は目を細めた。大仏池にぷかぷかと浮きながらすいすい背泳ぎしているのは、あのくされ河童だった。あまりにもいつもの光景過ぎてだから河童がなんだよと言いかけて、俺はやっと気がついた。
「水瀬、まさか……!」
「なんか、水面に、何かうっすらと見える!」
俺はぎょっとして目を見開いたままの水瀬と河童を交互に見比べた。そのうちに俺の存在に気がついた河童が、今度は平泳ぎでこちらに向かってやって来ると、水瀬は感動のあまり、全身を雷に打たれたかのように震わせた。
「飛鳥、鯉もいないのに、水面がさわさわ揺らいでいるのが見えるわ! 河童ちゃんなのね!」
「河童だけど、本当に見えているのか?」
「うーん、たぶん本体は見えていないけれど、水面に映っている何かがぼんやりと……」
俺は咄嗟に大仏殿の方を見た。まさか、良いものを贈呈とは、俺にではなく水瀬にだったのかと思っていると、頭の中に「その通りだよーん」という間の抜けた返答が返ってきた。
俺にじゃないのかと少々がっかりしつつも、興奮してはしゃぎまくって、顔を真っ赤に上気させて涙目になっている水瀬を見るのは中々ない。なので、良いものを贈呈してもらったと、思わざるを得ないのであった。
その後、河童に絡まれ盛大に迷惑をしたのだが、その姿はやっぱり水瀬に見ることはできなかった。水や鏡に映る、ぼんやりとした姿だけを、ほんの少しだけ捉えることができたのだが、一日でその魔法は解けてしまった。
けれども水瀬は満足そうで、本当に嬉しそうに日記を書いてはしゃぎ疲れて俺のベッドで寝てしまった。水瀬の長年の夢を叶えてあげた大仏様には、今度は水まんじゅうでも持って行こうと、俺は微笑みながらタオルをそっと寝てしまった水瀬にかけた。
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