69 / 74
マイ・スウィート、プリンドリーム
第67話
しおりを挟む
「なんでプリンなのよ?」
開口一番不思議そうに首をかしげる水瀬に向かって、俺はここのプリンがどれほどまでに素材にこだわっていて美味しいかを伝える。案の定食べたいわと言い出し、俺はにやにやしながら、言うことを一つ聞いたら食べさせてやろうと意地悪く提案したのである。
しかし、その提案をしたことを悔いたのはその数秒後。「何偉そうにしてるのよ!」と言いながら、髪の毛を頭皮から全てむしり取られる勢いの強さで引っ張られたものだから、たまったもんじゃない。
するりと悲鳴が喉の奥から漏れ出て、そこに居た鹿たちがぎょっとして美脚を震わせお尻の真っ白な毛をぶわっとさせると、せっせこと退散していく。俺は水瀬の手を乱暴に引っぺがすと、半分涙目になった。
「莫迦やろう! はげたら水瀬のせいだからな! あんまり頭皮をいじめるな!」
それにふんと勝気に鼻を鳴らして、水瀬はつかつかと別方向へと歩いて行く。もはやそのままどこかへ行ってしまえ、と思う気持ちで送り出そうか迷ったのだが、やっぱり放っておくとろくな事にならないのを察して、すぐさま水瀬の腕を掴んで引き戻した。
「一個余分に買ってあるから。水瀬の分だから」
そう伝えると、見るからに嬉しそうに目を輝かせた。最初から意地悪しないでそう言っておけば、この笑顔をもっと早くに見られた上に、髪の毛をむしり取られて、つるっぱげになる予行練習につき合わされることもなかったわけだ。もう二度と、水瀬に意地悪を言うのは止めようと思った。頭皮は大事である。
「だから、届け終わったら木陰で食べよう。な?」
「良いわよ、ちょっと休みましょう」
「どうやっても上から目線なんだな」
俺はため息とともに肩の力が抜けきってしまった。二人で東大寺に着くころには、水瀬の機嫌は見るからに上々で、その証拠に鹿にビビることなく、道を突き進むことができている。近寄って来る鹿の鼻面をちょんと触っていさえいるのだから、プリンは水瀬の好物で間違いない。
そんな観察をしているうちに南大門を通り過ぎ、中門正面まで来ていた。鹿たちが涼しいのか、階段や日陰でうつらうつらしている顔を見ると、どうもこちらまで頭のネジが緩みそうになってしまう。どこでものんびりと過ごしている彼らを見ると、この町は平和だなと思わずにはいられない。
そんなのんびり顔の鹿たちを写真におさめる観光客を横目に、門の前まで来たのだが、大仏様は大変に忙しい様子で、声をかけられるどころの話ではないてんてこ舞いっぷりだった。
そんなに忙しいならプリンくらいいつでも差し入れるのに、と思っていたが、誰に渡せばいいのやらと思ってきょろきょろと辺りを見回した。すると、ぷうらぷうらと、顔の正面に得体のしれないものをぶら下げながら歩いてくる青年がいた。
「あ……!」
俺はその顔の中央に埋め込まれた得体のしれないものが、彼の所持している立派な鼻だと気がつく。歩くたびにユラユラたぷたぷとそれを揺り動かしながら、失恋天狗は俺たちの姿を見つけると笑顔になって駆けよってきた。
開口一番不思議そうに首をかしげる水瀬に向かって、俺はここのプリンがどれほどまでに素材にこだわっていて美味しいかを伝える。案の定食べたいわと言い出し、俺はにやにやしながら、言うことを一つ聞いたら食べさせてやろうと意地悪く提案したのである。
しかし、その提案をしたことを悔いたのはその数秒後。「何偉そうにしてるのよ!」と言いながら、髪の毛を頭皮から全てむしり取られる勢いの強さで引っ張られたものだから、たまったもんじゃない。
するりと悲鳴が喉の奥から漏れ出て、そこに居た鹿たちがぎょっとして美脚を震わせお尻の真っ白な毛をぶわっとさせると、せっせこと退散していく。俺は水瀬の手を乱暴に引っぺがすと、半分涙目になった。
「莫迦やろう! はげたら水瀬のせいだからな! あんまり頭皮をいじめるな!」
それにふんと勝気に鼻を鳴らして、水瀬はつかつかと別方向へと歩いて行く。もはやそのままどこかへ行ってしまえ、と思う気持ちで送り出そうか迷ったのだが、やっぱり放っておくとろくな事にならないのを察して、すぐさま水瀬の腕を掴んで引き戻した。
「一個余分に買ってあるから。水瀬の分だから」
そう伝えると、見るからに嬉しそうに目を輝かせた。最初から意地悪しないでそう言っておけば、この笑顔をもっと早くに見られた上に、髪の毛をむしり取られて、つるっぱげになる予行練習につき合わされることもなかったわけだ。もう二度と、水瀬に意地悪を言うのは止めようと思った。頭皮は大事である。
「だから、届け終わったら木陰で食べよう。な?」
「良いわよ、ちょっと休みましょう」
「どうやっても上から目線なんだな」
俺はため息とともに肩の力が抜けきってしまった。二人で東大寺に着くころには、水瀬の機嫌は見るからに上々で、その証拠に鹿にビビることなく、道を突き進むことができている。近寄って来る鹿の鼻面をちょんと触っていさえいるのだから、プリンは水瀬の好物で間違いない。
そんな観察をしているうちに南大門を通り過ぎ、中門正面まで来ていた。鹿たちが涼しいのか、階段や日陰でうつらうつらしている顔を見ると、どうもこちらまで頭のネジが緩みそうになってしまう。どこでものんびりと過ごしている彼らを見ると、この町は平和だなと思わずにはいられない。
そんなのんびり顔の鹿たちを写真におさめる観光客を横目に、門の前まで来たのだが、大仏様は大変に忙しい様子で、声をかけられるどころの話ではないてんてこ舞いっぷりだった。
そんなに忙しいならプリンくらいいつでも差し入れるのに、と思っていたが、誰に渡せばいいのやらと思ってきょろきょろと辺りを見回した。すると、ぷうらぷうらと、顔の正面に得体のしれないものをぶら下げながら歩いてくる青年がいた。
「あ……!」
俺はその顔の中央に埋め込まれた得体のしれないものが、彼の所持している立派な鼻だと気がつく。歩くたびにユラユラたぷたぷとそれを揺り動かしながら、失恋天狗は俺たちの姿を見つけると笑顔になって駆けよってきた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)
裏社会の何でも屋『友幸商事』に御用命を
水ノ灯(ともしび)
キャラ文芸
とある街にある裏社会の何でも屋『友幸商事』
暗殺から組織の壊滅まで、あなたのご依頼叶えます。
リーダーというよりオカン気質の“幸介”
まったり口調で落ち着いた“友弥”
やかましさNO.1でも仕事は確実な“ヨウ”
マイペースな遊び人の問題児“涼”
笑いあり、熱い絆あり、時に喧嘩ありの賑やか四人組。
さらに癖のある街の住人達も続々登場!
個性的な仲間と織り成す裏社会アクションエンターテイメント!
毎週 水 日の17:00更新
illustration:匡(たすく)さん
Twitter:@sakuxptx0116
まる男の青春
大林和正
キャラ文芸
ほぼ1話完結となってるシリーズモノです
どれから読んでも大丈夫です
1973年生まれのまる男は小学校1年の頃から、ある理由でプロも通うボクシングジムで学校以外、ボクシング漬けだった。そして、中学校、友達に誘われて野球部に入る。運動神経は怪物だけど、常識のだいぶずれた少年と少し奥手な仲間たちの物語である
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
不死議な雑多屋さん
葉野亜依
キャラ文芸
新しいモノから古いモノまで様々なモノで溢れかえっている店『雑多屋』。
記憶喪失の花夜は、雑多屋の店主代理・御空と出会い、雑多屋で働くこととなる。
戸惑いつつも馴染もうとする花夜だが、商品も客も不思議なモノたちばかりで――。
果たして、花夜の正体と御空の秘密とは!?
記憶喪失の少女と雑多屋の青年と不思議なモノたちのふしぎなお話。
農業大好き令嬢は付喪神様と一緒に虐げられスローライフを謳歌していたい
桜香えるる
キャラ文芸
名門卯家の次女・愛蘭(あいらん)は義母や義姉に令嬢としての立場を奪われ、身一つで屋敷から掘っ立て小屋に追いやられ、幼くして自給自足生活を強いられることになる。だがそこで出会った「付喪神」という存在から農業を学んだことで、愛蘭の価値観は転換した。「ああ、農業って良いわあ!」自分が努力しただけ立派に野菜は実り、美味しく食することが出来る。その素晴らしさに心酔した愛蘭は、彼女を苦しめたい家族の意図とは裏腹に付喪神と一緒に自由気ままな農業ライフを楽しんでいた。令嬢としての社交や婚姻の責務から解放された今の生活に満足しているから、是非ともこのままずっと放っておいてほしい――そう願う愛蘭だったが、東宮殿下に付喪神を召喚する場面を見られてしまったことで彼に目をつけられてしまう。っていえいえ、宮中になんて行きたくありませんよ! 私は一生農業に生きていきますからね!
怪しい二人 夢見る文豪と文学少女
暇神
キャラ文芸
この町には、都市伝説が有る。
「あるはずのない電話番号」に電話をかけると、オカルト絡みの事件ならなんでも解決できる探偵たちが現れて、どんな悩み事も解決してくれるというものだ。
今日もまた、「あるはずのない電話番号」には、変な依頼が舞い込んでくる……
ちょっと陰気で売れない小説家と、年齢不詳の自称文学少女が送る、ちょっぴり怖くて、でも、最後には笑える物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる