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マイ・スウィート、プリンドリーム

第67話

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「なんでプリンなのよ?」

 開口一番不思議そうに首をかしげる水瀬に向かって、俺はここのプリンがどれほどまでに素材にこだわっていて美味しいかを伝える。案の定食べたいわと言い出し、俺はにやにやしながら、言うことを一つ聞いたら食べさせてやろうと意地悪く提案したのである。

 しかし、その提案をしたことを悔いたのはその数秒後。「何偉そうにしてるのよ!」と言いながら、髪の毛を頭皮から全てむしり取られる勢いの強さで引っ張られたものだから、たまったもんじゃない。

 するりと悲鳴が喉の奥から漏れ出て、そこに居た鹿たちがぎょっとして美脚を震わせお尻の真っ白な毛をぶわっとさせると、せっせこと退散していく。俺は水瀬の手を乱暴に引っぺがすと、半分涙目になった。

「莫迦やろう! はげたら水瀬のせいだからな! あんまり頭皮をいじめるな!」

 それにふんと勝気に鼻を鳴らして、水瀬はつかつかと別方向へと歩いて行く。もはやそのままどこかへ行ってしまえ、と思う気持ちで送り出そうか迷ったのだが、やっぱり放っておくとろくな事にならないのを察して、すぐさま水瀬の腕を掴んで引き戻した。

「一個余分に買ってあるから。水瀬の分だから」

 そう伝えると、見るからに嬉しそうに目を輝かせた。最初から意地悪しないでそう言っておけば、この笑顔をもっと早くに見られた上に、髪の毛をむしり取られて、つるっぱげになる予行練習につき合わされることもなかったわけだ。もう二度と、水瀬に意地悪を言うのは止めようと思った。頭皮は大事である。

「だから、届け終わったら木陰で食べよう。な?」

「良いわよ、ちょっと休みましょう」

「どうやっても上から目線なんだな」

 俺はため息とともに肩の力が抜けきってしまった。二人で東大寺に着くころには、水瀬の機嫌は見るからに上々で、その証拠に鹿にビビることなく、道を突き進むことができている。近寄って来る鹿の鼻面をちょんと触っていさえいるのだから、プリンは水瀬の好物で間違いない。

 そんな観察をしているうちに南大門を通り過ぎ、中門正面まで来ていた。鹿たちが涼しいのか、階段や日陰でうつらうつらしている顔を見ると、どうもこちらまで頭のネジが緩みそうになってしまう。どこでものんびりと過ごしている彼らを見ると、この町は平和だなと思わずにはいられない。

 そんなのんびり顔の鹿たちを写真におさめる観光客を横目に、門の前まで来たのだが、大仏様は大変に忙しい様子で、声をかけられるどころの話ではないてんてこ舞いっぷりだった。

 そんなに忙しいならプリンくらいいつでも差し入れるのに、と思っていたが、誰に渡せばいいのやらと思ってきょろきょろと辺りを見回した。すると、ぷうらぷうらと、顔の正面に得体のしれないものをぶら下げながら歩いてくる青年がいた。

「あ……!」

 俺はその顔の中央に埋め込まれた得体のしれないものが、彼の所持している立派な鼻だと気がつく。歩くたびにユラユラたぷたぷとそれを揺り動かしながら、失恋天狗は俺たちの姿を見つけると笑顔になって駆けよってきた。
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