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純情恋慕は、胸の内
第52話
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『この子は見えてないけど、お兄さんは見えてんのやろ?』
突如一本だたらに話しかけられて、俺はちらりと水瀬を見てからそうだと答える。一本だたらはこくこくと、満足そうに頷いた。
大きな一つ目に大きな一本足で、大きさは大きいと書かれてたのだが想像よりも小柄なようだ。といっても、通常の人間に比べれば二倍か三倍ほどの巨体なのだが、十メートルもあるかと言われれば、そうでもなかった。
『お兄さんが木霊が騒いどったお兄さんやな。何やらプロポーズがうんたれかんたれ……』
「木霊のやろう、いつか樹から抜け出して来ようものなら、盛大にどつき回してやるぞ。とんでもない噂をこの界隈に広げやがって」
俺が憎々しげにそう言うと、一本だたらはほっほっほと笑いながら大きな一つ目を瞬かせた。
『木霊だけやない。河童も騒いどっだなぁ。あとは大仏さんも』
「何だって言うんだ、この界隈の妖怪やら神様は! 俺に何か恨みがあるのか」
『ここに居るとな、よお聞こえんねん。わしはそれを聞くのが心地よくてな、ここに座ってんねんけど、最近はもっぱらお兄さんの噂でもちきりや』
「そんな特別待遇嬉しくない」
それに一本だたらはにこにこしながら水瀬のことを指さす。
『ええお嬢さんやないの。お兄さんのことほんまに好きみたいやし、大事にした方がええよ』
そう言われて俺はものすごい形相で水瀬を見て、水瀬が俺のその顔にぎょっとして、顔をしかめるだけにとどまらず身体まで震わせた。
決して俺の顔が化け物じみているとか、そういう話ではないと信じている。だが、もし化け物じみていると思うのであれば、やっぱり文句は両親に……以下略、である。
「飛鳥。どうしたのそんな顔して……?」
「いや、何でもない。一本だたらが変なことを言うもんだから」
「何? 何を言われたの?」
「……教えない」
俺は半眼でこれ以上何も追及するなよ、と水瀬に釘を刺してから、一本だたらをもう一度見つめる。
「一本だたら、それは、本当の話か? だってめちゃくちゃ俺の扱い雑だし、気がつくと嫌味しか言わないんだぞ」
『ほんまほんま。妖怪は嘘つかへん』
「いや、河童は嘘つきだぞ!」
『まあ河童はおいておいて。ほんまや、聞いてみたらええ。答えてくれるかはわからんけどな』
「答えないだろうな、どう考えても」
『ええなあ。愛や、愛。アオハルやわあ』
どこかの金ぴかの大仏様にも、同じようなことを言われたような気がするのであるが、俺は一ミクロンも納得できないまま、顔をゆがめて盆地の絶景を見た。
『ええやないの。結婚しなかったら、子子孫孫十代先まで呪うくらいに重たいくらいが丁度ええよ』
「何だそのおっかない愛情は! いらないぞ、そんなもの」
ふふふと一本だたらは笑いながら今度は立ち上がると大きく伸びをして、「ほな、またな」と言うと、大きな足でぴょーんぴょーんと跳ねて消えてしまった。
水瀬が会話の内容を追求してきたのを、大いにかわしつつ絶景を見ていたのだが、あまりにもしつこく聞いてくるので俺はため息を吐いた。
「水瀬、俺とつきあう?」
冗談で聞いたつもりのその瞬間、水瀬の顔がみるみるうちに真っ赤になった。紅葉の季節にはまだ早いぞ、というくらいの紅さだったので、それを見て俺の方が夕焼けのように赤くなり、無言のまま何やら奇妙な距離感を保って下山した。
その日の夜、俺はやっぱり眠りにつくことができず、ドキドキと高鳴る心臓をポンコツと呪いつつも、結局は眠ることができずに運命のいたずらに悪態をつきながら長い夜を過ごすことになったのだった。
突如一本だたらに話しかけられて、俺はちらりと水瀬を見てからそうだと答える。一本だたらはこくこくと、満足そうに頷いた。
大きな一つ目に大きな一本足で、大きさは大きいと書かれてたのだが想像よりも小柄なようだ。といっても、通常の人間に比べれば二倍か三倍ほどの巨体なのだが、十メートルもあるかと言われれば、そうでもなかった。
『お兄さんが木霊が騒いどったお兄さんやな。何やらプロポーズがうんたれかんたれ……』
「木霊のやろう、いつか樹から抜け出して来ようものなら、盛大にどつき回してやるぞ。とんでもない噂をこの界隈に広げやがって」
俺が憎々しげにそう言うと、一本だたらはほっほっほと笑いながら大きな一つ目を瞬かせた。
『木霊だけやない。河童も騒いどっだなぁ。あとは大仏さんも』
「何だって言うんだ、この界隈の妖怪やら神様は! 俺に何か恨みがあるのか」
『ここに居るとな、よお聞こえんねん。わしはそれを聞くのが心地よくてな、ここに座ってんねんけど、最近はもっぱらお兄さんの噂でもちきりや』
「そんな特別待遇嬉しくない」
それに一本だたらはにこにこしながら水瀬のことを指さす。
『ええお嬢さんやないの。お兄さんのことほんまに好きみたいやし、大事にした方がええよ』
そう言われて俺はものすごい形相で水瀬を見て、水瀬が俺のその顔にぎょっとして、顔をしかめるだけにとどまらず身体まで震わせた。
決して俺の顔が化け物じみているとか、そういう話ではないと信じている。だが、もし化け物じみていると思うのであれば、やっぱり文句は両親に……以下略、である。
「飛鳥。どうしたのそんな顔して……?」
「いや、何でもない。一本だたらが変なことを言うもんだから」
「何? 何を言われたの?」
「……教えない」
俺は半眼でこれ以上何も追及するなよ、と水瀬に釘を刺してから、一本だたらをもう一度見つめる。
「一本だたら、それは、本当の話か? だってめちゃくちゃ俺の扱い雑だし、気がつくと嫌味しか言わないんだぞ」
『ほんまほんま。妖怪は嘘つかへん』
「いや、河童は嘘つきだぞ!」
『まあ河童はおいておいて。ほんまや、聞いてみたらええ。答えてくれるかはわからんけどな』
「答えないだろうな、どう考えても」
『ええなあ。愛や、愛。アオハルやわあ』
どこかの金ぴかの大仏様にも、同じようなことを言われたような気がするのであるが、俺は一ミクロンも納得できないまま、顔をゆがめて盆地の絶景を見た。
『ええやないの。結婚しなかったら、子子孫孫十代先まで呪うくらいに重たいくらいが丁度ええよ』
「何だそのおっかない愛情は! いらないぞ、そんなもの」
ふふふと一本だたらは笑いながら今度は立ち上がると大きく伸びをして、「ほな、またな」と言うと、大きな足でぴょーんぴょーんと跳ねて消えてしまった。
水瀬が会話の内容を追求してきたのを、大いにかわしつつ絶景を見ていたのだが、あまりにもしつこく聞いてくるので俺はため息を吐いた。
「水瀬、俺とつきあう?」
冗談で聞いたつもりのその瞬間、水瀬の顔がみるみるうちに真っ赤になった。紅葉の季節にはまだ早いぞ、というくらいの紅さだったので、それを見て俺の方が夕焼けのように赤くなり、無言のまま何やら奇妙な距離感を保って下山した。
その日の夜、俺はやっぱり眠りにつくことができず、ドキドキと高鳴る心臓をポンコツと呪いつつも、結局は眠ることができずに運命のいたずらに悪態をつきながら長い夜を過ごすことになったのだった。
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