45 / 74
気弱な天狗の、恋の治療
第43話
しおりを挟む
というわけで電車に乗って、駅に降り立つ。水瀬は初めてだったらしく、辺りをきょろきょろと見渡しながら、どこに天狗がいてもいいようにと身構えている。だが、こんな人混みの中に天狗なんぞ居るもんかと、俺は口を曲げたまま歩いた。
一反木綿は俺の首周りが気に入ったらしく、水瀬に巻き付けばいいものを俺に巻きつくので理由を尋ねると、話せる人の方が面白いという単純な理由だった。
それに、女子の長い髪の毛はくすぐったいらしい。そんな薄っぺらい身体にも、触感があるのかとしみじみ思ってしまった。
そんなこんなで歩いていると、平城宮跡への入り口が現れる。入口と言っても、端っこの端っこなわけで、そこからさらに嫌というほどに歩かなければ朱雀門まではたどり着かない。
今でこそ何もないのだが、数千年ほど昔は都だったわけで、そう簡単に都の端から端までを行き来できてしまったら、人が住むには狭すぎるということになる。
未だに発掘作業をしている現場も近くにあり、ここに本当に人が住んでいたのかと疑いたくなるようなだだっ広さの中は、入り口近くが自然公園のような雰囲気になっている。犬を連れて散歩する人や、ジョギングをする人たちがぼちぼち見えた。
「さーあ水瀬。ここなら迷っても大丈夫だ。迷うはずはない、朱雀門までは一直線だからな」
そう自慢げに言い放った俺の腕の皮を、ほんのちょっぴりだけつまむという、悪魔しかできない技で俺を痛めつけてから、水瀬は口を尖らせて恨めしそうに上目遣いで見つめてきた。
「そんな顔するなよ。いつも迷うじゃんか」
「道が言うことを聞かないのよ」
「だからそれを人は、方向音痴とか迷子と言うんだ!」
もうこのやり取りも散々してしまって、漫才の練習かと思ってしまったのだが、今現在お笑いグランプリに出る予定はない。万が一出たとして、そして億が一優勝したとして、その賞金は水瀬の懐に一円たりとももれなくしまい込まれてしまうといことは、まごうことなき宇宙の法則の一つだった。
『ほな、わしが先に行って見てきてあげますわ』
そう言うと一反木綿は俺の首からはらりと離れると、ビュンと疾風の如くの速さで朱雀門まで飛んでいって、あっという間に見えなくなってしまった。
「行きましょう。ぐずぐずしていると、日が暮れちゃうわ」
「水瀬が道に迷わなければすぐ終わる」
それに思いっきりつねられて俺は悲鳴を上げた。水瀬はそんな俺にお構いなしに、腕を巻き付けて引っ張るようにして進んだ。つねられ損である。
真っ直ぐで何もないただただただ広いだけの道を、俺は主に水瀬への恨み辛みをやんわりとオブラートに包みながらも、ひたすらに丁寧に申し上げ奉りそうろうした。
対する彼女は俺のことは、ほぼ無視だ。空気と思っているに等しく、全く聞く耳を持たずに妖怪のことを話すわけで、朱雀門に到着したときには一体何の話をしていたのか誰にも何も分からなかった。
「ずいぶん大きいのね」
「まあ、門だからな。それも、古代の都の門なわけだし、立派じゃないわけにはいかないだろ?」
「それもそうね。ところで、天狗はどこにいるのかしら?」
それに俺と水瀬がきょろきょろしていると、屋根の上からぬーんと一反木綿が顔を出して『こっちやでー』とガラガラのだみ声で呼んできた。
一反木綿は俺の首周りが気に入ったらしく、水瀬に巻き付けばいいものを俺に巻きつくので理由を尋ねると、話せる人の方が面白いという単純な理由だった。
それに、女子の長い髪の毛はくすぐったいらしい。そんな薄っぺらい身体にも、触感があるのかとしみじみ思ってしまった。
そんなこんなで歩いていると、平城宮跡への入り口が現れる。入口と言っても、端っこの端っこなわけで、そこからさらに嫌というほどに歩かなければ朱雀門まではたどり着かない。
今でこそ何もないのだが、数千年ほど昔は都だったわけで、そう簡単に都の端から端までを行き来できてしまったら、人が住むには狭すぎるということになる。
未だに発掘作業をしている現場も近くにあり、ここに本当に人が住んでいたのかと疑いたくなるようなだだっ広さの中は、入り口近くが自然公園のような雰囲気になっている。犬を連れて散歩する人や、ジョギングをする人たちがぼちぼち見えた。
「さーあ水瀬。ここなら迷っても大丈夫だ。迷うはずはない、朱雀門までは一直線だからな」
そう自慢げに言い放った俺の腕の皮を、ほんのちょっぴりだけつまむという、悪魔しかできない技で俺を痛めつけてから、水瀬は口を尖らせて恨めしそうに上目遣いで見つめてきた。
「そんな顔するなよ。いつも迷うじゃんか」
「道が言うことを聞かないのよ」
「だからそれを人は、方向音痴とか迷子と言うんだ!」
もうこのやり取りも散々してしまって、漫才の練習かと思ってしまったのだが、今現在お笑いグランプリに出る予定はない。万が一出たとして、そして億が一優勝したとして、その賞金は水瀬の懐に一円たりとももれなくしまい込まれてしまうといことは、まごうことなき宇宙の法則の一つだった。
『ほな、わしが先に行って見てきてあげますわ』
そう言うと一反木綿は俺の首からはらりと離れると、ビュンと疾風の如くの速さで朱雀門まで飛んでいって、あっという間に見えなくなってしまった。
「行きましょう。ぐずぐずしていると、日が暮れちゃうわ」
「水瀬が道に迷わなければすぐ終わる」
それに思いっきりつねられて俺は悲鳴を上げた。水瀬はそんな俺にお構いなしに、腕を巻き付けて引っ張るようにして進んだ。つねられ損である。
真っ直ぐで何もないただただただ広いだけの道を、俺は主に水瀬への恨み辛みをやんわりとオブラートに包みながらも、ひたすらに丁寧に申し上げ奉りそうろうした。
対する彼女は俺のことは、ほぼ無視だ。空気と思っているに等しく、全く聞く耳を持たずに妖怪のことを話すわけで、朱雀門に到着したときには一体何の話をしていたのか誰にも何も分からなかった。
「ずいぶん大きいのね」
「まあ、門だからな。それも、古代の都の門なわけだし、立派じゃないわけにはいかないだろ?」
「それもそうね。ところで、天狗はどこにいるのかしら?」
それに俺と水瀬がきょろきょろしていると、屋根の上からぬーんと一反木綿が顔を出して『こっちやでー』とガラガラのだみ声で呼んできた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる